27.探索に行きましょう
「うわああっ!?」
悲鳴と共に、俺は飛び起きた。
心臓がバクバクと弾けるような音を立てる。
乱れた息、上下する肩。
震える指先。
「むにゃ……。しーちゃんどうしたの、怖いゆめでもみたの?」
隣の三城が起き上がり、目を擦る。
「いや、何でもない……」
「えー、でもなんか変だよ。……熱はないみたいだけど」
俺が誤魔化したのが不満だったのか、三城がこちらに這い寄ってくる。
そのまま俺の額に手を当て、自分のそれと比べた。
「……まあいいや、朝ごはんつくろっと」
三城が馬車の方へ向かうのを見届けると、俺はさっき見た夢について考える。
一体あれは何だったのだろうか……?
森を1人で歩く俺。
まるで何かから逃げているかのような足取り。
ふと近くの茂みに何かの気配を感じ、立ち止まる。
その瞬間、囲まれたことに気づき──
「……俺は一体何に襲われていたんだ?」
そこの記憶だけがはっきりしない。
囲まれたあと、飛びかかられたような気もするし、魔法で撃たれたような気もするし。
まさか、予知夢というやつなのだろうか。
夢にしては、嫌にはっきりしていた。
俺たちはあの森で、何かに襲われるのだろうか……?
「……まあ、夢なんて気にするだけ無駄か」
俺はそう自分に言い聞かせ、三城の後を追った。
朝食を済ませ、装備を整える。
いよいよ探索の始まりだ。
出発の前に、日比野が皆を集める。
「これから森へ行くけど、グループで行動して、絶対に1人にならないこと。モンスターを見つけた時は、気づかれないように立ち去ってみんなに知らせること。もし気づかれたら、大声で助けを呼んでね」
「「はーい」」
「あと、装備は大事に扱ってね。もし壊れたりなくなったら簡単に取り替えられないし、危険だからね。食料も限りがあるから、できるだけ節約していこう」
「「はーい」」
「それと──」
「みつきったら、そんなに話してたら日が暮れちゃうよ」
湯梨浜が話の長い日比野に茶々を入れる。
「それもそうだね。じゃあ、しゅっぱーつ!」
「「おおーっ!!」」
森はとても静かだった。
かといって不気味な静けさというわけでもなく、耳をすませば小川の穏やかなせせらぎ。
さらに奥からは、どうどうと流れるサレン川のざわめきが。
鳥のさえずりも、虫の鳴き声も聞こえる。
モンスターや危険な野生生物がいそうな雰囲気ではない。
「うーん、どこから探索したらいいのかな……」
日比野が地図を広げ、悩む。
この地図、通った場所を勝手に記録してくれる便利な魔法の地図らしい。
覗き込むと、馬車の通ってきた道の周り以外は、空白になっていた。
「せっかくこんだけ人数いるんだから、手分けして探したほうがいいんじゃないか?」
清水が提案する。
「そうだな。3、4人で固まって行動すれば、危険も少ないだろう」
松久が同調した。
皆も概ね賛成のようだ。
「じゃあ、そうしようか。グループに分かれて、前後左右を手分けして探そう」
グループが何となくで決められた。
結果。
「……不安しかない」
「え〜、そんなこと言わないでよぉ」
「だってお前カエルと戦ったときめちゃくちゃやらかしてただろ。心配にもなるわ!」
「うっ……ひっ、わ、私だってちゃんとやるから……」
しまった、言い過ぎたか?
「泣かないで泣かないで〜。
ちょっと、そんなに言うことないでしょ。謝んなさいよ」
三城を榎田が優しく撫でると、こちらにキッと鋭い目線を向ける。
「……はいはい、すいませんでした」
「真面目にしなさいよ……ってこれで許せるわけ!?」
ニッコニコになった三城に、榎田が軽く驚愕している。
そう、三城はこれくらい単純だから覚えておけ。
森を進む。
背の高い草に覆われた地面に、獣道が通っている。
が、はや20分ほど歩いたが、いまだモンスターとの遭遇もなし。
危険なところではないかもしれないなと警戒を緩め始めた頃。
「……! 何か来る、警戒しろ!」
横の草から、何かが飛び出してくる。
「……は?」
それは、スライムであった。
「……あれも飼うか?」
「いや、あたしはこのすまいむだけで十分」
いちおう榎田に聞くと、髪の毛から蒼いスライムが顔を出した。
「じゃあいいか。うりゃっ!」
「ぎゃああぁ」
心置きなくぶん殴ると、スライムは吹っ飛んでいった。
これだけで死んでしまうのだから、弱いモンスターなこと。
「ちょっと、また来たんですけど!?」
「……てなんか多くないか!?」
榎田の指差す方を見ると、こちらへ突っ込んでくる十匹ほどのスライム。
「スライムって群れないんだぞ!? ……いやまあ、これでも雑魚だけども」
一瞬にして俺の魔力と戦闘経験の足しとなった。
スライム小隊を撃破したあとは、特に何かに遭遇することもなかった。
手持ちの地図も、それなりに埋まってきた。
地図は何枚か持ってきたようで、後でまとめることができるらしい。
しっかし、この地図は便利だ。
自分の居場所も表示されるし、勾配や縮尺も正確に表示される。
道に迷っても、この地図を見れば安心だ。
「きゃああああっ!!」
その時、森を悲鳴がこだまする。
「何だ!? ……行くぞ」
モンスターに襲われている可能性がある。
一刻も早く加勢しなければ。
俺たちは、獣道を外れ、木々の間を縫うように走る。
「神埼! 何があったかわかるか?」
同じく悲鳴を聞きつけた清水たちに出会った。
「分からん、とにかく急いだほうがよさそうだ」
森を走り抜け、ついにこの辺りかと言うところまで来た。
しかし、いったいどこで誰が何を……?
「あっ、あれ!」
清水と同じグループの土岐枝が、ある方向を指差す。
「何だ……あっ!?」
そちらを向いた清水が、声にならない叫び声を上げる。
牙を剥き、唸り声を上げる3頭の野犬。
木を背に怯える荒川の周りを取り囲み、今にも飛びかからんばかりだ。
「は、早く助けに向かうぞ!」
「分かった!」
清水に促され、俺たちは駆け出した。




