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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第4章 分裂
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57.けんか別れ

 日比野と坂北の尽力により、俺たちが激しい疑いの目を向けられることはなくなった。

 しかし、我々の中に裏切り者がいても、2人が責任を取ることになるからとその行動を止めるとは、到底思えない。

 魔王に身心を捧げるような奴なわけだし、安易に行動を変えれば自らが制裁を受ける可能性もある。

 2人の提案は、冒険者たちを納得させるには事足りても、裏切り者を止めるには弱すぎる。


「……というわけで、相互監視を行いたい」

 宿のロビーに集めた27人のクラスメイトを前に、俺は告げる。

 皆は顔を見合わせると、口々に疑問を呈する。

「監視って、どういうこと? あんまりいい気はしないんだけど……」

「そうそう、委員長と北斗が何とかしてくれたじゃねーか」

 まあ、当然の反応だ。


 俺は、困惑する皆に向かって、説明を始めた。

「裏切り者が町に損害を及ぼせば2人がその責任を被る、というのは、十分な抑止とは言えない。だって相手は人類を裏切るような奴だ、2人のことなんて眼中にもないだろうよ。

 だからこそ、もっと現実的で有効な対抗策を講じなければならない。すなわち、俺たち一人一人が皆の行動を監視し、悪事をしでかすのを未然に防ぐ」

「確かに、30人もの目があれば裏切り者も行動を躊躇するはず。私は賛成ね」

「あんまりいい気はしねーけど……まあ、仕方ないよな。いいぜ」

 寺田と井川は、真っ先に賛成の意を表した。


 が、そう一筋縄でいくはずもなく。

「嫌だよ、朝から晩まで監視されなきゃいけないなんて。俺たちにだって自由はあるよ」

「そうそう。緊急事態なのは分かるけど、そこまでする?」

 芳賀と平城山が、反対の声を上げた。

「この町はもう、そう悠長なことを言っていられるほど安全じゃない。永遠に続くわけじゃない、裏切り者が判明するまでの間だけだ」

「それっていつまでなわけ? 裏切り者が身を隠すのが上手かったら、そんな生活が何年も続くってことっしょ? そんなの絶対無理」

「そんな無理強いしても、却って私たちの結束を脆くするだけよ。協力して裏切り者と戦う必要がある今、それは得策じゃない」

 俺の説得にも、榎田と立川が、さらなる批判を向ける。


「あのなあ、いい加減にしてくれよ。お前たちは死にたいのか? 魔王軍に情報が筒抜けという今の状態が、どれだけ深刻なのか分かってるのか?」

 俺は語気を強める。

 ここで譲歩するわけにはいかない。

 が、皆の反応は冷ややかだった。


「あのさ、人に物頼むんだったらもっと丁寧に言ってよ。副隊長になったからって、思い上がってんじゃないの?」

 玖珠田が憤然とした様子で口を開く。

「それな。偉くなったって勘違いしてんじゃねーよ!」

 早乙女が椅子を蹴り倒す。

「貯金箱の中身が盗まれた時、あなた私のこと散々侮辱したよね? やっぱり性格悪いよ」

 橋本が、俺を睨みつける。


 皆が俺に嫌悪の目を向ける。

 皆が俺に非難の声を上げる。


 ……ここまで非難されるとは、思っていなかった。

 一体俺の何が悪いというんだ。

 俺は何か、間違ったことを言っているのか?

 いや、俺はこの町の未来のことを考え、行動しているだけだ。


「……そこまで言うなら、俺は知らん」

 俺は、静かに口を開く。

「知らんって、何様のつもりだよ? お前が何でそんな──」

「この中に潜んでいる裏切り者に殺されても、俺は知らないからな!」

 声を荒げる笹川を遮り、俺は言い放った。

 そして踵を返し、開いた扉から宿の外へ飛び出す。

 もう知ったことか。



 アルトの中央を流れる川。

 その河原に、俺は独りいた。

 燃える夕陽がはるかに見える山並みに沈んでいく、美しい光景。

 だがそれは、俺の心を酷く締め付けるのだった。


「……なぜだ」

 俺は道端に座り込む。

「なぜ分からない、なぜ突き放す、なぜ俺に冷たい目を向ける!」

 川に向かって、抑えようもない毒を吐く。


 ふと、俺の頭に小さな手が置かれた。

 その手は慎重に、しかし優しく俺の頭を撫でる。

「……誰だ」

 それに答える声はなかった。

 代わりに手は、俺の右手を掴む。


「……何でここに来た」

 その手に引っ張り上げられ、俺は手の主を見ることができた。

 三城。

 普段は底抜けに明るく頭の空っぽなその顔は、鋭い眼光をこちらに向けていた。


「……どうせお前も、俺の意見には反対なんだろ?」

 三城は人を疑うことを知らない。

 もしかすると、俺たちの中に裏切り者がいるかもしれないということすら、信じていない。

「……だって、裏切り者がいるなんて、そんなわけないもん。友だちを疑うなんて、そんなことできるわけない」

 予想通り。


「そんな理想論を語って、もし魔王軍に与するものが、本当にいたらどうする。被害は俺たちだけでは済まない。この町全体に、とてつもない損害が及ぶことになる。死者が出るかもしれない」

 俺は、あくまで主張は曲げない。

「しーちゃんは、友だちが信じられないの? これまでずっと、いっしょにがんばってきたのに」

「人間とは、他人が想像もできないような闇を抱えているものだ。いつ何時隣の人間が刃を向けてくるか、分かったものじゃない」

 俺たちは、真正面から意見をぶつけ合う。


「みんないい人だよ。この町にいるみんな、いい人なんだよ。魔王に味方なんて、そんなことあるわけない」

「違うな、もしそうなら犯罪などこの世にはない。あり得るんだよ。現実を見ろ、お花畑」

「っ……!」

 三城は目を見開くと、体を震わせる。

 その頬を、涙が一筋。



「……しーちゃんのバカ、もう知らない!!」



 次の瞬間には、三城は俺の横をすり抜け、建物の影へと消えた。

「三城っ! ……何だったんだよ。俺を……」

 その先の言葉は、思いつかなかった。



「……言い過ぎたんじゃないですか?」

 三城のとは別の声。

 振り返ると、荒川が立っていた。

「……全部見てたのか」

「ええ……隣、いいですか?」


 荒川は俺の隣に立つと、川の流れを見つめながら話し出す。

「私には、神埼さんの抱く危機感はよく分かります。この平和な日常が崩壊するのは、何としても避けなければいけませんよね。

 ……でも……三城さんもそうですし、監視されることに不満を抱く皆さんの気持ちも、分かるんです。いくら非常事態だと言われても、一日中誰かに見張られている生活なんて、想像したくもありませんから」

 荒川の声に、非難や軽蔑の響きはなかった。

 ただ優しく、落ち着いて俺を諭す。


「神埼さんの意見は、間違ってなんかいません。でも、頭ごなしに押し付けるだけでは、誰も着いてきてはくれないんです。私の言葉が、信じられるかは分かりませんが……」

 荒川の言葉は、俺の心に直接響いてくる。

「……信じるさ。信じないわけがない。

 俺は焦っていた。その焦りが間違いだったとは思わない。が……。

 もう少し、他人の気持ちというのも、考えるべきだったかもしれないな」


 ふと、先ほど泣きながら走り去っていった、三城の姿が頭をよぎる。

「……明日、あいつに謝るか」

「それがいいです。三城さんなら、きっとすぐに機嫌を直して、抱きついてくると思いますよ」

 俺は背伸びをすると、宿への道を歩く。

 後ろで、芹沢が荒川に話しかける声が聞こえた。

「神埼の奴、妙な感じだったが……一体何かあったのか?」

「ええ、いろいろと」

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