34.スライムとエルフ村
たかが高校生の俺たちに、大それた名案が思いつくはずもなく。
そうこうしている間に、日が暮れてきた。
早く帰らないと、他のグループを心配させてしまう。
「今日は本当にありがとうございました。この素敵な村に、また来てみたいものです」
「名残惜しいですが、またいつでも来てくださいね。歓迎します」
リリア一家は一礼すると、森へと消えていく俺たちに手を振る。
しかし、またサフェル村を訪れることができるかは、分からない。
このまま工事が進めば、この村が見つかるのは時間の問題だ。
頭の硬い大人どものことだから、条文に則ってここを取り潰すだろう。
そうなってしまう前に、俺たちが状況を変えなくては。
俺は、合流地点を目指しながら、思考を巡らせる。
今のところ思いついた作戦は2つ。
まず、この村の歴史的な価値をアピールすること。
他との交流を経て大きく変化してきたエルフ諸国と違い、外部と隔絶されたこの村の生活様式は、旧来のエルフのそれを色濃く残している。
文化の保護という名目で、この村を存続させることができるかもしれない。
しかし、魔法の普及したこの世界では、村をそのまま移動させることなど容易だ。
高度な技量と大量の魔素を消費するものの、人や物をそのまま移動させる転移魔法という技術は存在する。
よりアクセスのよく便利な位置に、村ごと飛ばされてしまうかもしれない。
村人たちが散り散りになってしまう可能性は低いが、山に囲まれた今の生活とはかけ離れたものになってしまうだろう。
そこで2つ目、この村に経済的価値を見出すこと。
宿場町としての活用はもちろん、豊かな自然と森の恵みを生かした観光地としての発展が期待できる。
何より、人間たちの間ではエルフはやたらと人気だ。
サレン川を渡らずともエルフと出会えるというのは、十分にここを訪れる動機になる。
この作戦の最大のデメリットは、村人たちの静かな生活は失われてしまうことだ。
最悪の場合、宿の経営や観光案内などで、村人たちが忙殺されてしまう危険がある。
田園や森の恵みを管理する人がいなくなれば、いずれこの村の魅力は失われる。
そうなった時が、この村の終わり。
「……どう転んでも絶望的じゃないか」
俺は思わず呟き、頭を抱えた。
ちっぽけな俺たちの無力さを痛感する。
その時、喝を入れるように、背中を強く叩かれた。
「痛って! 誰だよ」
痛みに歩みを止めて振り返ると、榎田がチッチッと指を振る。
「あんたが何考えてるかは知らないけどさ、そんなに思い詰めたらいい案も浮かばないって。
みんなで考えりゃ、きっといい案も浮かぶっしょ?」
「うんうん、きっとだいじょーぶ!」
明るい声で言う榎田に、三城が合いの手を入れる。
「……まあ、それもそうか」
ひとまずは楽観的に考えよう。
猶予は少なく見積もっても1ヶ月はあるのだ。
まだ焦ることはない。
1時間ほど歩くと、すっかり真っ暗になってしまった。
「あ、いた! おーい、みんなー!」
森を出たところで、土岐枝がこちらに駆け寄ってきた。
「もう、遅いからみんな心配してるんだよ。ほらほら」
土岐枝は俺たちの後ろに回り込むと、まとめて背中を押す。
「こんなに遅くになるまで、何かあったのか?」
拠点に戻ると、清水が心配そうな目でこちらに尋ねる。
「特に危険な目にあったわけじゃないが……、少々面倒な事態になった。
全員に知らせておきたい、集めてくれ」
料理の支度などをしていた皆が、一堂に会する。
俺や榎田が中心となって、状況を説明した。
森の奥にひっそりと佇むエルフの村。
そこでの心豊かな生活と、その危機。
それを回避できるのは、現状俺たちだけだということ。
「うーん、確かにそれは難しい問題だね。お偉いさんたちをどう説得するか……」
話を聞き終えると、日比野は目を閉じて考え始める。
「はーい。
やっぱりその村のいいところをアピールして、みんなに知ってもらうのがいいんじゃない?」
湯梨浜が、意見を口にする。
なるほど、多くの人がサフェル村の存在を知れば、守ろうとする運動も広まるな。
「でも、それで条文改正まで持っていけるかは微妙だよな。大人ってのは頭が硬いしな」
松久が不安を語る。
「役人を納得させるなら、結局金だよな。その村が金になるって証明できれば……」
若山がそう口にした。
けっこう危ないこと言ってるが大丈夫か?
その時、後ろから気配を感じた。
「何だ? ……スライムか」
振り返ると、ちょこんと大人しく佇み、こちらを見上げてくるスライム。
「……なんで襲わないんだ?」
普通のスライムなら、こんなことせず体当たりしてくるはずなのだが。
その時、俺はポケットにしまったものを思い出す。
「これが欲しかったのか。……やらんぞ」
俺はポケットから白い饅頭を取り出すと、スライムから遠ざける。
饅頭を追いかけて飛び上がったスライムに、魔法を放とうとしたその時。
「なんかおまんじゅうとスライムって似てるね〜」
千曲がこちらを見てのほほんと呟いた。
なるほど、地面に激突したスライムと手元の饅頭を見比べてみると、確かに似ている。
どちらも少し潰れた球だし、色も若干似ている。
その時、土岐枝がはっとしたような表情で手を挙げた。
「ねえ、それ使えるんじゃない!?」
スライムと饅頭を交互に指差す土岐枝に、詳しく説明するよう促す。
「……なるほどねぇ」
彼女の提案した作戦、名付けるなら「スライムの村作戦」。
リリアの育てた大量のスライムを使って、サフェル村をスライムの名産地にするのだ。
スライムというのは、もともと愛嬌のある姿から女性や子供に人気だ。
ぬいぐるみや饅頭を売ることもできるし、何ならペットとして売れるかもしれない。
「つまり、子供を味方につけて、役人の情に訴えかけるってことか」
「言い方がちょっと気になるなぁ……。
でもまあそういうこと。自然が豊かだし、いろんな世代の人に魅力的なところにできるんじゃないかなぁって」
なるほど、文化的価値や豊かな自然に惹きつけられる人に加え、若い世代にも訴えかけられるのは強い。
スライムを辺りに放っておくだけで、村人たちの負担も減らせる。
検討する価値はあるかもしれないな……。




