↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第5章 王都
PR
67/80

64.王都の危機です

「ごめんください! もしもーし!?」

 男の上擦った声と共に、扉が乱暴に叩かれる。

 何とも嫌な目覚め方だ。

 一言文句を言ってやろうと、手早く着替えて扉を開ける。

「人を起こす時にゃもう少し礼儀を弁えろ! ……って、何事!?」

 俺の目の前に立っていたのは、ひどく憔悴した様子の騎士であった。


 ただ事ならぬ雰囲気を感じたので、速やかに騎士に同行した。

 向かった先は、見慣れた冒険者ギルド。

 騎士は隊長室の前まで向かうと、扉を叩く。

「ハンドン隊長殿、カンザキ殿をお連れしました」

「うむ、入ってくれ」


 中に入ると、ハンドンと何人もの騎士が、机に広げられた地図を取り囲んで座っていた。

 俺も空いている席につく。

「この地図は……王都?」

 二重の城壁に囲まれた巨大な都市を中心としたその地図は、間違いなくこの王国の王都のもの。

「まさか、王都が魔王軍による襲撃を受けていると?」

「察しが早いな、カンザキ君。いかにも我が国の王都は、今魔王軍による危機に瀕している」


 ハンドンは、近くの騎士に目配せをする。

 騎士は進み出ると、状況の説明を始めた。

「現在、魔王軍は北、および北東からの2つの隊列を組み、我が王都に向けて進軍しております」

 別の騎士が、地図の上に2つの黒い駒を置き、王都に向けて矢印を描く。

「また、別働隊が付近の街道に陣取り、王都は陸の孤島と化しています」

 地図上には、王都を取り囲むように幾つもの駒が並べられた。


「王都防衛軍の動きはどうなっている?」

「現在、第一隊が民の南方への避難、第二隊が城壁の防衛、第三隊が王城からの魔法攻撃を行っています」

 白い駒が、述べられた通りの位置に置かれる。

「しかし戦況は悪く、こうして援軍の要請に参った次第であります」

 なるほど、状況が読めた。


「王都が落ちれば、この王国は混乱に陥ります。援軍を派遣するべきでは?」

 ハンドンに問うも、その顔は渋い。

「確かにこの状況を見れば援軍の派遣は必至だ。しかし魔王軍の狙いは、本当に王都なのだろうか?」

 ハンドンの問いかけに、俺は考え込む。

 なるほど、王都に戦力を引きつけておいて、ここアルトなど他の戦略拠点を叩くということか。

 その可能性が捨てきれない以上、アルトを丸裸にするわけにはいかないか。


「……なら、冒険者を二手に分けるのはどうでしょう? 私が王都への援軍を率いますので」

 せっかく副隊長なんだから、実績の一つは残さねば。

「やってくれるのか? 助かるよ」

「ありがとうございます。感謝の言葉の述べようもありません……」

 ハンドンは顔を綻ばせ、騎士たちは頭を下げた。


 派兵が決まれば、作戦を考えねば。

 俺は、地図に目を落とす。

 北から攻める魔王軍、南から迎え撃つ王都防衛軍。

 魔王軍の意識は、王都に集中している。

 ならば、側面から叩くのが定石だ。

 しかし、気づかれずに大勢が隠れられる場所など、あるだろうか……?


「……この高地は、魔王軍の手に落ちたか?」

 俺は、王都の北西にある高台を指差す。

 等高線に囲まれたその部分は、豊かな森であることを示す緑に塗られていた。

「いえ、少なくとも1時間前には、その付近に魔王軍はいませんでした」

「ならここから叩く。木々に紛れ、魔王軍を焼き払う!」

「承知いたしました。すぐに転移術師にお伝えします」




 転移魔法とは、何とも素晴らしい魔法だ。

 4人の最高位の魔術師が、10分にわたる長い詠唱の末に発動する大魔法。

 アルトから何千キロも離れたここに、一瞬でたどり着いてしまった。

 薄く雪の積もる平原に聳える、巨大な王都。

 そのあちこちから、煙が上がっている。

 微かに聞こえる、魔物の唸り声に人間の怒声。


 振り返れば、200人を超える冒険者たちが、戦いを前に準備をしている。

「最前に剣士、衛士(プロテクター)は万が一の場合に備えすぐ近くに待機! まずは魔法による奇襲攻撃を行う、各員は敵を目視できる場所に移動!」

 副隊長として指示を出すと、皆は待ってましたとばかりに動き出す。


 しばらくして、準備は整った。

「よし……魔法攻撃、始め! ……『火炎旋風』!」

 命令と同時に、俺も魔法を放つ。

 何十もの魔力が、塊となって魔物たちに襲いかかる。

 轟音とともに、草原を荒れ果てた地へと変える。


 攻撃に気づいたか、隊列の一部が進路を変え、こちらに向かって進んでくる。

「ここは俺たち剣士の出番だ!」

「うおおおっ!!」

 指示を出すまでもなく、彼らは雄叫びを上げながら剣を振るう。

 やってきた魔物は、たちまち全滅した。


「魔法詠唱を続けろ、この調子で焼き払うぞ! 修道士(プリースト)は支援魔法を頼む!」

 さまざまな役割を持った冒険者たちがいるからこそ、戦いは上手くいくのだ。

 最前線で、剣や槍を振るう者。

 壁となり、敵の攻撃を身をもって防ぐ者。

 魔術を始めとした、超科学的な力を操る者。


 もっとも、相性というものはある。

 例えば、このような戦いにおいて、盗賊職は役割が少ない。

 彼らが本領を発揮するのは、暗い場所での戦いや迷宮攻略だ。

 あるいは、遠距離攻撃としての威力は魔術に劣り、求められる技量水準も高い弓。

 正直、魔法があるこの世界で、弓使いが役に立つかと言われると怪しいかもしれない。

 気さくでいい奴だったカールには申し訳ないが……。



 * * *



 電撃に炎、そして爆風。

 魔法というのは、本当に強いのね……。


 自らの愛用する弓を握りしめながら、弓使い(アーチャー)立川玲奈は唇を噛む。

 適性があるからとこの職についたものの、道はあまりにも険しかった。

 威力では魔法に劣り、矢が尽きれば丸腰になる。

 しかも、まともに戦えるようになるまで、一体どれだけの鍛錬をすればいいのか。


 唯一の強みは、魔力を消費しないこと。

 だがその強みも、肉体の疲れという別の課題に押し流される。

 暗雲のように立ち込める課題の数々に、立川玲奈は打ちのめされそうになっていた。


 ふと弓を引き絞ると、矢を放つ。

 ゴブリンの身体に当たったその矢は、容易く引き抜かれ、地面に投げ捨てられた。

「はぁ……」

 ため息が漏れる。


 自分は役立たず。


 ずっと認めたくなかったその一言が、また頭の中で大きくなり、首をもたげる。

 いっそのこと、弓使いなどやめてしまおうか……。



 その時、目の前に何かが差し出される。

 毒々しい色の液体の入った小壜。

 一体これは……?


「……野口くん、何の用なの?」

 剣士である彼が、ここにいるのはおかしい。

「えーっと……。前に作ったのが、まだポケットに入ってるのを思い出したんだよ。これ、矢に塗ってみて」

 彼はそう言うと、壜を揺らす。

 どす黒い液体が、硝子を曇らせた。


 矢毒?

 そんなもの、どうやって……。

 いえ、考えるのは後でいい。

「……ありがとう、試してみるわ」

 壜を開けると、矢尻に液体を塗る。

 引き絞り、射る──




「……え?」

 何が起こったの?

 城壁を守る騎士に襲いかかる、周りのものより一回り大きな魔物。

 矢を受けたその巨体が、たちまちにして倒れ伏した。

 周りの魔物たちが慌てふためき、逃げ出すのが目に入る。

 どうやら、大将首のようだった。


「……どうやって、こんな強力な毒を……」

 訊いた時には、すでに彼はいなくなっていた。

 代わりに、山のような小壜が、草むらの上に置かれていた。


「……ありがとう。野口くん」

 そう呟きながら、ある弓使いは、弓を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。