26.再興と進展
アルト史上最悪の戦いから、2週間が過ぎた。
犠牲者38名、重傷45名。
一家の大黒柱を失い、路頭に迷う家族も多い。
また、民家144棟、宿泊施設23棟が利用不能な状態になった。
この戦いによって、1500人以上が住む場所を失ったことになる。
王国は、彼らへの特別な保障を検討しているそうだが、それでもその傷が癒えることはないだろう。
「……寄っていくか」
ギルドへ向かう足を止め、町の外れへ向かう。
戦いで犠牲になった冒険者たちが鎮められている。
俺の目の前で死んでいったフロン、俺の手で天に帰したレイン。
その2人のみでなく、アーツとカールも犠牲になっていた。
4基の十字架が、並んで立っている。
俺は目を閉じ、祈りを捧げた。
この世界の作法は知らない。
だが、少なくとも思いは伝わったであろう。
ギルドに向かうと、何やら人だかりができていた。
「何なんだこの騒ぎは?」
「ああ、神埼か。何でも、エルフ国から大使が来て、同盟を締結するんだってよ」
「同盟? どういうことだ?」
話を聞いて回ると、今回の戦いでの共闘を機に、王国とエルフ2国は正式な同盟関係を結ぶこととなったのだそうだ。
国境を流れる川にちなみ、この同盟は「サレン川同盟」と名づけられた。
条文には、相互の軍事的・経済的な協力や、文化交流の促進、サレン川を超える橋の建設など、さまざまな内容も盛り込まれている。
魔王軍はこれからも攻めてくるであろうことを考えると、たいへん意義深いことだ。
野次馬冒険者たちに見守られながら、調印式は無事に完了した。
同時に、同盟締結に伴って開始するクエストも大量に張り出された。
街道整備、橋の建設、国境警備隊の求人など、さまざまな紙がひしめいている。
「俺たちもどれかやろうぜ」
野口が掲示板に駆け寄る。
「……って言ってるけど、どうなんだ委員長?」
「まあ、みんな乗り気みたいだし、いいんじゃないかな。危険も少なそうだし」
結局、『街道が貫く予定の森のモンスター調査。報酬は結果により変動』という何ともいえないクエストに決定した。
まあ、いいんじゃないか。
「よし、じゃあ早速行こうか。……ところで、この森ってどれくらい離れてるの?」
「大体160キロだってさ」
「……」
サレン川は、この大陸でも有数の大河。
その東岸には、幅何十キロメートルもある広大な森が広がっている。
まあ、ここまで聞いた時点で何となく予想はついていたが。
「はい、森まで馬車を利用されるのですね。でしたら、往復で86000カランになります」
「「高っ!?」」
……まあ、仕方ないのかもしれない。
モンスターの蔓延るこの世界では、いつどこで襲われるかわかったもんじゃない。
御者には運転技術だけでなく、ある程度の強さも求められる。
さらに、クエストが終わるまで、何もない場所で待機せねばならない。
それらを鑑みれば、この値段でも安すぎるくらいだ。
2台の馬車は、何もない平原を突き進む。
右の車窓には、雄大な山脈が霞んで見える。
地面を見下ろせば、花や草が生い茂っている。
まさに雄大な大自然。
「見て、アルトがあんなにちっちゃい!」
「もうけっこう来たんだねー」
「出発して2時間経ったから、だいたい20キロメートルってところかな」
皆の会話も弾んでいる。
「……うっ」
清水が青い顔で口元を押さえる。
「どうした、酔ったか? ほら、窓の外に顔を出して、深呼吸だ」
松久が駆け寄り、清水の背中をさする。
そういや、馬車というのは、お世辞にも乗り心地が良いとは言えない。
街道がまだ未整備というのもあって、時折石に乗り上げたり窪みに突っ込んだりする。
その度に車体が跳ね上がったり体が浮き上がったりするから、たまったものではない。
この状況で平然と談笑している3人組は一体どういう三半規管をお持ちなのか?
「……つーか、三城は乗り物強いのな」
「うーん、しーちゃんのとなりだとなんか酔わないんだよねぇ」
「どういう理屈だよ」
やっぱりこいつの行動はよくわからない。
気にしないのが最善だろうな。
その後、俺たちは2日かけて森へと辿り着いた。
途中で何度も馬を乗り継いだほどの距離だ。
辿り着く頃には、すっかり日が暮れていた。
「ここで夜を越しましょう。クエストの方は明日からということで」
御者の提案に従い、俺たちはここで野営をすることにした。
「神埼くんは火を起こして、三城さんは水の用意をお願い。野口くんは野菜を切ってくれるかな。
……ああ荒川さん、あなたは大丈夫だから、休んでて?」
日比野はまたしてもテキパキと指示を出していく。
昨日昏睡状態から回復したばかりの荒川にちゃんと気遣っているし、やはり良きリーダーだ。
俺は、馬車の荷台から薪を取り出し、地面に置いた。
あとは、魔法で火をつけるだけ。
ちょっと遊ぶか。
「炎よ、我が意のままに舞い踊り、全てを蹂躙するうぎゃああっ!?」
「ちょっと神埼くん、あんな魔法ここで使っちゃダメだよ!」
『火炎旋風』の詠唱をしてみたら、日比野が光の速さですっ飛んできた。
「いや、これはちょっとした冗談──」
「冗談でも言っていいのとダメなのがあるよ! ほら、三城さんもなんか言ってよ」
「しーちゃんわるいこ」
「グサッ。……すいませんでした」
……こんなつもりじゃなかったんだけどなあ。
……まあ、その後は何事もなく、料理も完成した。
「この肉、野生味があって美味しいですね。これ何の肉なんです?」
鍋の中の肉をスプーンで掬い上げ、清水が尋ねる。
「何だったかな。……ああそうそう、前にアルトに来たオーガの肉だ。いい具合に焼けてたんで、冷凍魔法で保存食にしたらしいですね」
「「うげっ」」
通りでジビエ感があるわけだ。
食事を終えると、明日に備えて早く眠ろうということになった。
馬車で寝るのは狭いので、地面に布を敷いて寝ることになった。
近頃はだいぶ暑さも和らぎ、夜は肌寒い。
風邪とかひかないようにしないとな……。
「わ、満月だ!」
千曲が空を指差す。
見上げると、確かに淡く黄色に光る丸い月が、空に輝いていた。
「中秋の名月かぁ……。いいなぁ」
日比野が、懐かしむようにその響きを口にする。
「チュウシュウ? 何ですかそれ?」
「ああ、私たちの故郷の風習です。この時期の満月は特別な日で、お祭りとかをするんですよ」
「祭りか、楽しそうですねぇ」
日比野は空を見上げ、うっとりとしたような目で月を眺めている。
そそくさとシーツをかぶると、早くも眠気に襲われた。
こういう日は、決まって日本の夢を見るんだよなぁ……。
そう思いながら、俺は深い眠りについた。




