6.森を探索しました
異世界生活2日目。
いつまでも拠点に閉じこもっているのも問題だ。
早いところ町を見つけ、まともな生活を送れるようにならなければ。
川のこちら側、向こう側、そして拠点防衛の3手に分かれ、探索を行うことになった。
予め山口に魔力を大量に与え、その魔力を使って通信能力を発動させる。
危険があればすぐに知らせることのできるシステムだ。
「じゃあ、みんな気をつけて、少しでも危険を感じたらすぐに知らせてね。正午になったらまたここに戻ってくるということで、解散!」
俺は川のこちら側の森の探索。
メンバーと集合し、森に歩みを進める。
「……何もねえな」
井川は近くの葉っぱをむしり、タオル代わりに汗を拭う。
「でかい森のど真ん中に飛ばされたんだろ。神もひでえことしやがる」
泊も同調した。
8時ごろに拠点を出発し、はや2時間が経とうとしている。
初めは元気だった皆も、次第にイライラしてきたようだ。
「あと10分くらい歩いて、何もなかったら戻るのが一番ね」
「10分も待てるかよ。5分だ5分」
立川の提案に、泊はけちをつける。
「しーちゃん、疲れたよぉ」
三城が槍を杖のようにして進んでいるのが目に入る。
こちらの世界も夏のようで、森はまるでジャングルのような気温と湿度だ。
最悪の場合、熱中症に陥る可能性もある。
まあ、拠点に戻れば川もあるし、そこまで心配するほどではないが。
「お、おい! 何かあるぞ!」
少し離れて先頭を進んでいた笹川が、踵を返してこちらに走ってくる。
笹川に促され進むと、大きな洞窟が姿を現した。
そしてその前には、ちょうどいい大きさの石がいくつかあった。
まるで腰掛けてくださいと言わんばかり。
「ちょうどいい、ここで休憩してから戻ろうぜ」
井川の提案に反対するものはいない。
俺たちは椅子に腰掛け、しばしの休息を取る。
太陽に熱された石は熱いかのように思われたが、意外にもひんやりしていた。
また、涼しいそよ風も吹いている。
まるで砂漠の中のオアシスといったところだ。
「……不気味だな」
思わずその言葉が口をついて出る。
「確かに、あまりにも快適すぎるわよね。さすがに不自然」
立川は同意見のようだ。
「罠だって言いてえのか? 誰がこんな森の中に罠なんか仕掛けんだよ」
泊はそんな俺たちを笑い飛ばす。
その瞬間、後ろから強力な気配を感じた。
殺気。
俺は無意識のうちに身を翻し、近くの茂みへ飛び込む。
そして、気配の主を観察する。
今まさに三城を飲み込もうとする、巨大なカエルであった。
「うおおおっ!!」
三城がカエルのおやつになる寸前、隣にいた井川が槍をカエルの口に挟む。
槍がつっかえ棒のようになり、カエルは一瞬動きを止める。
その隙に、全員がこちらの茂みへ避難してきた。
(でっかいカエルに襲われた! 助けてくれ!)
井川が救難信号を送る。
だが、拠点から遠く離れたこの場所に助けが来ることは期待できない。
俺たちだけで、このカエルを仕留めなければ。
カエルは、餌が視界から消えたことに戸惑い、あたりを探し回っている。
「あの出っぱった目が弱点に違いない。槍で一斉に襲いかかろう」
笹川が小声で提案する。
それに泊は反論した。
「やめとけ、槍ぶっさす前に俺らが喰われちまうぜ」
「なら、槍を投げればいいじゃないか」
「お前はバカか、こっちの居場所を晒すだけだろ」
2人は小声で言い争う。
「ちょっと2人とも、静かにしてくれよ。俺たちまで巻き添えになるじゃないか」
芳賀直樹が2人をたしなめる。
地味な男子だが、言うべきことはちゃんと言うらしい。
「じゃあ、お前はどうすりゃいいと思うんだ」
「え? さ、さあ……」
「圭介に宗吾、やめとけって。ここで言い争っててどうすんだよ」
泊に詰められ萎縮した芳賀に、井川が加勢する。
だが、その影響で声はどんどん大きくなっていく。
できればもう少し小声でお願いしたいのだが……。
さすがに引いたのか、女子たちが少しずつ後ずさっていく。
パキッ
三城が枝を踏んづけた。
「あっ……に、逃げろぉー!」
「何やってんだお前ー!」
三城は立ち上がると、そそくさと逃げ出す。
だが、今ので完全に居場所がバレた。
カエルはこちらを向き、大きな口をあんぐりと開けてこちらに迫る。
最前列の泊と笹川は、腰を抜かして固まっている。
俺は賭けに出ることにした。
槍を手に取り、後ろに下がる。
カエルが2人を飲み込む瞬間、助走をつけて一気に飛び上がる。
「うおおおおおっ!!」
勢いそのままに、槍の尖った先端をカエルの目ん玉に突き刺した。
カエルは驚き、もんどりうって転げる。
カエルの上に着地した俺も吹っ飛ばされた。
受け身を取る暇もなく、木に激突する。
襲いかかる激しい痛み。
まずい、今カエルが来たら死ぬ。
俺は力を振り絞って槍を取り、カエルの方へ向き直る。
カエルは……。
ピクリとも動かない。
倒した……。俺は安堵した。
体の痛みもどこかへ消え去ってしまった。
「な、何とかなったな……。で、笹川と泊は大丈夫なのか?」
「カ、カエルに飲み込まれてたぞ! 早く助け出さないと……」
芳賀は健気にもカエルの口を持ち上げようと必死になっている。
まもなく、気絶した泊と笹川がぬるぬると出てきた。
「……何かこいつら青くなってないか?」
恐怖で顔が青白くなってるとかの比喩的な意味ではない。
なんか青いのである。
「……カエルには毒を持つ種も多いから……」
あっ。
ま、まあ、そんな大した毒ではないだろう。
それよりも問題は三城の方だ。
「……隠れてないで出てこい、怒らないから」
俺は三城が逃げた方の木の影に呼びかける。
「……ごめんなさい」
あ、素直だ。
結局、泊と笹川は、井川と芳賀がおぶって持ち帰ることになった。
俺はカエルを倒した功績があるので、ヌルヌルを背負うのは免除された。
帰る途中で、知らせを聞いて駆けつけてきた拠点防衛組と合流し、情報共有をしつつ拠点へ戻った。
寺田曰く、
「そんな怪しい場所で休憩するなんて、あなたたちバカなの?」
井川が項垂れていた。
野口曰く、
「異世界では、常に周りを警戒しなきゃダメだぞ」
三城がしょんぼりしていた。
日比野曰く、
「まあ、みんな無事で良かったよ。2人の毒もそんなに強くないみたいだし、しばらくしたら治るよ」
みんながちょっとだけ元気になった。
拠点に帰ってまもなく2人の意識は回復し、川でヌルヌルを綺麗に洗った。
2人とも反省しているようで、ちょっとだけ大人しくなった。
そして今回大いにやらかした三城は、日比野と玖珠田に2時間ほどお説教されていた。




