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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第4章 分裂
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58.不可思議

 翌日。

「やっべえ寝過ごしたっ!」

 俺は慌てて身支度をすると、宿のロビーへ駆け下る。

 すでに日は高く昇り、鳴り響く鐘が正午を告げていた。


 昨日、三城にはいろいろ酷いことを言ってしまった。

 今日謝ろうと思っていたのだが……。

 布団に潜り込んでも、色々と考え込んでしまい、なかなか寝つけなかったのだ。

 おかげで大遅刻である。


 この時刻なら、今ごろ三城は行きつけの店でゆるふわ3人組と昼食を摂っている頃だろう。

 家族連れや若い女性、老人にも人気の、アルト随一の有名店である。

 付近まで行くと、もう行列ができているのが目に入る。

 その行列をなぞるように視線を移すと……。


 いた。

 土岐枝と湯梨浜、そして千曲のゆるふわ3人組。

 列のかなり前の方で、楽しげに話している。

 三城の姿は見えないが、おおかたトイレにでも行っているのだろう。


「あ、神埼くん!」

 話しかける前に、土岐枝が気づいたらしい。

 片方だけになった松葉杖を持つ手の反対側で、俺にこっちへ来いと促す。

 ちょうどいい、話しかける手間が省けた。


「神埼くん、休みの日に出歩くなんて珍しいね。何かあったの?」

 3人のもとへ向かうと、土岐枝がやたら失礼なことを言ってくる。

 ちゃんとモンスター討伐という慈善事業をしてるんですが。

「大ありだよ。……それより、お前らは気にしてないのか?」

 俺が問題ある言動をしたのは、三城に対してだけではない。

 最悪、クラス全体から制裁を受けるのも覚悟してはいた。


 だが、3人は何のことだろうかと言わんばかりに顔を見合わせる。

「……ああ、あのことね。時雨ちゃんはみんなのことを考えてたわけだし、別に気にしてはないかな〜」

「うんうん。まぁ、ちょっとびっくりしたけどねぇ」

「神埼くんのこと、私はとっても信頼してるから……」

 3人は、口々にそう言ってくれた。

 良かった、全員を怒らせてしまったわけではないようだ。


「でも、みこととかはかなり怒ってたからね〜。早いとこ謝っといた方がいいと思うよ」

 湯梨浜が少し真面目な顔になると、そう忠告してくる。

 玖珠田か、確かに怒らせると怖そうな感じするし。

「そうするつもりだ。もうちょっと言動には気をつけた方が良さそうだな」

 俺がそう言うと、3人は頷いた。


 その時、店のドアが開くと、4人家族が出てきた。

「あっ、私たち次じゃない?」

 千曲の指摘に列の前を確認すると、なるほど1人や2人組ばかり。

 だとすると、先に4人の土岐枝たちが呼ばれる可能性が高い。


「……ねえ神埼くん」

 土岐枝が、ふと俺を呼ぶ。

「何だ? ……ああそうか、そろそろ帰った方がいいか」

 列に混じっていては、混乱を招く。

 三城のことは外で待つのがいいだろう。

「あっ、ち、違うの」

 だが、土岐枝はそれをご所望ではないらしい。


「その……。せっかく偶然会えたんだし、いっしょにご飯食べてかない?」

 土岐枝は、しばらくもじもじと髪の毛をいじったりした後、そう尋ねる。


 まあ、悪い提案ではない。

 三城はまだ戻ってこないし、代わりに俺がいても店の迷惑にはなるまい。

 3人組なら三城のこともよく知っているだろうし、なんて謝ったらいいかとか色々相談できる。


「いいぞ。……そういや何も食べてなかったわ」

 その返答と同時に、土岐枝の顔がぱあっと明るくなる。

「お待たせしました、4名でお待ちのユリハマ様。テーブル席のご案内です」

 タイミングよく、店員が店の扉を開けた。



「いやぁ、時雨ちゃんて意外と紳士なんだね〜。ちひろのこと気遣ってあげてるあたり加点だよ」

「片足まだ逝ってる奴に配慮しない方が頭おかしいだろ。当然だ」

「あぁいや、それもそうなんだけどさ。

 ……何というか、今ここで私たちがいなかったら完ペキだったな〜って」

 湯梨浜はそう言うと、ニヤニヤしながら俺と土岐枝を交互に眺める。


 ……彼女は一体何を言っているのだろう。

 かなり回復したとはいえ、土岐枝の傷はかなりのものだった。

 何気ない動作でも、鋭い痛みに繋がることがある。

 歩いたり座ったりのエスコートもそうだし、他にも色々と手助けするのは当然のことだ。

 それにどちらかと言えば、いなかった方が良かったのは俺だが。


「……まあいいか。で、せっかくの機会だし一つ相談したいんだが」

「何? あんまり参考にはならないかもしれないけど……ってもしかして、まりのこと?」

 湯梨浜の表情が、突然強張る。

「よく分かったな。……それがさ、あの後三城に結構酷いこと言っちゃってさ。どう謝ったらいいのやら、俺にはさっぱりでな……ん? なんか変なこと言ったか?」

 話す間に、湯梨浜と千曲の表情がどんどん青白くなっていくのはなぜだ?


「……あー、私たちの並んでるところに来たのは、私たちに相談するためだったんだね」

 硬直した2人に変わり、隣の土岐枝が相談に乗ってくれるらしい。

 土岐枝はどこか陰の差す表情で、言葉を続ける。

「でも、それならやっぱり自分の言葉で伝えた方がいいと思うなぁ。私もその方が嬉しい。

 ……それにもうそろそろ時間だし、早くまりのところに行かなきゃ」


「……時間? 何の話だ?」

 何かの約束の時刻? いや、俺と三城の間にそんな約束を交わした覚えはない。

 だから、3人にそんな驚愕に見開かれた目で見られる謂れはないのだが!?

「いやいや、まりに『大切なことを話したい。明日の午後1時、城壁の外、丘の上の建物で待つ』なんて手紙を送ったのは時雨ちゃんでしょ!? ……まさか、忘れたわけないよね?」

「そんな痛々しい手紙を書いた覚えはない、何の冗談だ! そもそも、三城はいつもこの店でお前ら昼飯食べてるだろ? だから今日もここにいると思って来たんだよ!」

 穏やかな昼の時間は、突然阿鼻叫喚と化した。

 店中の客が、一体何事かとこちらを見てくる視線が痛い。

 変な痴話喧嘩とか誤解されないといいんだが……。



 20分かけて情報を整理した。

 三城が、俺に手紙を貰ったと3人組に嬉々として報告してきたのが、今日の朝。

 昨日俺が宿を飛び出した後、慌てて三城が後をついて行き、やがて泣き帰ってきたのを見ていた3人は、俺がそれに対する謝罪、あわよくば告白(!?)をするつもりなのだろうと考えた。

 俺が店に姿を現したのも、三城のことをよく知る3人に、最後の相談に来たのだと解釈したらしい。


「……待て。じゃ何で4人で呼び出されたんだ? 三城が来てないなら、3名様になるはずだが」

「ちひろが時雨ちゃんのこと誘い始めたから、どうせ時雨ちゃんは乗るだろうって思って、先に書き換えといたんだよね〜……」

 紛らわしいことを!


 ……まあ、何が起こっていたのかは分かった。

「問題は、その手紙は誰が書いたか、だ」

 いったい何のイタズラなのだろうか?

 そもそも、城壁の外にまともな建物はほとんどない。

 丘の上にあるのは、数年前に放棄されたという廃物置くらいなものだ。

 そんな人の目もない場所に三城を呼び出して、いったい何のつもり──


 待て。


 まさか……。


「……すぐに向かうぞ」

「えぇ? ただの嫌がらせでしょ? まあ、確かにまりはいるだろうけどさ……。せめて会計してからでも」

 湯梨浜が怪訝な顔で尋ねる。が……。

「そんな暇はない! 湯梨浜、千曲、行くぞ!」

「えぇっ!? ……分かった」


 足を怪我した土岐枝は、悪いが足手纏いだ。

 丁度いい、申し訳ないが会計を押し付けることにしよう。

「土岐枝、金はここに置いておく! すまんが会計しといてくれ!」

「あっ、えっ? 分かった……ってこれ、いいの!? 全員分……」

 困惑した土岐枝が、俺が今財布から机に叩きつけた金額を見て驚きの声を上げる。

 それにも構わず、俺たちは店を飛び出した。


「ねえ時雨ちゃん、せめて何なのか説明してよ」

 城門に向かって走りながら、湯梨浜が不満の声を上げる。

「城壁外の廃屋なんて人目につかない場所をわざわざ指定するなど、ただのイタズラじゃない。

 ……この町に潜むという輩が、絡んでいる可能性がある」

「そ、それって……まりがひどい目にあわされちゃうかもしれないってこと?」

「それどころか……最悪、死体として埋められる可能性すらある」

 俺の返答に、千曲が絶句する。

「急げ! まだ1時の2分前だ。まだ間に合うかもしれん!」



 * * *



 ボーン…… ボーン…… ボーン……

 遠く離れたアルトの街から、鐘が鳴り響く。

 回数を数えるまでもなく、それは午後の1時を示す鐘だ。


 ふと、俺は手足が震えているのに気づく。

 無理もない、俺は今から、途轍もないことをしでかそうとしているのだから。

「……まあ、今更か」

 俺はそう割り切ると、左手をポケットの中に突っ込み、立ち上がる。


 しばらく使われておらず、朽ち果てた物置小屋。

 当然、普段は人などいない。

 しかし、今日は少しばかり事情が異なった。


「……しーちゃん遅いなぁ。何でこんなところなんだろ」

 小屋の壁際でため息をつく小柄な女は、俺が小屋から出てきたことには気づかなかったようだ。

 ……馬鹿め。

 俺は心の中で悪態をつく。

 しかし、まさかここまでコロッと引っかかるとは思っていなかった。

 俺はポケットの中にあるものを握りしめ、女の元へ近寄る。


「……あっ、しーちゃん! ……じゃない?」

「こんな所で会うなんて、珍しいこともあるもんだな」

 女は、俺のことを微塵も警戒してなどいないようだ。

 おかげで、俺は簡単に女の元へ近づくことができた。

 手を伸ばせば簡単に掴めるほどに。


「……っ!? んーっ!! んーっ!!」

 俺は無造作に右手を伸ばし、女の口を塞ぐ。

 騒がれて、街から衛兵なんてものが来たらたまらないからな。

 女は抵抗し、小さな両手で俺の手を剥がそうと試みる。

「無駄だよ、ガキめ。チビなことを後悔するがいいさ」

 早く終わらせよう。

 俺はずっとポケットにしまっていた左手を、高く掲げる。


 女の目が、絶望に見開かれた。

 木漏れ日に燦めく、銀色の刃を見て。

「悪く思うなよ……こうすれば、俺の願いは叶うんだ」

 女は呻き声を上げながら、ますます激しく抵抗する。

 が、刃を首筋に遣ると、ようやくその耳障りな声も無くなった。

 腕に伝わってきた女の抵抗が消え、だらりと四肢が下がるのが確認できた。


「安心しろ、苦しまないようにはしてやる」

 俺は勢いをつけるため、刃を女の首元から一度離す。

 そして、刃を持つ左手を大きく振りかぶり、女の首元に……っ!



「テレキネシス!!!」



 俺は、一瞬何が起こったのか理解できなかった。

 俺の刃は、確実に女の首元を切り裂いたはずだった。

 だが、刃は女の首の寸前で、固く静止している。

 何か、予想外の事態が起こっている。


「一体どうなって……っ!?」

 俺は、状況がさらに悪化していることに気づいた。

 俺の四肢が、ぴくりとも動かないのだ。

 こんなにも俺の脳は、動けと命じているにも関わらず。


 幸いにも、眼球は動かせるようだ。

 俺は、声のした方を見る。


「……なぜお前がここにいる」


 男は答えなかった。

 が、男の顔は怒りに歪んでいた。


「貴様の質問になど答えるか。ここで何をしている!!」


 男は、血走った目で叫ぶ。









「何のつもりだ…………芹沢!!!」

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