21.幹部が攻めてきました
ヴァルトの脅威が去って1ヶ月。
町は見違えるように復興し、活気が戻ってきた。
負傷者らも軒並み回復し、戦いの傷跡は癒やされつつある。
改築され一回り大きくなったギルドの料理店から、ピカピカの町並みを見る。
多くの人が行き交い、活気の溢れる街道は、町の復活を実感させた。
この世界に来て早2ヶ月、だんだんとこの世界、この町にも愛着が湧いてきた。
その復興は、喜ばしいことだ。
そんな折、冒険者たちがギルドへ招集された。
何でも、ギルドに手紙が届いたらしい。
その手紙には、こう記されていた。
愚かなる人間どもよ。
1週間後、我々魔王軍は、貴様らの町を滅ぼす。
死にたくなければ、尻尾を巻いて逃げるがよい。
「な、何だよこれ?」
「くそっ、復興した矢先にこれかよ!」
「やってらんねえよ。俺は故郷の村に帰る!」
冒険者たちは、口々に怒りを吐き出す。
「まあまあ皆さん、お気持ちは分かります。
しかし、この町の5万人の住民のためにも、そう易々と逃げ出し、ここを魔王軍に明け渡すわけにはいかない。そう思いませんか?」
ギルドの職員の訴えに、冒険者たちは顔を見合わせる。
「そりゃそうだけどよ……。俺たちだけで勝てるとは思えねえぞ。わざわざ手紙を寄越すくらい自信満々みたいだし」
「それに、相手の目的もわからないんじゃねぇ……」
しかし、一体なぜ魔王はこの町を狙うのか。
それは、この付近の地理が大きな理由であろう。
まず第一に、アルトは平原にあって攻めやすいことに加え、王国西部の中心的な都市だ。
ここを攻め落とせば、この王国、ひいては人類側が大きく弱体化する。
反対に、魔王は大きく優勢になるだろう。
第二に、アルトから西へ向かい、サレン川という大河を隔てた先には、エルフの治める2国がある。
エルフ諸国と魔王領は、険しく気候の不安定な山脈によって隔てられている。
そのため、魔王はエルフ諸国を攻めあぐねていた。
翻って、アルトを拠点としエルフ諸国の東から攻めるとどうか。
あっという間にエルフ諸国は滅びてしまう。
「……とにかく、早く王都に援軍を頼もうぜ」
「それが、あちらにも魔王軍が攻め入っているようで、援軍は期待できないのです……」
「じゃあ、エルフに頼むか?」
「どうでしょう、彼らはあまり軍隊を動かすことを好みませんし……」
そもそも、エルフ諸国は軍事に優れているわけではない。
ダメ元で使者を出し、援軍を要請することとなった。
ここから両エルフの首都まで、早馬で3日はかかる。
向こうが即座に了承してくれたとして、猶予はほとんどない。
「私たちも、戦いに備えて訓練をしましょう!」
「「おおーっ!!」
俺たちは、エルフ国の助けを半ば期待、半ば諦めながら、特訓に明け暮れた。
「よし、今日の特訓は終わり! 魔王軍が攻めてくるのは明日だ、今日はよく休息を取るんだぞ」
太陽が沈む頃、俺はようやく自由になった。
訓練は地獄だった。
なまじ魔力が高いばかりに、訓練の師匠役を務めるベテラン冒険者に目をつけられたのだ。
そこに師匠のレインまでやってきて、昼休憩まで潰して訓練漬けだった。
まあ、おかげで新しい魔法がいろいろ習得できたり、いくつか魔法を編み出せたのは良かったが。
……今日は早く寝たい。
その一心で宿に入った瞬間──
「うえ〜ん、疲れたぁ……」
よろけた三城が突っ込んできた。
「うわっ!」
反射的に身をひねると、勢い余った三城は外に転がり落ちていった。
顔面からこける盛大な音が聞こえてきたが、大丈夫だろうか。
案の定、地面に打ちつけたのか、鼻を赤くした三城が泣きながら戻ってきた。
「はぁ……。ほれ、絆創膏貼ったるから泣くな泣くな」
お気持ち程度に絆創膏を貼ったら、泣き止んだ。
そのまま部屋に戻るのも憚られ、俺たちはロビーの椅子に並んで腰掛ける。
「というか、盗賊の訓練って何するんだよ。どうせ大したことしてないだろ」
「ひどい〜……。これの練習がんばったのに」
そう言うと、三城は短剣を取り出した。
……こいつに武器を持たせてはいけない気がするのだが。
「まあ、調子乗って死んだりするなよ」
「は〜い」
俺は部屋に戻り、明日に備えて眠った。
朝、冒険者たちはギルドに集まった。
すぐに始まるであろう戦いに備え、思い思いに武器の点検や魔法の練習をしている。
「皆さん、エルフの援軍が来ました!」
ギルドの扉が開け放たれ、純白の服に身を包み、杖を構えた集団が列を成して入ってくる。
全員が魔術師、それも神聖魔法を得意とする白魔術師だろう。
集団の中でもひときわ強者の風格を漂わせる2人の男が、前に進み出た。
「アルトの皆様、私は西エルフ国軍長官、グラディウスと申します」
「私は東エルフ国のグローヌ。皆さん、共にこの難局を乗り切りましょう」
この雰囲気だと、両エルフ国の関係は良好なようだ。
王国との関係も決して悪いものではない、連携は容易だろう。
「では、東エルフ国の皆様は北側、西エルフ国の皆様は東側の城壁で待機をお願いします。アルトの冒険者たちは、各方角に散って待機してくれ」
ハンドンの指示が出た。
「でも、前みたいに町に直接来たらどうすんだよ?」
井川が口を挟む。
「そうだな。ギルドにも少数が待機してくれ。
……それと、各城門に一つづつ狼煙があるから、敵を確認したらそれを焚いてくれ」
俺は、北側の城壁で待機することになった。
ここにくる可能性が一番高いそうだから、気は抜けない。
「しかし、東側のと違って、こっちの街道はボロボロだな」
東側の街道はレンガが敷かれ、馬車が通ってもびくともしないような感じだった。
それに対し、こちらは草がぼうぼうに生え、どこに道があるのかわからない有様だ。
「そりゃそうさ。10年前に北西領土が占領されてから、誰もあっちに行かねえからな」
なるほど、そういうことか。
魔王の領地に行きたい奴なんて誰もいない。
その時、弓使いのカールが、遠くを見据えて叫ぶ。
「来たぞ! ……って、なんか多くないか!?」
「狼煙を焚け! 早くみんなに知らせろ!」
アーツの言葉に、俺は慌てて近くの狼煙に駆け寄り、魔法を撃って火をつけた。
もうもうと煙が立ち昇り、開戦を告げる。




