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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第3章 エルフの村
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28.不和

 野犬に襲われている荒川。

 その救出に、俺たちは向かっている。


 しかし、荒川はかなり練度の高い魔術師(ウィザード)。

 野犬ごとき、瞬殺ではないか……?

「荒川さんはまだ回復しきってない。今襲われたらちょっとやそっとの怪我じゃ済まない!」

 歯を食いしばる清水の言葉を受けて、俺は気づいた。

 野犬に囲まれている荒川は、確かに魔法を撃とうとしている。

 が、撃てないのだ。


 へードルとの戦いで、瀕死の重傷を負った荒川。

 その傷は、たった2週間で回復するはずもない。

 おそらく、魔法を放つことが難しくなっているのだろう。

 加えて、清水の言う通り、荒川はまだ完全に回復していない。

 軽い傷でも、重症となる可能性がある。


「おい野犬ども、荒川さんから離れろ! お前らの相手はこの俺だ!」

 清水の叫びに、野犬は体の向きを変える。

 そして、こちらに向かって駆け出した。

「……で、俺が倒せばいいんだな。『不知火』!」

 モンスターでもないただの犬っころなど、秒殺だ。

 野犬はたちまち生き絶えた。


「……清水、お前は修道士(プリースト)で、戦闘には向かない。今回はたまたま俺がいたから良かったが、もしかしたらお前は今頃犬の餌になってたぞ」

 親友を失くすのは嫌だ。

 最近の清水は、どうも感情が昂りやすいようだ。

 荒川を意識しているのかもしれない。


「……じゃあ」

 突然うつむいた清水が、か細い声でつぶやく。

「どうした?」

「じゃあ、目の前にいる人を見捨てろって言うのかよ!?」

 勢いよく上げられた清水の顔に、涙の筋が伝う。


「そうだよ、俺は弱い。人の傷を癒すことはできても、モンスターの討伐なんて無理だ。

 でも……。目の前で怯えてる人を見捨てて、自分だけ逃げるなんて、俺には……」

 そこまで言うと、清水は感極まって嗚咽を漏らす。

「……すまん。お前の信念を尊重すべきだった」

「いや、神埼は俺の身を思って忠告してくれたんだ。俺こそ、怒鳴ったりしてごめん」


 その時、こちらに向かってくる足音。

「……助けてくれてありがとうございます」

 荒川は、俺に頭を下げた。

「いや、礼はこいつに言ったほうがいい。俺1人だけじゃ、咄嗟に動けなかっただろう」

「何言ってるんだよ。お前は荒川さんと俺、2人の命を救ったようなもんじゃないか」

 清水はすっかり元気を取り戻したもようだ。


「な、何があったの!?」

「ああ委員長。こいつが野犬に襲われてたんで野犬ぶっ殺した」

「ずいぶんと乱暴な説明だね……。まあ、とりあえず情報共有しよう」

 遅れてやってきた牛田も交え、緊急会議が開かれた。


「まずは、状況を説明してくれるかな」

「ああ。悲鳴に駆けつけると、荒川が3頭の野犬に襲われていた。清水と俺で何とかしたが」

 そう言うと、荒川は改めて俺たちに礼をしてきた。

「なるほど。そうなると、もう少し警戒して探索したほうがよさそうだね。

 ……ところで、どうして荒川さんは1人でいたの?」


 俺たちは、3または4人のグループを作り、絶対にバラバラにならないようにと言われていた。

 荒川が野犬に1人で襲われていたというのは、よく考えるとあまりにも不自然だ。

 グループメンバーが弱っている荒川を見殺しにしたか、それとも囮にして自分だけ逃げたのか。

「荒川さんと同じグループの人はだれかな?」

 同じ思考に至った日比野が、少しの怒りを孕んだ口調で言うと、皆を見渡す。


「……あの」

 牛田が、おずおずと手を挙げた。

「どうしたの牛田さん、何か知っていることがあるのかな?」

 日比野が、ゆっくりと顔を向ける。


「……本当に、本当にごめんなさい!」

 牛田は、土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。

「……詳しく話を聞かせてくれるかな」



 牛田は、状況を語り出した。

 彼女らのグループは、荒川と牛田、そして泊の3人だった。

 が、途中で荒川が体力を切らし、集団から遅れてしまう。


「このくらいの距離すら歩けねえのかよ。役立たずじゃねーか」

「……それは言い過ぎだと……」

「なんか文句あんのかよ?」

「い、いえ……」

「チッ、もうこんな奴置いて先に行くぞ」

「えっ? ……でも……」

「大丈夫です……、私が悪いから」

「ほら、本人もいいって言ってんだし、さっさと行くぞ」


 ……だいたいこんな感じだ。

 泊の高圧的な態度に牛田は逆らえず、本人が容認したこともあり、荒川を置いていくことになったようだ。

「なるほど……。泊くん、これはどういうこと……いない?」

「え? 本当だ、1人足りないぞ!」

 てっきり全員いたものだと思っていたが……。


「泊ー! どこにいんだよ!」

「単独行動は危険だよ!」

「モンスターに襲われても、助けてやんねえぞ!」

 皆で呼びかけたが、泊がやってくる様子はない。

 まさか、非協力的な人物が最初に死ぬパターンのミステリーと同じ流れ?

 確かに、泊の言動は、「俺は部屋に籠る!」の奴と同じくらい死にそうだったからな……。


「うるせぇよ、何があったんだ?」

「いた!!」

 生きてた。


「やれやれ、ひとまずは安心か。早く──」

 俺は、そこまで言うことしかできなかった。

 泊の方へつかつかと歩み寄る、怒りに燃えた日比野の顔を見て。


 日比野は、困惑している泊の目の前まで進む。

 そして、腕を振りかぶると、その頬を張った。

「はっ!? てめえ、何すん──」

「こんなことをするなんて、何を考えてるのこの大馬鹿者!!」

 日比野の唸るような低い声の怒声に、場の空気が凍りつく。


「あ、え? ……ったく、いったい何があったってんだよ」

 未だ状況を理解できていないらしい泊の質問が、日比野をさらに過熱させた。

「あなたも聞いたでしょう、悲鳴を! あなたが置き去りにした荒川さんが死にかけたのよ!」

「そ、そうなのか? ……それは悪かったけどさ」

 日比野にすっかり萎縮した泊は、素直に謝る。

 その姿を見て我に返ったのか、日比野がはっとしたようにこちらに向き直った。

「……取り乱してごめん、私こそ冷静にならなきゃいけなかったね。

 とにかく、今日はもう調査はやめにしよう。馬車に戻るよ」

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