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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第3章 エルフの村
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37.ちびっ子に負けました

 俺たちは、アイセンに留守番とリリアの子守りを頼まれた。

 そのはずだったのだが……。


「だめ! それ水で洗ったらちぢむ!」

「もう、切り方が違うよ。繊維切らないとまずくなるよ」

「ちょっと火が強すぎ! 焦げちゃう」

「何やってるの!? 魔法の杖は聖水で手入れしないとだめになるよ!」

 俺たちは、リリアに小間使いとしてこき使われていた。


 エルフの家庭では、子供が家事をするのは一般的なことだ。

 リリアからしてみれば、俺たちはいい歳をして家事もできない変人だ。

 異世界の常識なんて知らないのだが……。


 パリンッ!


 ……またか。

 土岐枝が皿を割るのは、すでに3回目だ。

「あぁごめん! すぐに片付けるから……いたっ!」

「何回言ったらわかるの!? 見えないところにも破片があるんだから気をつけてって」

 リリアが呆れた顔で駆け寄ると、血の滲んだ土岐枝の手を確認する。


「そこのにいちゃん、右の戸棚から薬草取って!」

「あぁ俺か? ……どれだ?」

 リリアの指示に俺は近くの戸棚を開くが、そこには瓶に入った薬草が所狭しと並んでいた。

「止血といったらカタミ草に決まってるでしょ!」

「それがどれだかわからないんだよ! ……もう適当に渡すぞ!」

 1番取りやすい位置にあった瓶を手渡した。

「ってこれ傷口に塗ったらめちゃくちゃ染みるやつじゃん! このバカ!」

 ……難しいよ。



 結局、まるまる1時間の間に、食器3つ、野菜6束、服5着をだめにするという悲惨な成績を残し、今日の家事は全て終了した。

 俺たちは、リビングに並んで正座されられている。

 その前に、魔法の杖を振り回すリリアが仁王立ちになる。

「まったくもう、どれだけ失敗すれば気が済むのよ。これくらいお隣のレイラちゃんにだってできるよ! ほんとに、今までどうやって生活してたのか逆に気になるよ」

 日本というとても便利な世界で生きてましたよ。

 ……ていうか誰だよ隣のレイラちゃんて。


 その時、玄関がガチャリと音を立てて開く。

「あ、お父さん!」

「いい子にしてたかリリア。……どうして皆さん正座を?」

 リリアの頭を撫でたアイセンは、こちらを見て心底不思議そうに呟く。

「「「そこの子供にお仕置きされてました」」」

「えっ、ちょっ──」

「リリア、これは一体どういうことかな?」

 ……その後何が起こったかは言わないでおこう。



 会議の日程が決まった。

 ケルン侯爵をはじめとした役人たち、俺たちアルトの冒険者、そして村人。

 一方では、議決案を無理やり通した議員や、悪い噂の立つエルフ側の議員。

 明日、この村で、この村の運命を決める会議が開かれる。


「皆さん、できましたよ」

 アイセンの声が、俺の思考を現実に引き戻す。

 夕食の時間だ。


 ダイニングテーブルには収まり切らないので、縁側に並んで座る。

「いただきまーす。ってこれ……」

「ええ、この村の郷土料理です」

 なんか炊き上げられた白くツヤのある穀物と、芳醇な香りの漂う茶色がかった汁物があるんですが。

 あのー、ここって異世界でしたよね?

「お飲み物もどうぞ〜」

「お茶っ!?」


「……うん、懐かしい味だ」

「気に入っていただけたようで何よりです。食事は私たちの誇りの一つですからね」

 米と味噌汁以外は、不思議な形の山菜やキノコ、よくわからない肉をよくわからぬ調理をしたものなど、まさに異世界といった感じだ。

 見た目はインパクト強いが、これまた口に合う。

 全体的に深みのある味付けのおかげだろうか。


 食事も終わり。

 皿洗いを手伝いながら、アイセンと立ち話をする。

 ちなみに土岐枝はリリアが必死で押し留めている。

「……明日の話し合いには、私も参加します。最善を尽くしましょう」

「ええ、気を引き締めなければ。

 しかし、運命とは残酷なものですね。もし俺たちじゃない人がこの村を見つけていたら、このような会議の場すら設けられなかったかもしれない」

「運命の女神は、この村を護ろうとしてくださっているのでしょうか」



 翌日。

 この家は狭いので、まともに人の寝れる部屋は2つしかない。

 俺たちは遠慮し、4人まとめて縁側で寝ることにしたのだ。

 地面に転落した痛みに目が覚めると、奥の方でアイセンが朝食を作っていた。

「ああカンザキ君。すみませんが、リリアを起こしてきてくれませんか」


 リリアの眠る子供部屋に、ノックもせず押し入る。

「おーい、朝だぞー。人に家事云々言ってる割には、1人じゃ起きれないのかー?」

「……もう、お父さんいつも朝早いんだから。

 ……ってなんで家事へったくそにいちゃんがここにいるのよ!」

 何だよ家事へったくそにいちゃんって。


 どこか和の雰囲気を漂わせる朝食を済ませ、会議の会場へと向かう。

 そこには、ケルン侯爵や役人たちがすでにいた。

「この村はどうでしたか? ケルン侯爵」

「カンザキ殿か。素晴らしい、の一言に尽きるな。この村を潰すなどあり得ぬ話だ、必ずや議員どもの裏の顔を暴いてみせようぞ」

 彼はリューベックのように議員たちの裏取引を直接目撃したわけではない。

 しかし、かなり疑っている様子だ。


 その時、奥の地面に光が広がる。

 それははっきりと魔法陣の形をなすと、ひときわ強く光った。

 それが収まると、何人もの人影が現れていた。

 アルトでの発表の際、裏でニヤニヤと笑っていた議員たちだ。


「転移魔法で来るとは、ずいぶんといい身分だな」

 その時、ケルン侯爵が敵意の目線で議員たちに歩み寄る。

「これはこれはケルン侯爵殿。しかしこの距離です。転移魔法を使わなければ到底間に合いますまい。かような日程を組むとは、そちらこそいいご身分で」

 1人の議員は、そういうとフンと鼻で笑う。

 ケルン侯爵の顔がみるみる紅潮していくのが、横目で見てもわかった。


 ちなみに転移魔法というのは、高い技量を持つ、それこそ王国直属の魔術師(ウィザード)数人がかりで、1時間にも及ぶ複雑な手順を経てはじめて発動できる、極めて難易度の高い魔法だ。

 このような国家の行事でもなければ、まず使えない。

 ケルン侯爵の不満も、議員の言い分もどちらも正しいのだ。

 ……あんまり関係ない争いはやめていただきたいのですが。


 その後、似たような魔法陣から、今度はエルフ国の議員が現れた。

 彼らは王国議員と目配せすると、ニヤリと笑った。

 まあ、こいつらも敵だろうな。

 全員が揃い、円形に何台も並べられた長机に、各陣営が座った。


「では、これよりサレン川同盟改正の是非、およびサフェル村の処遇に関しての会議を執り行います」

 司会のエルフが告げる。

 ここに、剣を持たぬ戦いは始まった。

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