23.混沌とした戦い
「破壊雷!」
へードルの唸るような声と、直後に響いた爆発音が、俺の思考を再開させる。
今は、自分の命を最優先に動かねば。
へードルは、あの破壊的な雷を、幾つも放っていた。
冒険者たちは稲妻が迫ってくるたびに避け、あるいは身を隠す。
しかし、こちらの劣勢は明らかだった。
「負傷者はどちらに!?」
その時、清水に先導され、あのパーティーの修道士、フロンがやってきた。
フロンは荒川を一目見ると、両手を組んで何かを唱え始める。
数瞬、フロンは何かに気付いた様子で、崩れ落ちるように膝をついた。
「ど、どうしたんですか!?」
「私では、彼女の傷を癒すことができません。魔力が足りないのです……」
「そ、そんな!? ……そうだ、朴葉はどこにいる!?」
フロンの告白を聞いた清水は、しばらくした後、狂ったように朴葉の名を叫び始める。
「おい、何があったんだよ……荒川さん!?」
「説明は後だ、早く魔力をフロンさんに渡してくれ!」
「わ、わかった……神埼、お前魔力高かったよな。少しもらうぞ」
朴葉は状況を察したのか、速やかに俺の手を握って魔力を吸い取る。
やがてその手を離すと、フロンの肩に置いた。
「おい、何ボケっとしてるんだ!」
野口の声が耳に突き刺さる。
見ると、俺たちの目の前まで迫ってきていた稲妻を、野口が剣で撃ち返すところだった。
「戦場では、一瞬でも気を抜いたら死ぬぞ! 早く陣形を整えろ!」
「お、おう!」
野口の叱咤にはっとした俺たちは、フロンたちを囲むように隊形を組み、へードルの攻撃に対処する。
「ぎゃああっ!」
遠くで冒険者の悲鳴。
おそらく、また1人が稲妻にやられたのだろう。
だが、気にしている余裕は、今の俺たちにはない。
しばらくの間、へードルによる蹂躙は続いた。
大地は爆発によってぼこぼこになり、城壁も大方が崩れ落ちて瓦礫と化していた。
数発は町まで被害をもたらし、家や店を廃墟に変えた。
「まだ耐えるか。なかなか骨のある者どもではないか。
……しかし、どうも面白みがないな。ただの消耗戦には興味がない」
その言葉は、へードルに少しの疲れもないことを暗示していた。
一体、へードルはどんな手を打ってくるのか。
破壊的な大爆発か、それともじわじわと侵蝕する毒か。
絶望的な予測が頭の中を渦巻き、精神を支配する。
そうだ、こちらから仕掛ければいい。
後手に回るから逃げ惑う必要があるのだ。
いつから俺たちが狩られる側だと思い込んでいた?
戦いの主導権を握れば、こちらにも勝機はある!
俺には、神聖魔法は使えない。
だが、純粋な物理攻撃ならできる。
6日間の特訓を経て、俺はかなり強くなった。
俺の現時点の切り札を、お前に叩きつける!
「炎よ、我が意のままに舞い踊り、敵を燃やし尽くせ……『火炎旋風』!」
俺の手から、真っ赤な火柱が立つ。
同時に、耐え難い熱さと痛みに襲われた。
耐えろ、俺はこれしきの痛みに負けるような軟弱者ではない!
火柱は空高く上がると、放物線を描いてへードルへ突っ込んだ。
へードルの体が、一瞬にして炎に包まれた。
「お、俺たちもやるぞ! 地獄炎!」
「どんな強敵だって、俺たちの手にかかりゃ屁でもねえよ! 電光剣!」
それに続き、何人もの冒険者が魔法を放った。
いつか見た怒涛の攻撃が、再び視界に展開する。
『火炎旋風』には、2つの段階がある。
1つは、このようにして敵を炎で燃やす段階。
そして次は……。
「廻れ炎よ、龍の如く舞い、敵を灰燼に帰すのだ……『火炎旋風』っ!」
へードルを覆っていた火柱が、勢いを一気に増す。
そしてそれは竜巻のような流れとなり、あたりの空気を撒き散らした。
俺の魔力の多さという強みを最大限に生かした、渾身の魔法。
普通の人なら気絶するような魔力を消費しても、平然と立っていられる。
新人冒険者にない技術や経験を、パワーで補う形だ。
へードルに目を戻すと、炎渦巻く大地の中心に立ったまま、微動だにしていない。
まさか、これでもダメージを全く与えられていないのか!?
いや、弁慶の立ち往生の逸話のように、立ったまま死んでいるのか?
判断がつかないうちに、炎の勢いが弱まってくる。
後者でありますように……。
俺は思わず祈った。
「……いや、驚いた。人間どももやればできるではないか」
へードルの余裕を含んだ声が、残酷にも耳に入ってくる。
「お返しに、我も本気を見せてやろうぞ……」
へードルはそう言うと、詠唱を始める。
その真紅の目が、らんらんと輝いて見える。
「ど、どうすんだ!?」
「今まで本気じゃなかったってことかよ。もう打つ手なんてねえよ!」
冒険者たちは、頭を抱えたり、魔法を撃って抵抗を試みようとする。
「みんな、落ち着いてくれ」
混乱を鎮めたのは、ハンドンだった。
「見るんだ、今のへードルは隙だらけ。奴が本気の魔法を放つ前に、仕留めるぞ!」
確かにへードルは何やらぶつくさ唱えるばかりで、魔力の変動も感じない。
「神聖魔法を使える者は前に! 合図で一斉に攻撃するぞ!」
ハンドンの指示のもと、何人もの冒険者が前に進む。
エルフ国の魔術師たちも協力してくれるようで、魔法の詠唱を始めた。
「よし、私たちで倒すわよ!」
「「おーっ!」」
レインが音頭を取った後、冒険者たちはへードルを囲むように散る。
「よし、3、2、1──」
ハンドンが号令を掛けようとしたその時。
へードルが、杖を地面に突き刺さんばかりの強さで打ちつけた。
何事かと動揺した冒険者たちは、詠唱を止める。
「わざわざ私の檻へとやってくるとは、愚かなものを。やはり人間は浅慮だ」
「檻? ……な、何だ!?」
へードルを中心として、黒い魔法陣が地面に浮かび上がる。
魔法陣はどんどんと大きくなり、ここにまで迫ろうとしている。
「早く逃げ……動けない!?」
へードルを囲んでいた冒険者たちは、魔法陣に呑み込まれ、足が硬直している。
「に、逃げろ! 何が起こっているかは分からんが、とにかく逃げるんだ!」
ハンドンの声に金縛りが解けた俺たちは、弾かれたように逃げ出す。
「あ、荒川さんは!?」
清水の叫び声に我に返る。
振り返ると、フロンが未だ半身のない荒川を抱き抱え、こちらに走ってきていた。
「は、早く! 捕まるぞ!」
しかし、人1人を抱き抱えながら、魔法陣から逃れることはできなかった。
「シミズくん! ……彼女を、よろしく頼みました!」
フロンの足が魔法陣に呑み込まれる寸前、彼は荒川を放った。
名指しされた清水は、弾かれたように駆け寄ると、荒川を抱き止める。
「ほう、予想以上に掛かったようだな。仲間を助けようとし、自らも犠牲になったということか。
では、貴様らに恐怖というものを味わせてやろう……人死霊術!」




