2.森でのサバイバル
目を開けると、そこは木々の茂る深い森の中。
異世界ならば、いかにもモンスターが出そうだ。
……せめて街とかに転移させろよ。
今の俺たち何もできないぞ?
何を期待したのか知らんが、このままだと今日中にはあなたと再会することになりますよ?
「インベントリ! ……違うか。ステータス! あれぇ?」
野口が何やら叫んでいる。
「何やってるんだよ野口、そんなんで出るわけないだろ」
野口のオタク仲間、若山直人がそんな野口をたしなめる。
「こういうのはな、心を込めて唱えるんだよ。『インベントリ』 ……あれ?」
お前もそっち側か!
しかし、確かに神ならそんな支援システムを用意していてもおかしくはない。
誰かにそういう系統の能力を与えでもしたのだろうか。
「はーい、みんな集まってー」
日比野の声。
山の中を思い思いに徘徊していた生徒たちは、たちまちその元へ集まった。
「こんな状況だし、やっぱりみんなで助け合っていかないとね。
さて、これからどうすればいいと思う?」
日比野が皆に問いかける。
「森で俺たちだけでいるのは危険だし、早く町を見つけてそこに行くのがいいと思う」
野口が手を挙げる。
「いや、町が近くにあるとは限らないだろ。今後のことも考えると、やっぱり森で暮らす技術を身につけるべきだ」
若山が反論する。
お前ら仲がいいんじゃないのかよ。
「なら、川沿いとかの開けた場所に拠点を作るのは?」
「それがいい!」
おや、一瞬で結論が出たようだ。
「みんなもそれでいいかな。じゃあ、とりあえず川を目指そう!」
「「おー!」」
日比野の号令の下に、川探しが始まる。
本来ならば班分けをすべきだろうが、異世界でそれは危険過ぎる。
固まって移動することになった。
日がてっぺんまで上がり、そして沈み始めた。
「……見つかんねえな!」
「本当にやってらんねえよ。誰か神にもらった能力でパパッと見つけらんねえのか!?」
泊やその友人たちは、早くも不平をこぼす。
「ちょっと男子、しっかりやりなさいよ」
「そうよ、もし化け物に襲われたら、あんた達を囮にするからね」
「あぁ!? やれるもんならやってみろよ!」
やはり、危機に瀕すると人は凶暴になるな。
「……ねえ、みんなにひとつ聞いてもいいかな?」
さっきまで黙って先頭を歩いていた日比野が、おずおずと話を切り出す。
「私、この森に来てからずっと、視界にいろいろ情報が見えてくるんだけど。
もしかして、これって私だけ……?」
「そ、それがお前の能力ってことなんじゃねえか!?」
「周りの状況を把握できる力ってことか。これは強いな!」
驚愕する泊と、興奮する野口。
「だから、この獣道をあと数分進めば川が見えるって、私にははっきりわかるんだ。
ごめんね、ちゃんと言ってなくて」
特に非はないにも関わらず、日比野は頭を下げる。
「……まあいいよ」
「仕方ない仕方ない」
「私たちの方こそ、騒いでごめんね。こんな時こそちゃんとしてなきゃなのに……」
神妙な日比野の態度にばつが悪くなったのか、先ほど争っていた生徒たちは大人しくなる。
「そういえば、その能力って私たちがもらった能力ってのも分かるの?」
「うん。玖珠田さんは、回復魔法に適性があるみたいだよ」
日比野と玖珠田が交わした、何気ない会話。
それが、生徒たちの好奇心を刺激した。
「お、俺の能力は何だ!?」
「私のも教えてよ〜!」
日比野はたちまち生徒に取り囲まれ、サングラスを落とした有名人状態になった。
「しーちゃんは聞かないの?」
「どうせ大したもんじゃないだろうしな。聞くだけ悲しくなるよ」
「ふーん。私はみんなが離れてから聞きに行こっかな」
「とりあえず俺からは今すぐ離れてくれないか? なんか変な噂立ってるみたいだしさ」
「え〜……」
そう言うと、三城は口を尖らせながら去っていった。
日比野が解放された頃、辺りには悲喜こもごもの声が飛び交っていた。
「無詠唱って何なんだ?」
「あー、それは魔法の発動が楽になるってことだね」
「これなんて読むの? 委員長も分からなかったんだけど」
「闇の攪乱……とかだと思うけど」
その代わり、野口と若山が大人気になっていた。
ちなみに、俺もいちおう能力を聞いておいた。
「魔力が10倍……。結構すごいんじゃないかな?」
って言ってたが、野口によるとそこまでぶっ壊れではないらしい。
魔力回復アイテムとか沢山あるからだと。
ほーら、どうせ俺なんて。
川のほとり、広々とした河原にて。
「は、はーいみんな、とりあえず河原に拠点を作ろう……。
男子たちは使えそうな大きめの枝を集めて、女子たちは食料集めをお願いできるかな?」
疲弊した日比野が何とか指示を飛ばすと、生徒たちは辺りに散っていった。
「そんな枝とか落ちてねえじゃねえか。誰か剣とか持ってねえのかよ」
「持ってたとしても、剣で木は切れないかな……」
「うるせえ! お前なら何とかできんだろ、そのために小説とかマンガとか読んでるんじゃねえのかよ!」
日比野にいろいろ言われて鬱憤が溜まっていたのか、泊が野口に当たっている。
かわいそうに。
「うわあ!」
突然、女子の叫び声が聞こえる。
あの声は……。
「ちょっと、なんかいるんですけど! あかね、早くやっつけちゃってよ!」
「何もいないじゃん、変なこと言わないでよ!」
「ほんとだって!」
食材集めに勤しんでいた2人の女子が、何やら話している。
榎田菜奈。
まあ、いわゆるギャルというやつなのだろうか。
騒がしいから俺は苦手だ。
怯える榎田に抱きつかれてうざがっているのが、城戸茜。
そこまで騒がしい方ではないのだが、やたらと榎田に絡まれる体質のようだ。
これは余談だが、出席番号順に並べると、この2人が俺を挟んでいる。
厄介ごとに巻き込まれなければいいが……。
「なにビビってんの? いや〜、なっさけないわね」
騒動も終わりかけたところで、予期せぬ乱入者。
「慎重なのが悪いわけ? あんたがモンスターに襲われてても、助けてやんないわよ!」
「あんたに助けられるほどヤワじゃないんですけど。むしろそっちが土下座して助けを求めるのよ」
「ちょ、ちょっと、榎田さんに早乙女さん、落ち着いて!」
2人の騒動に、日比野が慌ててやってくる。
早乙女サキ、ギャルその2。
何で榎田と仲が悪いのかは知らないが、同じギャル同士仲良くしろよとは思う。
だが、どうも馬が合わないらしい。
まあ、比較的クラスに協力的な榎田と、泊の女版とも呼べるような早乙女だから、仕方ないか。
そういうものと割り切り、作業へ戻る。
「よし、5本目!」
「松久、お前すげえな! プロレスラーでもこんな力持ちいねえよ!」
こちらはこちらで騒がしい。
どうやら、松久航平が木を伐採して回っているようだ。
まあ、大学のラグビーの試合のサポートとして呼ばれるくらいには強いらしい。
その筋骨隆々とした巨体は、異世界で真価を発揮したようだ。
「よし、松ぼっくりを入れて……。ほら、上手くいったぞ」
「山口って、昔は田舎で暮らしてたんだっけ? なかなか役に立つな」
大木を運ぶ手伝いをさせられた後拠点に戻ると、こちらでは山口雄大が活躍している。
中学校までの人生を、四国のどこかの村で過ごし、その頃から自然には詳しいのだそうだ。
横にいる野口の異世界の見識と組み合わせれば、最強の攻略本の完成ということか。
異世界に来て、変わらない部分もあれば、人の思わぬ強みに気づかされたり。
……俺にも、何か取り柄が欲しいものだな。




