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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第3章 エルフの村
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29.戸外の日常

 荒川が野犬に襲われたこともあり、今日の探索は早めに切り上げることとなった。

 日はまだ高い。

 皆は日の暮れるまでの時間を思い思いに過ごしている。


 荒川は、高台で魔法の特訓をしていた。

「調子はどうだ?」

「……だいぶ良くなりました。ありがとうございます」

 とは言うものの、息が乱れ、腕を押さえている。

 魔力を流しすぎて痛めたのだろうか。

「ま、完全に回復するまでは体にあまり負担をかけないほうがいい。魔術師(ウィザード)としての仕事は、俺たちに任せておけ」

 しかし、泊が進んで協力するとも思えないからな……。

 このパーティーでまともに動ける魔術師は、現状俺だけか。


 少し離れたところでは、野口と松久が剣を構えて相対していた。

 訓練かなぁと思いながら通り過ぎようとすると、松久に呼び止められた。

「おお神埼、ちょうどいいところに。模擬戦の審判をやってくれないか?」

「……まあいいが。始め!」

 

 合図と同時に、野口は地面を蹴って飛び上がった。

 大きく振りかぶった剣が、紅い輝きを放つ。

 重戦士(タンク)の松久は、自慢の大きな盾を構える。

「かかってこい、受け止めてやる!」

「喰らえ、紅蓮の太刀(クリムゾン・ソード)!」


 ガキイィン!!


 金属同士がぶつかり合う、激しく鋭い音が響く。

 松久が盾を前に押し出すと、野口はその勢いのままに吹っ飛んでいく。

 が、受け身をとってすぐに構え直した。

「くそっ、防がれたか……」

「いや、とても重い一撃だった。さすがだったぞ。

 では、今度は俺の番だ!」


 松久は盾を投げ捨てると、胴ほどの太さはあろうかという大剣を掲げる。

 野口の方へと駆けると、勢いよく振り下ろす。

「ぐっ!」

 かろうじて受け止めた野口は、あまりの質量と勢いにじりじりと地面にめり込んでいく。

 これは勝負あったか?


 その時、野口は目にも止まらぬ速さで横に逸れた。

 自身の全体重をかけていた野口が消えたことで、松久は大きくバランスを崩す。

「隙ありっ! はっ!!」

 大きく倒れ込んだ松久の背中に、野口の剣がポンと置かれた。


「勝負あり! 勝者、野口啓二!」

「くそっ、油断したな……」

「いや、あと少しお前の勢いが強ければ、あのまま押し切られてたよ」

 地面に転げた松久に、野口が手を差し伸べる。


「しかし、外から見た感想ってのも聞いてみたいもんだな。どう思った?」

「俺? ……そうだな、普通にどっちも俺から見りゃすごいんだが……。

 ま、強いて言うなら野口は力を、松久は技術を高めるといいんじゃないか?」

 割と当たり前のことを言っただけなのだが、2人は大きく頷いた。


 2人と別れ、馬車の方へ向かうと。

「時雨ちゃーん」

 誰だ? 俺のことをそんな変な呼び方するのは。

「……何だ、湯梨浜か。何の用事だ?」

「ちょっと人数が足りなくてさ、一緒にやろうよ」

 そう言うと、湯梨浜はカバンからトランプのような紙の束を取り出した。



「なるほど、ただのババ抜きか」

 模様がちと幾何学的なデザインであること以外は、4つの形と13の数を持つ普通のトランプ。

「そ。本当はなんか難しいルールがあるみたいだけど、普通にトランプとしても使えるからね」

「あ、次神埼くんの番だよ。1枚引いて〜」

 湯梨浜の説明を聞いていると、土岐枝がカードを差し出してきた。

「あ、揃った」


 しばらくして、千曲と湯梨浜は上がり。

 残るは俺と土岐枝のみとなった。

「俺が1枚、そっちが2枚……。正しい方を選んだが勝ちか」

「さーて、ちひろはババ抜き強いからね。いくら時雨ちゃんとはいえ、勝てるかな?」


「……なるほど、分からん!」

「ほらね〜」

 片方を引きかけてみたり、もう片方に移したりと、色々やったものの、土岐枝の表情は全く変わらない。

 ただニコニコ笑うのみ。

「……表情筋のわずかな動きから予測するしかないか……」

 俺は顔を土岐枝にずいっと近づけ、細かな反応も見逃さないようにする。


「ちょ、ちょっとぉ、あんまり見られると照れるよぉ」

 数十秒くらいそれを続けたら、土岐枝に反応あり。

「こっちか! ……よし!」

 俺は勝鬨を上げ、2枚の同じ模様のカードを地面に放る。

「ずるいよ〜!」

「まあまあ、こういう日もあるって〜」


 ゆるふわ3人組に別れを告げると、俺は再び歩き出す。

 すると、馬車から降りてくる泊と鉢合わせした。

 泊はいきなりこちらを向くと、顔を怒りに歪める。

「あぁ? 何見てんだよ」

「いや、別にそんなつもりはないが……」

「チッ、どいつもこいつも、本当に何だってんだよ……」

 ……?


 やはり今日の泊はどこかおかしい。

 アルトを離れ、快適とはいえない生活の中で、ストレスが溜まっているのだろうか。

 普段の泊なら、荒川に悪態こそついても、置き去りになどしないはずだ。


「……どうして……」

 その時、馬車の中から、泣き声にもため息にも似た声が聞こえる。

 馬車を覗き込むと、日比野が体操座りになり、頭を抱えていた。


「どうした委員長、泊の説教に疲れたのか?」

「ああ、神埼くん。別にそんなことはないんだけどね……」

 そうは言うものの、日比野の顔に普段のような明るさは見られない。

 野犬の一件が関わっているのは間違いないだろうが……。



 やがて、夜になった。

「明日は今日の反省を生かして、必ず団体で行動するように。この森の危険性もみんなわかってきたと思うから、情報は早めに共有してね。じゃあ、今日は明日に備えて早く眠ってね。おやすみー」

 月明かりを頼りに、地面の上に布を敷く。

 その上に寝転ぶと、上からシーツをかけた。

 これ、寝相が悪い人大変だろーな……。


「おい、神埼」

 その時、後ろから声が聞こえた。

「……? 清水?」

 振り返ると、俺の隣に清水がいる。

「どうした、小便くらい1人で行け」

「そんなわけないだろ!

 ……じつは」


 清水は、急に声を落とす。

「お前にはまだ話してなかったよな。俺が向こうで医者を目指してた理由」

 そういえば、清水は医学部に入るために勉強を頑張っていた。

 形は違えど、今は修道士(プリースト)として人を救っている。


 清水は、闇夜の中で、自身の過去について語り始めた。

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