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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第4章 分裂
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51.森の奥の争い

 俺たちは早馬に乗り、目的地を目指している。

 今日のクエストは、リザードマンに襲われている村への救援だ。

 リザードマンが魔王の手下の可能性もあるそうだから、気は抜けない。


 リザードマンというのは、トカゲと人間の合いの子のような見た目の生物だ。

 モンスターとも亜人とも言い切れない絶妙な立ち位置にあり、それゆえに多くの問題を抱えている。

 多くの文化圏ではリザードマンは下等な種族とみなされ、差別や迫害の対象となっている。

 この国においては、モンスターとして討伐対象にすらなっている。

 リザードマンとてこの立ち位置に甘んじるばかりではなく、今回のように徒党を組んで村落を襲撃したり、魔王の傘下に入って魔族として暮らすものも多いそうだ。


 まあ、今回の俺たちの仕事は村を守ることだ。

 敵であるリザードマンに情けなどかけない。

 場合によっては、魔法での掃討もやむを得ないだろう。



 村に降り立つと、すぐに白髪の老人がこちらに駆け寄ってきた。

 その慌てぶりは、状況の深刻さを物語っていた。

「あなた方がアルトからおいで下さった冒険者の皆様ですね。お待ちしておりました」

 老人に促され、俺たちは村へ足を踏み入れる。

 そのうちの1軒に入ると、そこには刀や農具で武装した村人たちが集結していた。


「おい村長、誰が都会もんなんぞ呼べって言ったんだよ。俺たちがトカゲ如きに敵わないとでも言いたいのか?」

 突然、若者の不躾な目線がこちらに向けられる。

「奴らはお前の想像するよりも遥かに強い。油断は禁物だ。

 ……村のものが失礼なことを、申し訳ございませんでした」

 村長と呼ばれた老人は、若者を一喝すると、こちらに頭を下げた。


「来たぞ、トカゲ共だ!」

 その時、遠くから誰かが声を張り上げる。

 それを聞くなり皆は立ち上がり、武器を携えてそちらへと急行する。


 そこには、槍を持った数十のリザードマンが並んでいた。

 中央のひときわ存在感を放つ、リザードマンの首領らしきものが、声を張り上げる。

「聞け! 我々はリザードマン、この森を統べる者である! 貴様ら人間の横暴にはもはや我慢ならぬ、我々を迫害したことを後悔させてくれようぞ!」

 首領の声は、凄まじい怒りを孕んでいた。

「トカゲ風情が何をほざく、返り討ちにしてくれるわ!」

 村人たちも、負けじと声を荒げた。


(神埼、ここは俺がタイミングを合わせる)

 その時、山口の声が脳内に響いてきた。

(ちょうど頼もうと思ってたところだ。よろしく)

 俺が依頼すると、山口は前置きをした後、カウントダウンを始める。

 突然脳内に声が響き驚いた村人たちも、すぐに構えた。


(突撃!)「突撃!」

 山口と首領の声が、ほぼ同時に響き渡る。

 村人たちとリザードマンが、武器を振りかぶって衝突する。

 鋭い金属音が空気を揺らした。


「我が名はレプティール、リザードマンの首領にして、復讐の使命を背負う者!」

 首領は名乗りを上げると、その三叉の槍を高々と掲げる。

「我々を侮ったことを悔いるがいい……雷雨(コール・オブ・)招来(サンダーストーム)!」

 槍の先端から稲妻が走り、天にまで届いた。


 瞬間、空にはどこまでも暗い雨雲が立ち込める。

 一滴、また一滴、そして滝のような大雨。

「いかん! 撤退だ!」

 村長は怯えたような声で村へと走り戻る。

 威勢を張っていた若者たちも、一目散に逃げ帰った。


「逃がすか!」

 村人たちの背中目掛けて、リザードマンたちは駆け出す。

 先ほどまでより、明らかに速い。

「奴らは水で力を得る、到底敵う相手ではない!」

 村長の叫びにも似た声で、俺は状況を理解した。


「ふうん、水ねぇ……。じゃあ、火にはめっぽう弱いわけか。『火炎旋風』!」

 俺はやにわに杖を引き抜くと、リザードマンたちの目の前に炎の壁を出現させた。

 予想通り、彼らは立ち止まり、後ずさる。

「怯むな! 優れしリザードマンが、炎如きに負けてなるものか!」

 レプティールの鼓舞に、リザードマンたちは逡巡の末、炎に突っ込んだ。


「今だ、『火炎旋風』!」

 第2段階。

 炎は爆発的に巨大化し、命知らずのリザードマンたちを呑み込んだ。

 悲鳴も焼かれ、ただ雨が蒸発する凄まじい水蒸気の音だけが場を満たす。

 レプティールの呆然とした表情が、ひどく滑稽に見えた。


「な、何と……。くそっ、撤退! 撤退だ! 人間どもよ、1度の勝利でいい気になるな! 我々は勝つまで戦うぞ!」

 レプティールの捨て台詞も、轟音にかき消されて消えていった。

 その後、俺たちが村人たちのやまぬ賛辞を浴びたのは言うまでもない。



「……あの、少し相談したいことがあるのですが……」

 アルトに帰りつき、ギルドでの手続きを済ませた後、俺は荒川にそう呼び止められた。

 山口といい、最近やたらと相談を持ち掛けられるな……。

 まあ、いちおうリーダーなっちゃったし仕方ないか。


「まあいいが、何かあったのか?」

 家路を歩きながら、俺は訪ねる。

 日も沈み、荒川の表情を見ることも難しい。

「その、大したことではないのですが……。私、芹沢さんに護衛をお願いしているじゃないですか」

 その件で清水が大いなるショックを受けていたので、とてもよく知っていますよ。


 しかし、護衛をつけることになったのは、荒川が謎の人物によるつきまとい被害を訴えてきたからだ。

「あれから何かあったのか?

 まあ、あんなことを引き起こしたとはいえ、芹沢は真面目な奴だ。有事の際には対処してくれるだろ」

 荒川の表情が曇るのが、薄暗いなかでも分かった。

「それが、芹沢さんのいない時を狙われるようになりまして……もしかしたら、護衛だと勘付かれたのかもしれません」

 その言葉を聞き、俺は周囲を見渡す。


 幸い、今は何もいないようだ。

 まあ、何かいたとしたら荒川の方から言うだろう。

「まだ直接的な被害が出ているわけではないと……。やたらと慎重な犯人だな」

「明るい道を歩くよう心がけているので、それが効果を挙げているのかもしれませんが……。

 でも、いつ何をされるか分からないので、不安なんです」

 めちゃくちゃ大したことじゃん。


「……体調は完全に回復したのか?」

「え? ……はい、魔法も以前と同じくらいの速さで撃てるようになりました」

 荒川は、かつてへードルの魔法を直に喰らって半身が吹っ飛んだ。

 その直後に野犬に襲われた際、彼女は魔法を使うことができず、追い詰められた。

 だが、今やそのような心配はないだろう。

「なら、襲われたら魔法でぶち殺しちまえ。正当防衛だ正当防衛」

「そ、そうですかね……? できれば殺したくはないのですが……」

「まあ、捕まったら証言台に立って弁護してやるよ。もしダメだったら……ごめんな」

「だ、ダメです、諦めないでください! 私こんな年齢で死にたくないです!」


 ひとしきり言い合うと、荒川ははっとしたように口を押さえる。

 が、抑えきれないと言った様子で吹き出し、ケラケラと笑い声を上げる。

 荒川が声を上げて笑うというのを見るのは初めてだ。

「す、すみません……なんだかこの会話が可笑しくって。変ですよね、私」

「いや別に……笑いたい時に笑えばいいさ」


 クラス皆の待つ宿に帰り着く頃には、荒川の笑いの発作も収まった。

「相談事は全く解決してないのに、ずいぶんと笑顔になったな」

 荒川の表情は、今まで見せたことがないほど晴れやかなものになっていた。

「人間、そういう時もありますよ。じゃあ、おやすみなさい」


 荒川が部屋に入るのを見届けると、俺は辺りを見回す。

「誰かの視線を感じる……一体誰だ?」

 三城が机の中に隠れていたというのは1回あったが、どうもそういう類ではないようだ。

 何か怒りというか、敵意を感じる。

「……気のせいか? そんなはずもないと思うんだが……」

 俺は特定を諦め、自室に帰った。

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