↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第5章 王都
PR
73/80

70.追い込まれました

 リーデマンの叫びを受けて、屋敷の者たちが一斉に向かってくる足音。

 それは俺をどうしようもなく焦らせた。

「閣下、何事でございますか!」

 考える暇もなく、腰に剣を携えた騎士たちが部屋に押し入ってくる。

「彼に突然襲われた。捕えろ!」

 反論しかけるも、それは無意味だとすぐに思い直す。

 この場に味方はいない。全員がリーデマンの支配下にあるのだ。


 ここまで大人数の、しかも武装した者たちを相手に勝利など不可能だ。

 咄嗟にテーブルの下に潜り込む。

 相手は大柄、わずかな時間稼ぎにはなるだろう。

 剣を生成し、死角から攻撃するか……。


 ん?

 俺は、普段と同じ魔力操作に違和感をおぼえる。

 スムーズに手先へ、杖へと集まるはずの魔力が言うことを聞かない。

「閣下、奴は魔術師(ウィザード)なのでしょう? ならば恐るるに足りませぬ。この屋敷全体を覆う結界は、侵入者の魔術をかき乱します。奴は手も足も出せませぬ」

「……そのようだな。さすがはスミス、お前の結界は素晴らしい」

 リーデマンは、こちらが何一つできないのを確認すると、スミスというらしき銀髪の部下に賞賛を贈る。


「奴は袋の鼠だ! テーブルを囲め、逃がすなよ!」

 しまった、隠れたのは悪手だった。

 さっさと窓を割って逃げればよかったものを。

 今や俺は剣を構えた騎士たちに囲まれた哀れな獲物。

 どうしたものか……。


 その時、部屋に駆け込んできた騎士が朗報を告げる。

「閣下、アリスティアお嬢様のお姿が見えませぬ!」

「何!? ……すぐに捜せ、ここにいる者も向かうんだ!」

 リーデマンの指示に、俺を包囲していた騎士のうち数人が食堂を出てゆく。

 残る者たちも、そちらに意識を奪われているらしい。


 今しかない!

「うおおおおおっっ!!」

「なっ、何を──ぐあっ!」

 俺は地面を蹴って走り出すと、目の前の騎士の腹に杖をめり込ませる。

 騎士は窓に激突し、窓は鋭い音を立てて砕け散った。

 背中に刺さったガラスの痛みに悶える騎士を踏みつけ、俺は先ほど決闘した庭に走り抜ける。


「追えーーっ! 魔術師はまだか、奴の動きを封じるのだ!」

「今はお嬢様の捜索に駆り出されている、我らで捕えるしかない!」

 後ろから聞こえる会話は、状況が好転したことを示している。

 重い剣をぶら下げた騎士が俺に一瞬で追いつけるとは思えない。

 このまま一直線に敷地を抜け、天下の公道へ大脱出──


「安心しろ、奴とてこの邸宅を覆う結界からは逃れられまい!」

 後ろで声を張り上げる騎士の言葉に、俺は意識が飛びそうになる。

 当たり前だ。ここまで厳重な警備を行っているリーデマンが、虫1匹通さぬ物理結界を張ることに思い至らないわけがない。

 だとするなら、この広大な庭のどこかに身を隠さねば。


「隠遁(シャドウルーク)!」

 広々とした庭の中でもひときわ目立つ、一本の大樹。

 その木陰に。俺は迷わず飛び込んだ。

 屋敷の外は問題なく魔法が使えるようで、地面に顔からぶつかることはなかった。


「おい、消えたぞ!」

「茂みの中も木の上も、苔の裏に至るまで調べ尽くせ!」

 騎士たちは庭中に散らばり、辺りを捜し始める。

 幸いなことに、たとえ土を全て掘り返されたとしても俺は見つからない。

 原理は不明だが、俺は今、異空間の類に入り込んでいるようなのだ。


 このまま日が暮れて、騎士たちが諦めるまで待ってから、門から逃げることにしよう。

 そこを通ってこの異常な屋敷へと入ってきたのだ、きっと出ることもできるはず。

 淡い期待をしながら、外の様子を伺っていると。


「ちょっと、離しなさいよ! 何のつもりなの?」

「隊長殿、中庭にいた女を捕らえました! おそらくは奴の仲間だと思われます!」

 屋敷の方から、騎士がやってきた。

 その横には、お縄にかかった玖珠田。


「そうか。準備ができ次第、屋敷内で尋問しろ。

 ……いや、ちょっと待て」

 隊長は、邪悪な笑みを浮かべる。

「何があったのか説明してよ、私はいちおう客なんだから──」

 不満を述べる玖珠田の腹を、隊長は蹴飛ばした。

 地面に倒れ込んだ玖珠田は、さらなる蹴りを受けて声にならない声をあげる。


 ……これあれか、投降しろ、こいつがどうなってもいいのか的な奴か。

「見ているんだろう、曲者め! 今すぐに出てこい、さもなくば貴様の連れが地獄を味わうぞ!」

 俺の推測を裏付けるかのように、隊長が声を張り上げる。


 見る間に玖珠田は十発を超える打撃を受けた。

 あの状態では、とても自分に回復魔法をかけることなどできない。

 リーデマンがどういう人間なのか分からないが、絶対に殺さないという保証はないのだ。

 黙って見ているわけにもいかなくなってきたようだ。


 魔力操作は問題ない。

 俺は杖の先をわずかに出し、屋敷のほう、もっと言えば屋敷の反対側に狙いをつける。

「『火炎旋風』っ!」

 杖の先から飛び出したのは、全てを焼き尽くす業火ではなく、煙のような魔素の塊。

 同じ魔法でも、イメージするものを変えれば大きく変化する。

 その特性を最大限に活かした形だ。


 魔素は誰にも気づかれることなく、放物線を描いて屋敷を越え、反対側の地面に溜まっていく。

 今だ!

 轟音とともに、屋敷の背後から火の手が上がった。

「奴の仕業だ! 捕えろ、逃がすなっ!」

 騎士たちは盛大に騙され、一斉に屋敷の方へと駆けていく。


 俺は周りに屋敷の者がいなくなったのを確認すると、大樹の影から出る。

 ひとまずは、玖珠田を救出せねば。

 道の真ん中で倒れ、全身から出血している玖珠田に駆け寄ると、テコの原理で背中に背負う。

「あ……あんたねぇ、私が酷いことされてるの横目で見てたわけ? 薄情にもほどがあるわよ……」

「あの状況でのこのこ出ていく馬鹿がいるか。さっさとこのお化け屋敷から逃げ出すぞ」

 流石に反論はなかった。


 微かに「どこへ行った!」とか「この近くにいるはずだ!」とか聞こえてくるから、まだ陽動作戦だとバレてはいないようだ。

 繊細な装飾が施された、金属製の門。

 期待していなかったが、幸運なことにその門は開け放たれていた。

 俺は一切の躊躇なく、門を通り抜ける。



 その瞬間、体中に雷のような痛みが走る。

 直後に全身の筋肉が硬直し、俺はなすすべなく転倒した。

 しまった、門が開いていたことを疑うべきだったか。


「いたぞ!」

「結界は門にもかかっている。それに気づかないとは愚かな奴め」

 屈強な男に足首を掴まれ、引き摺られていくのを感じる。

 同時に、俺の意識は闇へと飲み込まれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。