31.怪しげな森
「うっ、うああああっ!!」
最悪だ。
なんで2日連続で悪夢を見なきゃならないんだ。
内容も昨日と全く同じ。
「どうした神埼!? ……俺の話が原因かもしれない、悪かったな」
隣の清水が飛び起きると、申し訳なさそうな表情をする。
「いや、多分関係ない。昨日も同じ夢を見たんだよ。嫌な予感がするな……」
「そうか……。気をつけた方が良さそうだな」
清水との会話を終えると、俺は夢について考えを巡らす。
……しかし、まさか俺を襲ったものの正体がスライムだとは。
昨日は見られなかった襲撃者の正体を、今日ははっきりと見ることができた。
いや、見ない方が良かったな……。
あんな雑魚モンスターに負ける未来など考えられないが、どうも不快だ。
だが、探索2日目は何事もなかったかのように始まった。
いざこざが起こった荒川・泊・牛田グループは解体し、残りのグループに1人ずつ受け入れることになった。
「……よろしくお願いします」
「よろしくねぇ」
「あたしはアイツみたいな酷いことしないから、安心しなさいよね」
うちのグループには、荒川が加わることとなった。
良かった、1番まともなやつだ。
森へ入り、奥へ奥へと進む。
しばらく歩いても、やはりと言うべきか、目新しいものは何も見つからない。
「埒が開かないな。何か効率的な方法があればいいんだが……」
例えば、空から一気に森を眺めるとか……。
まあ、無理だろうな。
すると、荒川がおずおずと手を挙げる。
「……その、私、空中を歩ける能力があるんです。それで何か役に立てれば……」
「何だそれ、最高じゃないか! 早速お願い──むぐっ!?」
荒川に頼もうとすると、後ろから何者かに口を塞がれた。
「何するんだ!?」
振り返って反撃しようとすると、頬を膨らませてこちらを睨む三城。
「だめっ、すずちゃんはこの前しにかけたんだよ? 空なんて危ないに決まってるでしょ」
「ぐっ……。だが、本人は乗り気みたいだし……」
「あんたが嫌味がましいこと言うからでしょ。断れなさそうだしさ、この子」
苦しい反論を試みるも、榎田まで加勢してきた。
状況を見かねてか、荒川が介入してくる。
「あの……! 私は大丈夫ですから。普通に歩く感じで特に疲れるわけでもありませんし……」
まさに助け船!
「ほらああ言ってるぞ!」
「じゃあまあいいけどさ……。あんまり無理しないでよ」
「では……」
荒川は、ごく自然に空へと上がっていった。
普通は足を下ろすと地面につくものだが、それが空中で静止するのだ。
それを土台にし、また一歩上へ進む。
空中を「歩く」と言ったのも頷ける。
1分もしないうちに、荒川は数十メートルの高さまで上昇した。
「おーい、何か見えるかー!?」
「そうですね、特に変わったものはありませんが……」
荒川は、辺りを観察するように、あちこち歩き回る。
そしてこちらにも近づいてきた。
「……!? みすず、見えてる見えてる! 向こう行って!」
突然、榎田が何かに気づいたように叫ぶ。
「見えてるって、どういうことですか……?」
当然ながら、空中の荒川は訝しんだ。
「あーもう、まり! そいつの目ぇ塞いで!」
俺はいきなり後ろから視界を遮られた。
「ちょっ、いったい何が起こっているんだ!?」
「察しなさいよこの変態!」
「俺は何もしてないぞ!?」
榎田に変態呼ばわりされるのは、異世界に来た日ぶりか。
……あの時もそうだが、俺何もしてないぞ!?
俺の視界に光が戻ったのは、数分後であった。
「うぅ……。気づかなかった私が馬鹿でした……」
「まあ、神埼はそういう男子じゃないし。被害はゼロってことで、気にしなくてもいいっしょ」
最初に視界に飛び込んできたのは、顔を赤くして手で覆う荒川を榎田が慰めるという謎の光景だった。
「……本当に何があったんだ?」
「しーちゃんは知らなくていいこと」
「……それで、何か収穫はあったのか?」
「それが、あっちの方に何かが見えたっぽいのよ」
解答不能状態の荒川に代わり、榎田が報告を寄せた。
「じゃ、まあそっちを探索するか」
「そーだねぇ」
5分ほど進むと、昨日と同じようなスライムの大群が襲撃してきた。
しかし、昨日の2倍ほどの規模。
難なく倒せるから脅威ではないのだが、どうも不気味だ。
今日の夢と、何か関連しているのだろうか。
「ちょっと待って……何か聞こえない?」
榎田が突然そう言った。
俺たちは声を鎮めると、周りの音に耳を傾ける。
流れるような旋律が、微かに聞こえてきた。
「……本当だな。歌声か?」
「だとすると、誰かがいるのでしょうか……?」
ようやく復活した荒川が、辺りを見回す。
「どうする? 引き返して報告するか、俺たちだけで進むか」
予想だにしなかったこの状況では、一つの決断が大きく運命を変えることになる。
「んー、あんまり危なくなさそうだし、進んでもだいじょうぶじゃない?」
「そうですね、私もあまり危険だとは感じません……」
三城と荒川が、立て続けにそう表明する。
最悪の想像をすれば、悪意ある存在が、冒険者を誘き出すために人間を騙っている……。
そう考えることもできよう。
だが、2人の言う通り、どうもそうは思えない。
「まあ、一応警戒しながら進むことにしよう」
魔法の用意をしながら、前へ前へ。
その度に、歌声はどんどんと大きくなっていった。
こちらに誰かがいる!
そう確信し、俺はさらに一歩踏み出す。
視界がいきなり開けた。
頭上を覆っていた枝葉がなくなり、強烈な陽光が顔に降り注ぐ。
思わず閉じた目を開くと、そこには……。
切り株に腰掛け歌う、耳の長い白髪の少女。
異世界ならではの存在、エルフだ。
その少女は、よくわからない言語で、優しい旋律を奏でる。
その後ろに見える、何軒もの家々。
まさに秘境といった感じの集落。
「す、すごい……」
榎田の口から、驚嘆の声が漏れる。
皆の心に渦巻いていた不安や警戒心が、少しずつ解れていく。
少女はこちらに気づくと、ゆっくりと立ち上がった。
シャキン!!
その時、空気を切り裂く鋭い音がした。
遅れて、後ろの木が倒れるメキメキという轟音。
「なっ!? 魔法を放ったのか!」
「どうして? 私たちわるい人じゃないよぉ」
俺にも意図はわからない。
が、向こうに戦闘意思ありと判断した以上……。
開戦!




