39.村の未来を祈り
会議が終わり、2週間がたった。
方針は瞬く間にまとまり、翌日には条文改正がはや成し遂げられた。
その次の日には、冒険者たちがサフェル村へ怒涛の街道建設を始めたから、皆の団結力も侮れない。
あともう2週間もすれば、ここにも街道が到達するだろう。
……そう、俺は今サフェル村にいる。
土岐枝と共に、村の新たな街区の設計・建設を指揮しているのだ。
「……まさか、村を見つけただけでここまで偉くなるとはなぁ……」
ちょっと前まではしがない冒険者だったのに、今や観光開発総合戦略設計委員長とかいうよく分からないポストについてしまった。
まあ、臨時のお偉いさんといったところだ。
「店は街道沿いに集中させたほうが、行き交う人々が立ち寄りやすいと思いますね」
「しかし、ここへの出店希望はすでに100件を超えています。全部を街道沿いに配置するのは不可能です」
「じゃあ、街道を左右に分けて、また戻すのはどうです?」
「なるほど。……だが、それでは急ぎの人が迷ってしまうのでは?」
俺たちは、この辺りの地図を囲んで意見をぶつけ合う。
おかげでかなり計画も具体的になってきた。
なんちゃらかんちゃら委員長の仕事は、地図と睨めっこすることだけではない。
「おお、カンザキじゃねえか!」
「俺も手伝うぞ。……えーと、この柱とあっちを繋げばいいのか……」
街道の予定地沿いには、すでに何軒もの建物が建てられている。
奥の方には宿の建築も進んでいる。
サフェル村とは少し離れた位置にあるので、向こうの静寂を乱すこともない。
「お、おい! 向こう、なんか見えるぞ!」
端の方にいた冒険者が、驚きの声を上げる。
「何だ……って、もう来たのか!?」
遠くから、怒涛の勢いで木が引っこ抜かれ、地面が押し固められる轟音が響いてくる。
予定じゃまだまだかかるはずだったのだが……?
その爆音は瞬く間に俺たちの目の前まで押し寄せる。
「……ついたぞーっ!!」
先頭にいた松久が、勝利の雄叫びを上げる。
「……まさか、お前ここまで木を引っこ抜きながら来たのか!?」
「流石にそれは無理だよ。せいぜい30本くらいだ」
いやそれでも十分無理だが。
後ろからぞろぞろと出てくる冒険者の中には、最近会っていなかった懐かしい顔ぶれも。
「よう神埼、元気してたか?」
井川は俺を見つけると、気さくに話しかけてくる。
「最近はずっと忙しくて死にそうだ。そっちは何か変わったことはないか?」
「あれからは特に何もだな。頑張ろうな」
そういや、何か変な事件があったんだっけか。
ここのところずっと土木工事で、冒険者たちはさぞ疲れが溜まっていることだろう。
仕事終わりの時間、俺は冒険者たちを広場になる予定の空き地へ集めると、発表を行う。
「えー、総合戦略……じゃない、観光……何だっけか? ……まあいいや、神埼時雨です。
皆さん、長期にわたる工事、お疲れ様でした。今日は、このサフェル村に街道が繋がった歴史的な日です。それを祝し……。
今日は村人の皆さんの協力のもと、祭りの開催だーっ!」
「「おーーーーっ!!」」
村長の粋な計らいで、街道開通を祝う祭りが急遽開かれることになった。
たまにはこんな日があってもいいだろう。
冒険者たちは、雄叫びをあげたり舞い踊ったりしながら、村の方へ走っていく。
あんまり暴れないでほしいがな……。
だが、今日は俺も小躍りしたい気分だ。
村へ向かうと、提灯や幟があちらこちらに。
村人も冒険者も、あちこちで騒いでいた。
「いやあ、今日はめでたい日ですねぇ。ほらカンザキ君も飲んで飲んで」
「お酒無理ですよ!? 俺まだ16ですよ!?」
だめだ、この人酒が入ると面倒臭くなる人だ……。
ジョッキを押しつけてくるアイセンをリリアに引き渡し、俺はそそくさとどこかへ去った。
後ろからリリアの悲鳴が聞こえてくるが、まあいいだろう。
その時、向こうで歓声が上がる。
行ってみると、野口が剣で演舞を披露していた。
まるで本当に敵と相対しているかのような動きに、誰もが息を呑む。
「はあっ!!」
「「おおーーっ!!」
披露が終わると、湧き上がる拍手と感嘆の声。
「いやあ、つい興が乗っちゃった。はしゃぎすぎかな? 直人……いない?」
……しかし、こう人で混み合った場所にいると、何と言うかこう……。
具合が悪くなるのだ。
人酔いってやつだろうか、俺は昔から喧騒が苦手だ。
地域のお祭りとかでも、30分くらいでダウンし、吐き気がおさまるまで静かな場所で過ごす羽目になる。
で、なぜかちょうど具合が良くなったタイミングで、三城がわた飴を持って俺の居場所を的確に当ててくるのも毎年のことだ。
今日も例によって村から少し離れる。
すると、人影を2つ見つけた。
俺と同じか……。
「よう、大丈夫か?」
「っ……!? あぁ、何だ神埼か。ちょっと人混みは苦手でな……」
声をかけると、芹沢だった。
元から体調が優れないのかもしれない。芹沢は目を逸らすと、座り込んでしまった。
お大事にと声をかけ、もう1人を探す。
さっきまで芹沢の近くにいたので、そこまで遠い場所にはいなさそうだが……。
「……俺の見間違えか?」
見える場所のどこにも、それらしき影は見当たらない。
まあいい、気にしないことにしよう。
夜も更け、宴は終わった。
冒険者たちは例によって野宿……というわけにもいかず、大至急で小屋をおっ立てた。
ちなみに、俺はリリア一家に居候状態だ。
土岐枝は隣のレイラちゃん家に住み着いている。
最近は忙しいこともあり、リリアにこき使われることもない。
いや、もしかしたら見放されたのかも……。
ずっと縁側で寝させるのは申し訳ないということで、最近はリリアの子供部屋を貸してもらっている。
布団に入り、今後のことに思いを巡らす。
サレン川に架ける橋の建設にはまだまだ時間がかかるので、ひとまずの工事はこれで終了となる。
また、ようやく王都からの正式な監督官が到着したため、今日いっぱいで俺はクビだ。
……まあ、気が楽でいい。
またアルトでの平和な暮らしが戻ってくる……。
感慨に耽りながら、俺は眠りについた。




