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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第2章 アルトの危機
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19/80

19.決着

 ヴァルトは、魔法の詠唱を始める。

 だが、その内容を聞き取ることができない。

「あれは……古代語!? みんな、早く周りを囲め! 町へ被害を出すな!」

 ハンドンの焦った姿にただならぬものを感じ、冒険者たちは従った。

 俺たちも、名残惜しい結界を離れ、ヴァルト包囲網の一端に加わる。


 その時、ヴァルトがニヤリと笑い、左手を高々と掲げる。

 その先に、真紅の球が生じた。

 血のように真っ赤な光球は、どんどんと大きくなっていく。

 その瞬間、俺たちは強烈な風と熱気に襲われる。

「ダメだ、自分の身を守れ! 防御の姿勢を! 死ぬぞ!」

 冷静な指揮官たるハンドンは、今までに見たことがないほどに焦っていた。

 俺たちは、再び結界へと避難した。


 ドゴオォン!!


 轟音とともに、熱風が一気に力を増す。

 結界の中にいるというのに、気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうだ。

「貴様ら人間どもが、この悪魔公爵ヴァルトに敵うわけがない。自分の愚かな行いを地獄で悔いるがいい……紅蓮(クリムゾン)の(・エ)終焉(ンドロール)」



 視界が、鮮血のような真っ赤に染まる。

 痛みも熱さも、音も感じない。

 ただ、体がふわふわと浮かんでいるかのような感覚に包まれている。


 ……そうか、死んだのか。

 俺はヴァルトの魔法を受け、その短い一生の終わりを迎えた。

 ……まあ、悪くない一生だった。



「……!?」

 その瞬間、意識が引き戻される。

 同時に、身体中の関節に軋むような痛みが襲ってくる。

 痛みに目を開けると、そこには凄惨な光景があった。


 立派だったギルドは、折れ曲がった骨組みと、黒く焦げた壁の残骸を残し、無惨にも崩壊していた。

 それだけではない。周辺の建物も、全て瓦礫と化している。

 目測で500m。

 その範囲が、ヴァルトによって廃墟に変えられた。


「……嘘だろ……」

 言葉すら出てこない。

 これは悪夢なのか……?


「ククク、ハッハッハ。やはりこの悪魔公爵に敵うものなどいない。

 ……どうですか? 降伏して町を明け渡すなら、今のうちですよ」

 ヴァルトは周りに倒れ伏す冒険者たちを一瞥すると、そう言い放つ。

 降伏するしかない。

 誰もが、その言葉を言い出す者を待っていた。


「……誰が降伏するかよ!」

 その言葉と共に、立ち上がった冒険者が1人。

 ヴァルトに狙いを定めて弓を引き絞る、カールであった。

「そ、そうだ!」「悪魔なんぞに負けてたまるか!」「アルトの意地を見せてやれ!」

 それに触発され、冒険者たちは次々と立ち上がる。

 俺も勇気を取り戻し、魔力を手先に込める。


(みんな、聞いてくれ。

 やっぱり、バラバラに攻撃するんじゃなくて、一斉に攻撃した方がいい。みんな、俺の合図で一斉に魔法を放ってくれないか?)

 山口が提案する。

 皆の同意は、言葉にせずとも伝わった。


(待て、ただ魔法を撃っても逃げられるかもしれない。先に動きを封じるべきじゃないか?)

 若山が問題を提起する。

 確かにそうだ。

 これまでの戦いで、冒険者たちは大量に魔法を放ったが、ほぼ全てを躱されてしまった。

(なら、盗賊職が適任ね。敵の動きを封じる魔法が多くある)

 寺田が解決策を出し、議論は一歩前進した。

 

(やっぱり、悪魔には神聖な攻撃が効くよな。光属性か?)

(あとは、修道士(プリースト)の浄化魔法も効くかも)

(私たちも戦闘に参加できるなんて、意外だねぇ)

 徐々に徐々に、作戦の方向性が見えてくる。


 まず盗賊たちが拘束魔法を放ち、ヴァルトの動きを封じる。

 次いで神聖魔法や攻撃魔法を撃ち込み、ヴァルトを倒し、めでたしめでたし……。

 俺たちの作戦の概要は、そんなところか。


 作戦は、瞬く間に冒険者皆に伝えられた。

「……おや? 何か作戦を考えたようすで。まあ、大したものではないでしょうが」

 この調子だと、ヴァルトは作戦の内容までは分かっていないようだ。

(じゃあ、まずは敵の動きを封じる。3、2、1、撃て!)

 山口の合図に合わせ、盗賊たちが一斉に魔法を放つ。

 縄が飛び、地面から鎖が生え、魔法陣がヴァルトを包み込んだ。


「これしき、私にはどうということも……なっ!?」

 飛んでくる縄を蹴り飛ばしたヴァルトは、その後ろの鎖に気付かず、絡め取られる。

「よし、魔法攻撃!」

「漆黒の炎よ、邪悪なる存在を焼き尽くせ……『不知火』!」

 俺は光魔法や神聖魔法は使えないので、普通の魔法にはなってしまうが。

 微力ではあるが、助けにはなるだろう。


 その時、空気がピリピリと震えるのを感じる。

 まさか、ヴァルトが覚醒したのか!?

 ……と思ったが、魔法の集中攻撃を浴びて悲鳴を上げているだけなので、違う。

 では一体……?


「神よ、どうか私に力を。悪魔に神の鉄槌を……破魔(スクエア・オブ・)殺陣(ターンアンデッド)!」

 その呪文と共に、ヴァルトの周りに純白の魔法陣が描き出される。

 魔法陣は輝きを増し、ヴァルトを飲み込んでいく。

「くっ、この悪魔公爵が、こんな町で絶えることになろうとは……。

 だが、私はいずれ帰ってくる。油断しないことだなあああああああっ!!」

 ヴァルトの体を、純白の光が包み込む。

 俺たちの耳には、ヴァルトの断末魔が鋭く響いた。



 ……少し不安は残ったものの、無事にヴァルトを倒すことができた。

 しかし、あの魔法陣は一体誰が……?

「レインさんがやったぞーっ!」

「ばんざーーいっ!」

 冒険者たちに胴上げされているのは、俺に魔法を教えてくれた恩師、レインであった。

 ……また魔法教わりに行こ。


 しかし、終わりよければ全てよしというわけにはいかない。

 ギルド周辺は破壊の限りを尽くされ、見るも絶えない惨状。

 これを再建するのも、我々冒険者の責務だろう。

 それに、この戦いで戦死したものや、巻き込まれ犠牲になった民間人もいる。

 戦いの傷跡は、この町に確かに刻まれた。

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