40.アルトの変化
サフェル村での工事も終わり、大部分の冒険者はアルトへ帰ってきた。
活気あふれる町には、今日も賑やかな声が響く。
「おーいお前ら、号外だ号外だ!」
宿を出た途端、新聞をばら撒く新聞屋に出会った。
何だと思い、金を払って一部買った。
『サレン川をわたる国境の橋開通 エルフ国と歩いて往来できるように』
大見出しには、そう文字が踊っている。
どうやら、エルフ国の魔法技術が想定より高く、予定よりかなりの急ピッチで建設が進んだらしい。
明日には、さっそく西エルフ国への商隊やら観光客やらがアルトを発つそうだ。
道中にはサフェル村も寄ることになるので、そこにもいい影響をもたらしてくれるだろう。
ページをめくると、『王国議員の不正契約発覚 関係者ら捜査へ』と。
ライプツィヒたちのことか。
せっかく改心して村の発展に協力してくれただけに、少し悲しくはあるが……。
まあ、そのうち豚箱から出てくるだろう。
この新聞は、サフェル村関連の特集らしい。
他にもリューベックやケルン侯爵へのインタビュー記事やら、村の店舗紹介などが所狭しと並べられている。
……ん?
『二日酔いでインタビューに応じてくれたアイセンさんは、「村が発展するなら願ったり叶ったりです。……うえぇ」と嬉しそうに語った』
……だめだこりゃ。
さらに読み進めていくと、俺たちの記事も載っていた。
どうやら土岐枝がインタビューに応じたようだ。
……俺のところ記者1人も来てないんですけど。
新聞を読み捨ててギルドまで向かうと、何やら冒険者が長蛇の列を作っていた。
ああ、今日が報酬の受け取り日だったか。
「おい聞けよ、なんか報酬がめちゃくちゃ高いらしいぞ」
並んだ瞬間、前の冒険者が振り返ってそう言った。
サフェル村やエルフ国からの謝礼金が大量に出ているらしいから、その影響か。
「……重っ!?」
巾着袋を受け取った瞬間、ずっしりとした重さに驚愕する。
これ何万あるんだ!?
「……1人80000カラン、28人だから……200万!?」
日比野が飛び上がる。
そりゃそうだ。これまでの収入なんて、1日20万がいいところだ。
それを一気にドカンと10倍。驚かないわけがない。
「……おい、こんな大金あったら何でもできんじゃないか?」
「1週間くらいは遊び回れるぞ」
「何言ってんのよ、これは将来のために全部貯金よ」
「そりゃひでえよ。せめて半分は持っておこうぜ」
皆は大金を前にやいのやいのと口論を繰り広げる。
「はーいみんな、ちょっと聞いてくれるかな」
日比野が言葉を発した瞬間、皆は勢いよくそちらに向き直る。
……怖い怖い。
「やっぱり、将来のためにも貯金は大事だと思うんだ。だから、みんながもらった8万カランから、それぞれ5万ずつ貯金しようと思うんだ。いいかな?」
皆は賛成の意を示す。
……しかし、貯金箱に入れるには大金すぎる。
かといって、この世界に銀行のようなシステムはない。
どうしたものか……。
「えー、貯金箱ー、いくらでも入る丈夫な魔法の貯金箱はいらんかねー」
ギルドを出ると、貯金箱売りとかいう見たこともないような行商人が露店を出していた。
普段は稼いだ側から使い果たす冒険者たちが長蛇の列を作っているのを見るに、やはり8万というのはかなりの大金のようだ。
「……本当に全部入っちゃったよ」
1人5万カラン、合わせて140万カラン。
何百、いや何千枚もの金銀の硬貨が、サッカーボール程度の大きさの貯金箱に吸い込まれる。
「おい、これ本当に大丈夫なのか? 開けたら無くなってたりとか」
井川が不安の声を上げる。
この貯金箱には、幾つもの魔法がかけられている。
まずは空間魔法。中の空間を捻じ曲げ、大量の金を貯められるようにする。
結界を張り、物理攻撃や魔法攻撃から中身を守る。
そして錠前魔法。
最大で5人を登録でき、その人でなければどう足掻いても開かない。
魔力の流れ方とかを感知しているそうなので、変な細工もできない。
「……問題は、誰がその5人になるか、か」
別に1人でも可能ではあるのだが、その1人に万が一があった時が怖い。
そう考えると、やはり信頼のおける人物複数に任せるのがいい。
「まあ美月ちゃんはいいでしょ。あとみさき」
指を折りながら言う土岐枝に、皆が頷く。
「男子で1番信用できるのは翔だよな」
「うーん……まあ、そうかな……うーん?」
「えー、北斗のほうが信頼できるでしょ」
笹川の言葉は、女子たちの微妙な意見に沈んだ。
まあ確かに、信頼できるかと言われると、うーん?
……結局、持ち主として登録するのは、日比野、橋本、寺田、坂北、そして芳賀の5人となった。
異彩を放っているのは芳賀だが、「人畜無害そう」という悲しい理由である。
ちなみに、清水と俺も1回は候補に上がったのだが、どちらも面倒ごとを回避するため断った。
もし盗まれたりした時に疑われるのは嫌だからな。
さて、残りの3万カランをどう使おうか。
1万は、ヘードルとの戦いでの報酬と合わせ、自分で貯金することにした。
残りの2万で買いたいものがあるかといえば……。
あった!
俺は宿を飛び出し。目的の店を目指す。
「いらっしゃい。何をお探しですか?」
「魔法の杖を。予算は1万カランで」
武器屋に飛び込んだ俺は、ポケットの金貨を検める。
よく使う属性は何かとか、デザインはどうかとか、攻めか守りかとかの色々な質問に答えると、店員は一度奥に引っ込んだ。
やがて、布で巻かれたものを持ってくる。
「……こちらはどうでしょう」
布を取り払うと、そこには目の覚めるような真紅の宝玉が輝く杖が。
「おお、なかなかよさそうだな」
「裏にお試し用の広場がございますので、そちらでお好きなように」
「『不知火』っ! ……何だこりゃ!?」
魔法を放った瞬間から、違いがわかった。
まず、魔法を放つ時に熱くない。
そして、同じだけ魔力を込めたはずなのに、明らかに炎が強い。
「魔力効率を高めてございますので、同じ魔力でより強力な攻撃が可能です」
なるほど。俺の魔力の高さと組み合わせれば、大きな効果を発揮しそうだ。
「買った。9500カランだったか?」
「毎度あり」
新品の杖を片手に、今度は服屋へと向かう。
いい加減、そろそろ魔術師らしい服が着たいのだ。
「魔術師に合った服を。予算は1万で」
「でしたら、魔力の流出を防ぐスペルシルク製のものがおすすめですね。あちらの列にございます」
そちらの列に向かい、雰囲気が1番良さげなものを選ぶ。
純白の布地に、赤色の装飾が施されているもの。
店員に見せると、それに合うズボンやその他を選んでくれると言う。
「……いいなこれ」
とてもかっこいいのである。
焦茶色のズボンに臙脂色のマント、戦利品を収めるポーチまで。
さらには杖を剣のように差せるフォルダーもついている。
機能性よし、見た目よし、着心地よしの逸品だ。
「これにする」
「毎度ありがとうございます」
町を歩いていても、やはり以前と視線が変わった気がする。
前は本当にただのどこにでもいる子供だったから、一気に大人扱いされている気分で爽快だ。
「おっ、服買ったのかい。それに杖も」
いつもあそこで露店を出しているパン屋の店主が、こちらに気づき声をかけてくる。
「ああ。やっぱりちゃんとした服を着ると気分も変わるな」
「なら、腹を満たしてもっと気持ちよく過ごそうぜ。今日はおまけだ、1個サービスしとくよ」
……このパン2個はちょっと多いんですが。
流石にフランスパン級の大きさのパンを2個食べられる胃袋は俺にはない。
道端の三城を捕まえ、1個押し付けることにした。
「あっ、しーちゃん……ってなんかかっこよくなってる!」
「……そうか? うん」
ちょっと返答しづらいんですが。
「……そういうお前も服買っただろ」
三城は三城で、何やら新しい服なのであった。
「どう。似合う?」
「まあ?」
ニッコニコで聞いてくる三城にまともに返答するのも疲れるので、生返事。
……何その顔、怖い怖い!!
「わかったわかった。似合ってる似合ってる」
適当に返事しただけなのに、褒められたと思ってニヤニヤしだした三城にパンを押し付け、俺はさっさと逃げ帰ったのであった。




