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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第4章 分裂
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44.一難去って……

 ひとまずの危機は去った。

「……しっかしまあ、よくこれで生きてたな」

 全身に打撲の痕が残り、血まみれの土岐枝を見て、俺はそう思うのだった。


「早いとこ清水と千曲に何とかしてもらわないとな……。立てるか?」

「うん……いたっ」

 土岐枝は立ちあがろうとするも、顔をしかめてうずくまる。

 見れば、土岐枝の脚は、棍棒で潰されたのか見るも無惨なことになっていた。

 ……何でこれで立てると思った?


「絶対無理だろ。……しゃーなし、よっこらしょ」

「はわわっ!? えっ、ええーっ!?」

 仕方ないから、土岐枝をひょいと持ち上げると、背中に背負う。

 血に濡れた感触が気持ち悪い。

 が、緊急事態だ、致し方なし。


 土岐枝を背負ったまま、来た道を戻る。

「……ねえ、神埼くん。どうして、助けに来てくれたの……?」

 背後から、土岐枝の弱々しい声が聞こえた。

 やはり衰弱している、早急に治療を行う必要があろう。

「何で……か。俺もよく理由は分からないが……、強いて言うなら、仲間だから、か?」

 あまり関わりはないとはいえ、いちおうは同窓。

 失うのは悲しいことだ。


「そうなんだ……。

 私ね、もうダメなんじゃないかって思ってたの。何が起こってるのかもわからないまま、ただ痛くて、辛くて、苦しくて……。

 もう友だちにも会えないんじゃないかって、もう二度と笑えないんじゃないかって。悲しいっていうか……ああ、もう終わりなんだっていう、諦め? みたいな……」

 そう語る土岐枝の声が、だんだんと震えてくる。

 改めて恐怖を思い出し、怖くなったのだろうか。


「だから……ありがとう……」

 その言葉を絞り出した土岐枝は、感極まって嗚咽を漏らす。


 ……めちゃくちゃ気まずいんですが。

 こういう場合、俺は何か言うべきなのか?

 それともそっとしておくべきなのか?

 いやでも、無視するのも憚られる気はするし、かといって気にかけないのも気が咎めるし……。

 取れる選択肢は一つ。

 さっさと他の奴に押しつける!



「ちひろーっ!!」

 どんでん返しを逆から押し、第3層に戻った瞬間、湯梨浜がこちらに駆け寄ってくる。

「ちひろ、ちひろは大丈夫なの!?」

「落ち着け! 死にかけだけどまだ死んではないから。さっさと清水と千曲に治してもらえ!」

「ゆりーっ!! 早く来てーっ!!」

 さっきまで首絞められてたとは思えないほどの声量。

 やはり、親友を思う気持ちというのは大きいのだろうか。


「……これは……」

 駆けつけてきた清水は、地面に寝かせた土岐枝を一目見るなり息を呑む。

「ひどい状態だな。……2人がかりでも命を繋ぐのが何とかだよ」

 言い終わると清水は、千曲と共に呪文を唱え始める。


「治療の邪魔はしないほうがいい。

 ……ところで、こっちは大丈夫だったのか?」

 周りにはモンスターの気配を一切感じない。

 逆に、湯梨浜と清水、千曲以外はどこかへ行ってしまったらしく、見当たらないのである。

「それなら、美鈴ちゃんと若山くんが大活躍だったよ。まあ、私も頑張ったんだよ?」

 土岐枝の無事をひとまずは確認し、一呼吸ついたのだろうか。

 そう語る湯梨浜の声は、先ほどよりずっと落ち着いていた。


「ならよかったが……。今はみんな何してるんだ?」

「周りにモンスターがいないみたいだから、また手分けして階段を探してるよ。

 ……でも私は、もう帰ったほうがいいと思うけどね……」

 湯梨浜の顔が曇る。

 土岐枝の治療という観点で見れば、俺も賛成だ。


 その時、騒ぎを聞きつけてか、日比野と泊が現れた。

「あっ、神埼くん。ということは……土岐枝さんは?」

「無事……とは言えないな。ひとまずの応急処置中……といったところか」

「そうなんだね……。まあ、生きて帰ってきてくれただけでもよかったよ」

 日比野は悲しげな顔をした後、励ますように笑みを浮かべる。


「あんた、責任とってくれるんでしょうね!」

 その時、憤怒に満ち溢れた顔で泊を睨みつける湯梨浜が、地の底から響くような声を上げる。

「な、何だよお前。……だから、反省してるっていってんじゃねえかよ。乱暴して悪かったって……」

 その迫力に気圧された泊は、掠れた声を上げながら後ずさる。

 だが、その言葉を聞いた湯梨浜は、さらに怒りのボルテージを上げた。

「私に対することなんてどうでもいいのよ。ちひろにどんだけ怖い思いをさせたか、分かってないの? 本当に死にかけたんだからね!?

 あなたがどれだけバカやっても知らないけど、私の友だちを傷つけたら許さないから」


 さっき広がった光景とは、完全に構図が逆転していた。

 違いがあるとすれば、泊の行動に意味はなかったが、湯梨浜の今の怒りには、明確な理由があるということだ。

 後ろに燃え盛る炎さえ見える湯梨浜に、泊はまるで鼠のように縮こまっている。

 一瞬言い返そうとするも、その口からは情けない、声にならない声しか漏れ出てこない。

 その姿には、数十分前の横暴な態度は、片鱗も残っていなかった。


「……ふう、これでひとまずは大丈夫だ。早いとこアルトに帰って、本格的な治療をしないと」

 振り返ると、清水が額の汗を拭っている。

 土岐枝の全身に小さな結界を張り、かろうじて失血を抑えている。

 なかなか高度な技術だな。


 自力で起き上がった土岐枝を見るなり、湯梨浜はそちらに駆け寄る。

「ちひろ、大丈夫!?」

「うん。……神埼くんがね、助けてくれたんだ」

 なんか勝手に感謝されてんですが。

 そんな大したことしてないぞ?


「良かった。神埼くん、ありがとね。……泊くんも、これで反省するだろうし……」

 日比野はそう言うと、恐怖のあまり失禁した泊を、やれやれといった様子で見つめる。

「……この服、こいつに新しいの買わせてもいいか?」

「服? ……!?」

 何となく聞いてみた言葉にこちらに向き直った日比野は、俺の着ている服に気づき目を見開く。


 改めて見てみると、本当に酷い格好してるな、俺。

 オーガの血やら土岐枝の血やら涙やら、もはや地面より汚い。

「……本当に大変だったんだね。私が責任を持って泊くんに言っておくよ」

 よっしゃ。


 その時。



「きゃああああっ!!」



「今度は誰だ!! ……!?」

 その悲鳴の主の正体に思い当たり、背筋が凍る。

「行くぞ! 修道士(プリースト)組もついてこい、土岐枝は任せたぞ、湯梨浜!」

 そう言い残すと、俺は地面を蹴って駆け出す。

 後ろから、清水と千曲、追って日比野の足音が聞こえる。


 あいつに対して、何か思うところがあるわけではない。

 それどころか、むしろ厄介な奴だ。

 だが……。

 死に別れは嫌だ。

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