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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第2章 アルトの危機
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22.死の日

 狼煙を見て、冒険者たちがぞくぞくと集まってきた。

 敵も、だんだんと近づいてくる。

 ついに、その姿をはっきりと見ることができるようになった。


 馬に乗り、集団を率いる先頭の人物。

 それは、骸骨であった。

 黒い外套に身を包み、杖を構えている。

 その後ろには、骸骨や腐った屍が何千も。

 その強烈な瘴気に、頭痛がしてきた。


「ほう、逃げなかったか。命知らずの愚か者め。

 我が名はへードル。魔王の右腕たる不死王(リッチー)へードルぞ」

 骸骨は、高らかに宣言した。

「み、右腕!? つまり、2番目に強いってことだろ?」

「やっぱり降伏した方がいいんじゃ……」

 へードルに恐れをなし、数人の冒険者が悲鳴をあげながら逃げ帰った。

 残った者も、不安げな顔で互いを見つめ合う。


「恐れるな! 魔王の右腕だろうと所詮はアンデッドの端くれ、浄化魔法で消しとばしてくれる!

 東エルフ魔導隊、攻撃用意! ……放て!」

「「闇の存在よ、打ち砕かれよ……破魔(ターンアンデッド)!」」

 グローヌの一声に、白服たちが白く輝く光線を放つ。

 光線は、真っ直ぐへードルを撃ち抜いた。

 激しい爆発が起こり、あたりは土煙に覆われる。


「……これが浄化魔法だと? 笑わせるな。あばら骨一本すら消し去っていないではないか」

 煙の中から、へードルの笑い声が響く。

「なっ、何だと!? ……まだだ、撃ち続けろ!」

 グローヌは狼狽え、再び命令を下す。

 その肩をグラディウスが掴み、優しく諭した。

「待てグローヌよ、冷静に状況を考えるのだ。貴国の魔導隊を以てして傷一つつけられないなど異常だ。何かからくりがあるに違いない」


「……委員長、何か分かったりするか?」

「うーん、情報が全く出てこないんだよね……。もしかしたら、あの服に何か秘密があるのかも」

 日比野はそう言うと、悩み始める。


「何だ、もう終わりか。ではこちらの番だ。

 我が眷属たちよ、人間どもを皆殺しにせよ!」

 へードルの声に、アンデッドたちは一斉に進軍を始めた。


「ただのアンデッドなら簡単に倒せる、攻撃始め!」

「『不知火』っ!」

 アンデッドの群れは激しい攻撃にさらされた。


「……何だと!? これだけの攻撃を浴びせて倒れないなんて、おかしいだろ!」

 アンデッドは、ピンピンしていた。

 敵は魔法をものともせず、どんどんと近づいてくる。

「おい、こっちに来たぞ! ……くそっ、剣が弾かれる!」

「助けてくれ、囲まれた!」

「おい、矢が飛んできたぞ! 頭上に気をつけろ!」

 前衛たちとアンデッドが衝突し、戦いが始まった。


 しかし、不可解な点が一つある。

 アンデッドたちが、まるで洗練された軍隊のように動いているのだ。

 複数の隊列に分かれたり、剣や弓などの武器を操ったり。

 普通のアンデッドというのは、呻き声を上げながらただ突っ込んでくる脳なしなのだ。

 それが、鍛え上げられたような動きをしている。

 やはり、へードルの能力なのだろうか。


「そういえば、霊術師(ネクロマンサー)とかいう職業の奴いなかったか? あいつらを操ったりできないのか?」

「私よ! でも無理、あの骨に操られてるせいだと思う」

 向こうのパーティーの平城山が答えた。

「あたしも無理!」

 藍色のスライムの時もそうだったので半ば予想はついていたが、榎田も然り。


「うわあっ!!」

 前線から叫び声。

 見ると、一部のアンデッドが防衛戦を突破し、こちらに雪崩れ込んできていた。

「守り通せ! 1匹たりとも町の中に入れるんじゃないぞ!」

 ハンドンが焦ったように言う。


「神よ、どうか私に力を。この町を護る力を……破魔(スクエア・オブ・)殺陣(ターンアンデッド)!」

 レインの澄んだ声が響き渡る。

 純白の魔法陣が生じ、あたりの地面を覆い尽くす。

 俺たちは、光に呑み込まれた。


 光が晴れると、さっきまで辺り一面にいたアンデッドたちが、消え失せていた。

「ほう、我が眷属たちを一瞬にして下したか。面白いものを見ることができたな」

 へードルは、興味深そうに落ち窪んだ目を見開く。

「でも、これが親分には効かないってことだよな。どうしたら勝てるんだ……?」

 隣の井川の声に、俺ははっとした。


 配下のアンデッドを全滅させたところで、意味はない。

 完全な勝利を収めるには、へードルを打ち負かし、魔王を退ける必要があるのだ。

 自軍の重鎮まで倒されたとあっては、流石の魔王も攻めるのを躊躇するだろう。

 しかし、問題はどうそれを成し遂げるかだが……。


「とにかく、あいつがどうやって浄化魔法を防いでるか調べるのが一番じゃないか?」

 冒険者の1人がそう提案した。

「ああ、配下には問題なく浄化魔法が通用したのをみると、結界が張ってあるのか、装備を着用しているのか……。

 とにかく、その防御を破壊しなけりゃ、何も始まらん」

 日比野が情報を得られないと言っていたのも、何か対抗策を張っているせいか。

 じゃあ、一体何を装備しているのやら……。


「……まあ、あの服だろうな」

 禍々しく重厚な雰囲気を放つ外套。

 それ以外に目立った装備は何も見当たらない、それがあらゆる防御を一手に担っているのだろう。

 なら、あの外套を破壊できれば……。


 ……まあ、無理だろうな。

 先ほどから、数人の冒険者がへードルに魔法を撃ちまくっている。

 が、全て跳ね返され、外套には傷一つついていない。

 特殊なアプローチをするか、何か別の角度から攻めるか──


「はあっ、破壊雷(デストロイ・ボルト)!」

 その時、へードルが叫んだ。

 その杖から、黒い稲妻が走る。

「避けろーっ!」

 ハンドンの叫び声に、冒険者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。


「おい君たち、早く逃げろ!」

 冒険者の1人が、雷の落ちるであろう場所を指差し叫ぶ。

 見ると、恐怖のあまり腰を抜かした少女が3名。

 俺たちより若い冒険者の命が、目の前で無惨に散っていく。

 その恐ろしさに、眩暈がしてきた。


「神(セイクリッ)聖(ド・ミラ)鏡(ーウォール)! ……逃げて!」

 雷が少女たちを焼き尽くす寸前、何者かがその前に躍り出た。

「荒川!? ……おいお前ら、こっち来い」

 未だ動けない3人のもとに駆け寄り、襟首を掴んで引き摺っていく。

 間一髪、3つの小さな命を救うことができた。


 3人は、だいたい中学生くらいの年齢だろう。

「あの、助けてくれてありがとうございます。私、フィーロっていいます」

 頼んでもいないのに、一番年長らしい人物が名乗る。

 残りの2人は、カイとニューと言うらしい。

 ……俺に感謝されてもなぁ。

「お前ら、俺には何も言わなくていいから、後であのお姉さんに感謝しとけ……!?」

 何気なく荒川の方に目をやった瞬間、全身が硬直する。


 フィーロたちを救うために、稲妻の前に立ち塞がった荒川。

 その魔法陣が、脆くも砕け散った。

 黒い閃光が、荒川の体を貫く。

 そして、地面近くで爆発を起こした。



 大きく弾き飛ばされた荒川が、こちらに吹き飛んでくる。

 それを見て、俺は息を呑んだ。

「おい! 誰か高位修道士(アークプリースト)を呼んでこい! 早く!」

 荒川の左半身が、焼け焦げて崩れ去っていた。

 その瞳の光は、今にも消えそうなほど暗い。


 死。

 その言葉が、俺の頭の中に浮かび、消えていった。

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