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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第2章 アルトの危機
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18.悪魔の戦術

「はあ、はあ……。くそ、なかなかやりますね」

 煙が晴れると、ヴァルトは地面に膝をつき、肩で息をしていた。

 かなり消耗しているのは、火を見るよりも明らかだ。

 よし、このまま一気に畳み掛ける──


 その時、ヴァルトは立ち上がり、こちらを見据える。

「だが、たった一度成功しただけでいい気になるな。私が操る魔法は500種類以上。次は何で遊んでやりましょうかね……」

 ヴァルトはそう言うと、わざとらしく考え込み、隙をちらちらと見せる。

「今だ! 火球(ファイアボール)!」

 その隙を逃さず、井川が魔法を放つ。

「おや、今何か通りましたか?」

 だが、ヴァルトはしなやかにそれを躱し、こちらを嘲笑う。


「これだ……氷牢(クリスタル・プリズン)!」

 その時、唐突にヴァルトが魔法を唱える。

 が、視界には何も映らない。

「何だ、何も起こらないじゃないか……!?」

 一歩踏み出そうとした時、なぜか足を引っ張られ前につんのめる。

 その時、足元に広がるものを見つけ、俺は背筋が凍った。

 脚が、氷に覆われていた。

 その瞬間、痛みにも似た冷たさが、下半身を襲う。

 歯がひとりでにカチカチと音を鳴らす。


「は、早く氷を溶かせ! 殺されるぞ!」

 俺たちは、足元に魔法をぶつけたり、剣で斬りつけたりして、急いで自由を得ようともがく。

「なんて滑稽な姿。ですが、こちらにも気を配っていただきたいものですね……盤弾(アース・バレット)!」

 ヴァルトの声に、俺は慌てて顔を上げる。

 目の前に、今まさに俺の顔面に的中しようとする、大きな瓦礫があった。


「うわああっ!? 危ねえ……」

 俺は間一髪で体をひねり、巨大な弾丸を避ける。

 だが、暴力的な弾の嵐が止むことはない。

 瓦礫が壁にぶつかるたび、建物ごと揺れるのが伝わってきた。

「うわっ、危ねっ、ぎゃあああっ!!」

 何発かは避けることに成功したものの、一発を背中から受けた。

「どうしたんですか皆さん、早く冒険者の意地を見せてくださいよ! さあ!」

 ヴァルトの挑発的な嗤い声が、ギルドの吹き抜けにこだまする。


「……あ、魔法使えばいいんだ。風刃(ウィンドブレード)!」

 先ほどの痛みに頭が活性化したらしい、すっかり失念していたことを思い出した。

「テレキネシス! 全部お前にお返ししてやる!」

 俺の周りの瓦礫を止め、ヴァルトの方に送り返した。

「おっと、危ない危ない。私の大事な服が土で汚れてしまうところでした」

 だが、ヴァルトは全てを魔法で打ち返した。


 その間に、俺たちはそそくさと氷を溶かし、動きを自由にする。

「おや、氷を溶かされてしまいましたか。まあいい、そろそろ森の悪魔お得意の戦術を見せてやるとしましょうか……。

 大地よ、私に力を。その恵みを以て、私に尽くしたまえ……大樹(ドリュアス)」


 瞬間、ヴァルトの真横に、芽が出る。

「何だあれ。さっさと焼いちまえ!」

 冒険者の1人が、火球をぶつける。

 だが、不思議なことに、火の玉は芽に届く前に消え失せた。

 それをきっかけに、芽はぐんぐんと成長を始める。


 幹が伸び、枝が分かれ、葉が茂っていく。

 幹はさらに太さを増し、枝葉はどんどんと数を増した。

 俺たちの目の前に、森が生まれていく、

 ヴァルトはその一本に腰掛け、樹の成長とともに昇っていく。


 バリン!


 ギルドの屋根を突き破った音がした。

 樹の幹は、すでに人の横幅の何倍もの太さになっていた。

「……って、これの一体どこがお得意の戦術なんだ? さっさと斬っちまおうぜ」

 拍子抜けしたような調子で、笹川が剣を構えて樹に近づく。

「捕え(エルファスト)る枝(・ツヴァイク)」

 その時、まるで天の声かと思えるほど高い位置から、ヴァルトの声が響く。


 笹川が消えた。

 数秒遅れて、壁が破壊される轟音。

「……圭介? どこいった……!?」

 井川が当たりを見回し、突然声を失う。


 笹川は、吹き抜けを飛び上がり、3階の壁に突き刺さっていた。

「お、おい……今何があったんだ?」

 井川が、震える声で言葉を絞り出す。


 その瞬間、目の前の樹の、枝という枝、根という根が、一斉に動き始めた。

 それらは、俺たちの方に向かって、恐ろしいスピードで突き進んでくる。

 腹を突かれ、笹川のように吹き飛んでいくもの。

 枝にしがみつき、なすすべなくあたりを引き摺り回されているもの。

 根に巻きつかれ、息苦しさに呻き声を上げるもの。

 そこには、ただ混乱と恐怖があった。


「うわっ! おい、片っ端から斬り落とせ!」

「無茶言うな、目の前のに対処するので精一杯だよ!」

 剣術の能力を得たという野口も、根の集中攻撃を食らって苦戦している。

「く、苦しい……ぐはっ!?」

 枝に巻きつかれた土岐枝の口から、血が溢れてきた。

 恐らく、圧力でどこかが潰れたんだろう。


 どうする? このままでは、いずれこちらは全滅だ。

 剣士(ソードマン)たちに支援魔法をかけている修道士(プリースト)たちが、集中的に攻撃を浴びている。

 修道士が倒れれば、やがて剣士たちも敗北する。

 早くあの木をなんとかしなければ……。


「神よ、今私に助けを、私たちの身心を守る救いを……結界!」

 その時、橋本の凛とした声が響く。

 思わず目をやると、橋本の周囲に、神聖な光を纏う球体が生じていた。

 ああ、あいつの職業は結界師だったか。

「みんな、この中に逃げて!」

 どうやら、橋本も本調子を取り戻してきたらしい。

 ……しかし、結界の中に逃げるまでにやられてしまいそうだ。


 ガキン!


 俺の目の前に、盾を構えた人影が飛び込んでくる。

「早く結界に逃げろ! 俺たちのことは後でいい!」

「芹沢! ……頼んだぞ!」

 芹沢が身を挺して根の攻撃を引き受けている間に、俺や隣の荒川は結界に逃れた。


 結界内には、他のクラスメイトや、冒険者たちが避難してきていた。

 見れば、あちこちで結界師たちが結界を張り、冒険者たちを逃がしている。

 これで、ひとまずの難は逃れたか……。


「安心してる場合じゃねえ、まだ何人も取り残されてんぞ!」

 泊の怒声に、俺はハッとして戦場に目をやる。

 大樹の根や枝に捕らわれた冒険者たちが、苦痛に叫び声を上げていた。

「ちひろ!? ……早く何とかしないと! どうしたらいいのよ!?」

 平城山の視線の先には、今まさに地面に叩きつけられる土岐枝。


「今までの戦いを見ていると、魔法の攻撃はほとんど効いていなかった。剣の攻撃は通っていたみたいだけれど、剣で救いにいくのは無謀すぎる。一体どうしたら……」

 坂北が頭を抱え、仲間を救えぬ無力さに絶望の表情を見せる。


「大地の精霊よ、私の命に従い、世界の平穏を乱すものに鉄槌を!」

 突然、湯梨浜がそう言うとともに腕を突き出す。

 その手から、小さな光が何百、いや何千も飛び出す。

 光は大樹に向かい、それを包囲する。


 突然、瑞々しい枝葉の色が、くすみ始める。

 おぞましく蠢いていた根の動きが鈍くなる。

 大樹はどんどんと弱ってゆく。


「ち、ちひろ! ……ヒール! ヒール!」

 地面に投げ出された土岐枝のもとに千曲が駆け寄ると、目から大粒の涙をこぼしながら、必死に治癒魔法をかける。

「私も加勢する。ヒール!」

 玖珠田も加わり、土岐枝の傷を癒していった。


「……私、何を……!?」

「ちひろ〜〜っ! 良かったぁ……」

 目を覚ました土岐枝は、突然千曲に泣きつかれたことに驚き、目を白黒させる。

「……ねっ、精霊術も悪くないでしょ?」

 それを見届けた湯梨浜が、俺たちに笑いかけてきた。


「……まあ、ひとまずの危機は脱したか。だが……」

 俺が懸念するのは、この後だ。

 立ち枯れ状態になった大樹の横から、顔を紅潮させたヴァルトがゆっくりと降りてくる。

「いったい何があった? ……くそっ、精霊術か。忌々しい……。

 ……この悪魔公爵を怒らせたこと、後悔させて差し上げようではありませんか!」

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