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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第5章 王都
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71.投獄

 背中に硬く不快な感触を覚え、俺は目を覚ます。

 視界に映ったのは、暗く不気味な石造りの小部屋。

 奥の廊下につながる扉は、太い鉄格子で作られていた。

 動くものは、蝋燭の炎がただ淡くゆらめくのみ。


 一刻も早くこの空間から抜け出したいという不安と焦りに駆られ、俺は立ち上がる。

 うまく力が入らない。

 ふらふらと左右に揺れながら、俺は何とか立ち上がる。

 そして、鉄格子の降りた扉に向かって歩き出す。


 その瞬間、俺の体は後ろに引っ張られた。

 踏ん張ることも叶わず、俺は声にならない声を上げながら背中を壁に打ちつける。

 じわじわと痛みが全身に伝わる。


 痛みに頭がまともな稼働を始めると、状況を理解するのは容易だった。

 両手首の硬い感触。

 振り返れば、頑丈な鎖が壁から伸び、そして俺の両腕へと繋がれていた。


 俺は投獄されたのだ。


 リーデマンは俺に極秘の計画を話し協力を迫った。

 だが、俺はそれを断った。

 もし俺が通報すれば、リーデマンの計画はたちまちのうちに白日のもとに晒され、彼は反逆罪で縛り首だ。

 それは何としてでも避けなければならない。


 なら、奴がこの後何をするつもりなのかは明白だ。

 死人に口なし、巧妙に事故や他人の仕業を装って殺害する。

 疑われはするだろうが、この世界にまともな捜査技術があるとは思えない。

 リーデマンに、俺を生かしておく理由はもはやない。

 いい計画がまとまれば、俺はすぐにでも殺されるだろう。


 脱出など不可能だ。

 体を巡る魔力の流れは先ほどまで以上に乱され、魔法どころかただ動くことすら難しい。

 手枷を破壊したうえ頑丈な鉄格子を破り、そして張り巡らされた結界と油断なき監視の目を突破する。

 万全な状態ですら不可能に思えるこの手順を、今の俺が踏めるわけがない。


 まあ、魔法か何かで俺の記憶を消し去り、解放してくれる可能性もゼロではない。

 だとすれば、少しでも神妙な雰囲気を演じるのが吉か。

 せっかく温情をかけようとしていたのに、無理な脱出を企てて翻意されたら本末転倒だ。

 まだ空腹も喉の渇きもそれほどではない。

 向こうからアプローチがあるまで、大人しくしていよう。


 その時、隣から呻き声が。

 先客かと思いながら見やると、玖珠田が俺と同じような状態で苦しげな表情を浮かべていた。

 悪夢でも見ているのだろうか。

 それ以外に見るものもないので見つめていると、やがて目ぶたがゆっくりと開かれた。


「ん……ここは?」

 玖珠田がこちらに気づく様子はない。

 半ば寝ぼけたような緩慢な動作で立ち上がると、前に一歩踏み出す。

 そして、俺と同じ轍を踏んだ。


「えっ──ああっ!」

 頭を思いっきり壁に打ちつけた玖珠田は、悲鳴を上げるとへなへなと座り込む。

「……何よこれ、どうなってるの……?」

 腕を上下左右に動かし鎖をガチャガチャと鳴らしたり、前に進んで鎖を壁から引っこ抜こうとしたりと、玖珠田は必死の脱出を試みる。

 本人としては至って真剣なのだろうが、一周回って冷静になった後で外野から見ると、その姿は何とも滑稽なのであった。


 一通り試して、自らを解放することは不可能だと悟ったのだろうか。

 玖珠田はやがて小さくため息をつくと、脱力して背中を壁に預ける。

「……何なのよ、あの貴族の仕業なの? 何でこんな……」

 ここで絶望せずに、すぐ悪態をつき始めるのは玖珠田らしい。


 ……と思ったら、言葉はそこで途切れた。

 俯いた玖珠田の頬を、一筋の涙が伝う。

 その顔は、紛れもない不安と恐怖に染め上げられていた。



「助けてよ、神埼……」


 玖珠田はそう呟くと、嗚咽を漏らす。

 ……いや俺に言われましても。

「残念、俺にもお手上げだ。魔法が封じられたんじゃどうしようもないな」

 答を返すと、玖珠田は一瞬驚きに目を見開く。


「……いたの? 神埼」

 いや気づいてなかったのかよ!

 じゃあどうして俺に助けを求めた。

「最初からいたわ。お前のなっさけない姿も全部この目で見てやったさ」

「なっ!? そんな、なっさけない姿って……」

 玖珠田の顔が、赤く染まる。

 この非常事態に恥ずかしいも何もあったもんじゃないとは思うが。


「……とにかく、脱走は現実的じゃない。食事がもらえるかも分からんし、少しでもエネルギーを残しておくのが吉だ。ということで俺は寝る」

 このままだと玖珠田にあれこれうるさく言われそうなので、さっさと会話を切る。

 流石の彼女も怒る気力がないのか、聞こえよがしなため息をついた後は何も聞こえてこなかった。



 * * *



 先日の魔王軍との戦いで大戦果をあげた、アルトの冒険者たち。

 彼らは王都での歓待を受け、日々を幸せに過ごしている。

 だがその中に一人、不安に気を揉んでいる少女がいた。


「……しーちゃん、どうしてるんだろ」

「確かに、ここまで帰りが遅いと不安だよね。……まあ、そのうち帰ってくるんじゃない?」

「そうかなぁ……」

 親しい友人と話していても、少女の心が晴れることはなかった。


「……ごめん、さくら。やっぱり今日はむりかも……。帰るね」

「……うん、わかった。でもあんまり思いつめないでね?」

 友人を置き、少女は自室へと戻っていった。


 少女の悩みの種は、貴族との決闘に赴き、帰ってこない者のこと。

 優秀な修道士(プリースト)もついているから、誤って死んでしまったなどあり得ないと分かっている。

 その貴族は評判もよく、少女の心配など杞憂に過ぎないと誰もが思っていた。

 だが少女は、どうしてもそう自分を納得させることができないでいた。


 少女の名は、三城茉里。

 とある人物からは、いつも底抜けに明るくて考えなしと評されている人物だ。

 だがこの数日間は、変わり果てた様子でいる。


「……やっぱり、おかしい」

 三城の心の中で、不安は疑いへと昇華した。

「4日も帰ってこないなんて……。ぜったい何かにまきこまれてる」

 疑いは確信へ。


 自室を飛び出し、三城は再び友人のもとへと走っていく。

「さくら! いっしょに行こうよ、しーちゃんのとこまで」

「えぇっ!? やめておいた方がいいって。捕まっちゃうよ」

「でも……っ!」

 溢れる思いを言葉にすることができず、三城は歯を食いしばる。

 泣き声をあげることなく、ただ大粒の涙が自身の顔を濡らす。


「まり、私も行く。絶対に何かが起こってる、よくないことが」

 三城に声をかけたのは、土岐枝千尋。

 彼女もまた、この事態に不安をおぼえていたのだ。


「神埼がトラブルに遭ってんなら、友達として助けに行かねえとな。俺も手伝うぜ」

「私も協力するよ。神埼くんは、私たちの大切な仲間だもんね」

 井川翔と、日比野美月。

 頼もしい戦力の登場に、希望が三城の心に光を灯す。


「今日は作戦を立てて、明日戻ってこなかったら作戦実行。それでいいかな?」

 日比野の提案に、皆が賛意を示す。

「他にも誰か参加してくれないか、聞いた方がいいかな? 清水くんとか」

「いや、あんまり人が多いと目立つし、この方がいいんじゃねえか?」

 作戦会議は進み、たちまちのうちに時間は過ぎていった。




 結局、その翌日になっても状況は変わらなかった。

「ここが、貴族リーデマンの屋敷か。でけえな」

「なんか不気味だね……。でも、行かなくちゃ」

 闇に紛れ、4つの影が巨大な邸宅の前に潜む。


「よし、行こう」

 4つの影は、歩を進める。

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