33.スライムの正体
アイセンと別れ、村を散策する。
まばらな家の間には田畑が広がり、作物が実りを迎えていた。
「おお、君がさっき来たっていうよその人か。ゆっくりしていきなされ」
畑で何かを収穫していた老エルフが、気さくに話しかけてくる。
「ええ、そのつもりです。
……それって何の野菜なんです?」
「興味を持ってくれたのかい。ちょっとこっちへおいで」
狭い畦道を歩いて老エルフの元へ行くと、彼は収穫した作物を見せてくる。
「……え、大根?」
「知ってるのかい。出汁で煮込むと美味しいんだよ」
うーん、大根が異世界にあるイメージ皆無なんですが。
改めて見てみるとこの村、家々の屋根が茅葺きだったり、黄金色の田んぼが向こうに見えたりと、どうにも和風な感じがするのだ。
法被を羽織ったエルフの青年が、こちらに会釈すると、下駄のカラカラという音を響かせて通り過ぎていく。
……どういうことだ?
疑問を抱えながら畑を離れ、店の立ち並ぶ村の中心へと向かう。
一つの店へ立ち寄ると、白と紅の丸い何かが。
「……饅頭!?」
「あら、ご存知ですの。中には小豆を煮たものが入っていて、とても美味しいんですよ」
偶然と呼ぶにしては、あまりにも……。
「……味も饅頭だな」
2個だとお得らしいので、そうした。
1個は後で誰かにあげよっと。
そう思いながら、ふと横を見ると。
何かが走り去っていった。
人影は、人目を避けるように家々の間を縫って遠ざかっていく。
……泥棒か?
何やら怪しげな雰囲気がしたので、追跡することにした。
足音を殺しながら、人影を追う。
村の外れへ向かうにつれ、家は劇的に少なくなり、身を隠す場所も減る。
ついに、人影の全身をはっきり見ることができた。
俺たちに戦いを挑み、惨敗した少女。
リリアが、脇目も振らず森へと駆けていく。
「……待てこのやろう!」
一度倒した相手だ、思わぬ反撃に遭う心配もない。
相手を警戒して速度を抑えていたが、その必要もないようだ。
俺は全速力で、リリアを追う。
リリアに追いついたのは、俺たちとリリアが最初に遭遇した場所の反対側。
彼女が森へと消える寸前、その肩を掴む。
「……何をしている?」
「ひっ! た、ただの散歩だよ!」
「そんなわけないだろう。それとも何だ、エルフは死に物狂いで散歩するのか?」
詰問すると、とうとうリリアは観念したように座り込む。
緊張を解いた瞬間、リリアが声を発した。
美しい歌声でも、かといって甲高い叫び声でもない。
シャーというような、得体の知れない声。
まるで、何かを呼び寄せているような……。
その時、リリアの後ろから何十もの気配を感じた。
「何だ!? ……テレキネシス!」
一瞬怯むが、気配がどれも弱々しかったので、テレキネシスで動きを封じる。
注意深く気配を押さえつけながら、その姿を確認する。
「……スライム?」
そこには、飛び上がったまま固まった何十ものスライムが。
……まさか、やたらたくさんいたスライムは、こいつが使役していたのか?
「……とにかく、アイセンさんに相談してみるか……」
「そ、それだけはやめて!」
モンスターを大量に使役するなんて、あまりにも異常だ。
テレキネシスでリリアを拘束すると、スライムごと彼女の家まで引き摺っていく。
「リリア、一体これはどういうことだ?」
父の厳しい視線を受け、リリアは肩をすぼめる。
どうやら、リリアは村人たちの目を盗んで村を抜け出し、スライムを率いて何かをするつもりだったらしい。
しかし、その何かが分からないのだ。
やがて、リリアは観念したように話し出した。
「……この村が、危ないって聞いたから。スライムで何とかしようって思ったの……。ごめんなさい」
どういうことだ?
「村が危ないって、何かあったんですか?」
アイセンに聞くも、言いにくそうに渋い顔をするのみであった。
「じつは、この辺りに街道が通されることになったそうで。この村が発見されれば、私たちはここを追われてしまうのです」
アイセンに代わり、妻のマーシャが語る。
「……それは、つまり……」
俺は言葉に詰まった。
何たって、俺たちはその街道建設のためにここに来ているのだ。
「つまり、スライムをけしかけて、工事を妨害するつもりだった、ってことでしょうか」
気まずい空気を打破するため、スライムの方へ話を誘導する。
「そうでしょうね。しかし、スライムでどうにかなったとも思えないですし……」
「何にせよ、うちの娘があなたたちに再三の迷惑をかけたことは事実。改めて、謝罪させてください」
アイセンが頭を下げる。
俺たちがこれからどうすべきかは、俺の一存では決められない。
ひとまず、3人にも話すことにした。
「うーん、困ったことになったねぇ」
「報告しないわけにはいかないですし……」
「でも、そうしたらこの村がやばいってことっしょ?」
俺たちは肩を落とす。
「距離を考えると、街道の宿場町として存続させるのが現実的か……」
ここは、アルトとエルフ国のちょうど真ん中あたりにあるのだ。
「でも、それだけでは問題がありそうですね。エルフがサレン川より東に住んでいるということ自体、サレン川同盟の条文に違反するものですし……」
そういえば、そんな条文があったな。
「つまり、条文を変えさせるだけの価値をこの村に持たせなくちゃいけないってことね」




