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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第3章 エルフの村
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幕間.若山直人

 サフェル村では、祭りが行われていた。

 その喧騒から、1人の男が森へと逃げるように吸い込まれていく。


 その男──若山直人は、深く悩み、苦しんでいた。

 端的に形容するならば、劣等感、か。

 彼はいまや、親友である野口啓二に対してまでも引け目を感じている。

 さっきだって、祭を大いに盛り上げる野口の姿を目にし、いたたまれなくて村を飛び出したのだ。

 彼の手放さない武器である槍すら持たずに。


 その時、若山は脇目も振らずに歩いていた足を止めた。

「……何やってるんだろうな、俺」

 周囲を見渡すと、自虐的に息を吐く。

 そして、元来た方向へと、ゆっくりと歩みを進める。


「お待ちなさい、若いお方」


 後ろからの声に、若山は振り返る。

 不気味な泣き顔を模った仮面と、滑稽なほどに整えられたスーツ。

 そのあまりにも場違いな佇まいに、彼は軽く声を漏らす。


「恐れる必要などありませんとも。私は貴方の味方」

 人影は、男とも女ともつかない声で、優しく語りかける。

 その姿はどこか神秘的で、それなのに得体の知れぬ不気味な感じを抱かせた。

「……あなたなんかに用はありません。帰ってください」

 若山は人影を拒絶した。

 ……自分の悩みなど、今出会ったばかりの胡散臭い奴にわかってくれるわけがない。


「あなたは、自分の弱さを悔いている。違いますか?」

 人影は強引に話を続けた。

「……」

「答えませんか。ならもう少し詳しく。……ほう、剣術の達人」

「なっ!? ……お前、何者だ!」

 突然に人影から飛び出した言葉に、彼は動揺した。

 得体の知れぬ人影から、若山は半歩、また半歩後ずさる。


 人影は手を大仰に広げ、まるで若山を抱擁するかのような姿勢をとる。

「ですから、私は貴方の味方なのです。どうか怖れず、貴方の抱える悩みを私に話してください。私にできることなら、何でも手助けしましょう」

 全てが怪しい人影。

 だが、若山の心からは、徐々に徐々に、人影への警戒心が薄れていたのであった。


「……俺は……」

 若山は、自身の境遇を、人影に語り始めた。

 親友である野口は、剣術で仲間に大いに貢献している。

 それなのに自分は、大した活躍もできていない……。

 彼が話すたびに、人影は大いに頷き、共感と同情の言葉を囁いた。

 その泣き顔の仮面は、まるで彼を憐れんでいるかのようだった。


「……だから、俺はもっと活躍したい。ちゃんと貢献できるような──」

「仲間に貢献することだけが、人生ではないですよ」

 突然、人影は初めて若山の話を遮った。

「……どういうことだ?」

「言葉通りの意味です。

 先ほどから、貴方は仲間への貢献や奉仕をしたがっているような口ぶりでした。……しかし、それで本当に満足できるのですか? 自分を押し殺し、全体の目標に合わせ、心を削って働いて」

 人影の言葉に、若山は黙り込む。


 たっぷり十数秒の後、若山は言葉を発する。

「……それでも、あいつらは仲間だ。たとえお前の助けを借りるとしても、仲間を裏切るような生き方はしたくない」

 人影は一瞬固まる。

「そうですか……。それもまた人の生き様の一つ、否定はしません。

 ……おや、貴方の心には、もう一つの悩みがあるようですが……」


「もう一つ……? そりゃ些細な困り事はたくさんあるが、そこまで深刻な悩み、俺には……!」

 若山はそこまで続けると、はっとしたように息を呑む。

「あったでしょう? 若者に特有の、楽しくも辛く悲しいものが」

 人影の口調は、まるで母親のように優しく穏やかなものになっていた。


 若山は俯くと、吐き捨てるように話す。

「……無理だよ。あの人は……俺なんかと釣り合うような人じゃない」

「ほう。詳しくお聞かせ願えますか? 場合によっては、私が手助けできるかも」

 人影の提案に、若山は逡巡するも、やがて話し出す。

「……あの人はみんなに優しい。いつも場の中心で、それでいて細かなところにも気を配ってくれる、そんな人だ」

 彼は、自身の思いを次々と吐露する。



「……なるほど。とても素敵な方ではないですか」

「そうだよ。でも……いや、だからこそあの人の目には、俺はいない」

 悔しげに唇を噛む若山を、人影は愛おしそうに、あるいは見定めるように眺める。


「……やはり、貴方は私の助けが必要だ。私ならば、どちらも確実に解決して見せましょう」

 人影は、突然そう言い放った。

「……本当か?」

「ええ。戦いの腕や貴方の魅力を直接引き上げることはできませんが、周りに働きかけることはできます。私と契約したならば、すぐにでも貴方のために働きます」

「契約……悪魔か」

 若山の顔に、再び警戒の色が戻ってくる。


「私は悪魔などではございません」

「……じゃあ、お前は誰だ。お前は俺に何を望む」

 若山の顔には、不安の影がちらつき始めた。


「私はガイスト。選ばれし種族ガイストでございます」

「選ばれし種族……か」

 若山は、その言葉を口の中で転がす。

「私にはある方面に関する卓越した才能がある。それはこのような形での人助けにこそ生かされるのですよ」

 人影、いやガイストはそう語る。


「……何が望みだ。そして一体どのように俺の願いを叶えてくれるんだ?」

「望み、つまりは代価ですか。強いていうならば、情報集めなどに付き合っていただきたい。

 ……貴方の願いには全力で応えます。茶番でも籠絡でも、あらゆる手段を使ってね」


 ガイストがそう言った瞬間、彼の心は決まった。

 やはり……。

 彼は、彼の決断を口にする。

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