7.町につきました
川向こう組も帰還し、調査も一段落した頃。
モンスターのうじゃうじゃいるであろう洞窟。
その対策について、激しい議論が始まった。
「いつモンスターの大群が来るかもわからない。奇襲を仕掛けてさっさと倒そう」
「カエル1匹であの強さだぜ、勝てるわけねえよ!」
「そもそも、本当にあの洞窟に何かいるわけ?」
「もしかしたら、洞窟の主が罠を仕掛けたのかも。のこのこ入って行ったら餌食になる」
議論は紛糾し、決着がつく頃には太陽が真上に登っていた。
「洞窟には行かない代わりに、拠点を守るための柵を作るってことでいいんだね。じゃあ、みんな枝を集めてくれるかな?」
異世界に来てから、戦闘と枝集めしかしてない気がするのは気のせいだろうか。
泊が大人しく従ってくれたので、比較的早く集まった。
しばらくして、3重の強固な柵が完成した。
柵の上は鋭利に尖らせてある。モンスターも飛び越えるのを躊躇することだろう。
こうして、拠点は一歩安全に近づいた。
しかし、安全と引き換えに、新たな問題が露呈してきた。
「……あちい」
そう、暑さである。
もとより高温多湿の森の中で、戦闘、探索、採集、建築といくつもの肉体労働をこなした。
重労働と言って間違いないだろう。
川はあるものの、着替えがない以上満足に涼むこともできない。
まあ、幾らかの男子は気にせず飛び込もうとした。
が、女子たちに睨まれ制止された。
「水をたくさん飲んで。塩分補給に、この実も食べてね」
日比野が集めてきた小さな実を口にすると、なるほど塩味がある。
豊富な川の水を飲めば、喉の渇きも少しはマシになった。
が……。
女子たちの悲鳴が聞こえた。
見ると、数人の男子が上裸になっている。
まあ無理もない。
汗がベットベトについた服は、とても気持ちが悪いものだ。
俺は汗をあまりかかない体質なのでそこまで気にはならないが、同情する。
日比野もその背景を理解してか、そこまで強く出ることもなかった。
「……おい、何か来るぞ!」
服を脱ぎかけていた井川が、そう言いながら慌てて槍を構える。
皆も慌てて槍を取りに戻る。
足音がだんだん大きくなってくる。
俺たちは一斉に槍を構え、敵と思わしき存在を取り囲もうと動く。
「この辺で目撃情報が……ってうわあ!」
ん? 人の声?
俺たちは槍を投げ捨て、警戒心を緩める。
「野蛮人だ! は、早くギルドに報告を──」
「待って、こちらを敵とは思っていないみたいよ。それに、食べ物も見当たらないし、後ろに見える建物もボロボロ。きっと遭難したのよ」
踵を返して走り去ろうとする矢筒を背負った男の襟首を掴み、とんがり帽子を被り、杖を持った女がこちらの状況を推測する。
ま、おおかた正解だ。
「君たち、こんなところでどうしたんだ?」
鎧に身を包み、黒髭を生やした屈強な男がこちらに歩み寄る。
「えっと、森で道に迷ってしまい……」
日比野が答える。まあ、異世界から来たって言っても信用してもらえないだろうな。
「それは大変ね。アーツ、彼らを町まで送ってあげましょう」
魔法使いっぽい女は、アーツと呼ばれた鎧の男に促す。
「いやあ、まさかケルベロス討伐のクエスト中に人助けができるとは思いませんでした。これも何かの縁でしょうなあ」
自らをフロンと名乗った、白と青の司祭のような服をまとった男が、感慨深げに呟く。
「ケルベロス? それなら、昨日……」
「き、君たち、ケルベロスに会ったのか!?」
井川の言葉に、アーツが慌てたような声で言う。
「は、はい。20頭くらい……」
「「20頭!!?」」
4人が飛び上がった。
「は、早くギルドに報告しないと! 急ぐぞ!」
弓矢使いのカールが走り出す。
俺たちも、それを追って走り始めた。
1時間ほど歩くと、木々が視界から消え、大きな平原が目に飛び込んでくる。
そして、城壁に囲まれた大きな町。
「す、すげえ!」
皆の口から、思わず驚嘆の言葉が漏れる。
「あれが私たちの暮らす町、アルトよ。5万人が住む大都市」
魔法使いのレインが、嬉しそうに言う。
整備された道を進み、まもなく城壁へと辿り着いた。
アーツがカードのようなものを見せると、番人は通してくれた。
後ろから30人も出てきたので、飛び上がっていたが。
分厚い城壁をくぐり目を開けると、そこには信じられないような光景が広がっていた。
ヨーロッパを彷彿とさせる、石造りの建物。
ところどころにある出店は、食べ物や謎の小物、物騒な武器まで売っている。
そして、たくさんの人。
この町には、賑わいと活気がある。
「ほ、本物だ!」
野口と若山が、興奮を抑えきれないような口調ではしゃぐ。
他の人たちも、テンションが上がっている。
「さて、アルトに着いたはいいけれど、あなたたち、寝泊まりするところがないものね」
そういえばそうだ。これからどうしていこう。
「ま、今日は俺たちが宿を貸してやる。別に貸しにはしねえから、気にしなくていいぞ」
「あ、ありがとうございます!」
カールが気前よく、俺たちの寝床をくれた。
リーダーはあなたじゃない気がするのだが……。
しかし、今の俺たちにとってこれほどありがたいことはない。
ここは甘えさせていただこう。
その後、俺たちはパーティーの人たちの厚意で、入浴や食事をさせてもらえた。
さらには、全員分の着替えまで。
何から何まで世話してもらって、彼らには頭が上がらない。
明日からは何か仕事を見つけ、少しでも報いなくては。
宿にて。
「みんな、これからは自分たちでお金をかせいで、自分たちで生活しなくちゃいけない。
この世界には、冒険者っていう便利屋みたいな職業があるみたいだから、それになろう」
「「さんせーい」」
今日は寝て、明日に手続き等をすることになったらしい。
自分の部屋に入ると、とても住み心地が良さそうだ。
ベッドに飛び込み、そのまま寝落ちする。
久しぶりに、夢を見た。
元の世界の夢だった。




