15.森がおかしいです
ある日、いつものようにギルドに向かうと、何やら慌ただしい。
いつもはのんびりしている冒険者たちが、あくせくギルドに出入りしている。
職員たちも、書類の山を持ってあっちへ行ったりこっちへ行ったり。
「何があったんだ?」
「聞いてないのか? 森からモンスターが消えちまったんだよ」
聞くところによれば、この町近くの森から、モンスターが忽然と姿を消してしまったらしい。
何か大きな脅威が森に現れた可能性があるため、急いで調査を行っているのだとか。
冒険者としても、モンスターがいないとクエストが減り、収入源に直結するから、進んで協力しているのだそう。
なら、俺たちも協力すべきだろうな。
手がかりを見つければ高額の報酬がもらえるみたいだし。
俺たちは、さっそくカウンターに向かった。
「……申し訳ありませんが、仮冒険者の方々は、特殊クエストへの参加は認められておりません。一般冒険者の方のみの参加となりますが、よろしいでしょうか」
そういえばそうだった。
日比野は渋々と言った様子でサインすると、俺たちを送り出す。
向こうのパーティーとも合流し、6人で森へと向かった。
「……マジで何もねえな」
森へ入って30分、泊が悪態をつき始めた。
「まあそんなこと言うなよ。きっと何か見つかるはずさ」
「でも、こんなところに手がかりがあったとして、とっくに他の奴に取られてるだろ」
励ます松久の言葉を遮るように、芹沢が吐き捨てる。
そして、3人でひときわ大きなため息をついた。
悲しいことだが、芹沢の言う通りだ。
こんな高額のクエスト、滅多にあるもんじゃない。
冒険者は皆、血眼になって捜索を行なっている。
道端なんかにごろごろ手がかりが落ちているはずがない。
「でも、手ぶらで帰るわけにもいかねえしな……」
「じゃあ、こんな道歩いてないで、ああいうところを探したほうがいいんじゃないか?」
芹沢が、獣道の横、鬱蒼とした森を指差す。
「気は進まないけど、やるしかねえよな……」
井川を先頭に、俺たちは密林へと足を踏み入れる。
森の中は足場も悪く、いかにも何かが出そうな雰囲気だ。
「おい、こりゃなんだ!? ……チッ、カタツムリの殻かよ」
「何だあの光は! ……って、水たまりに太陽が反射しただけか」
皆は何かを見つけては一喜一憂する。
結局、森の中を1時間ほど歩いたが、やはり何も見つからなかった。
「これ以上いても仕方ない、もう帰ろうぜ」
「何か見つけたかったけどねぇー……」
皆は諦めムードになり、緩慢な動作で来た方向へ歩き出そうとする。
「あ、ありゃ何だ!? ……!」
突然、松久が短い叫び声を上げると、ハッとしたように口を塞ぐ。
松久の前方を見てみると──
スライムの行列。
何百匹ものスライムが、木々の間を縫って俺たちの目の前を通り過ぎていく。
不思議なことに、スライムたちは皆濃い藍色をしている。
幸いなことに、こちらには気づいていないようだ。
「気味悪いな。軍隊みてえだ」
泊の言う通り、その一糸乱れぬ行進は、軍隊を彷彿とさせるものだった。
しかし、スライムは基本的に群れを作らない。
とすると、誰かに飼い慣らされているということか……。
「……異常だな」
「ギルドに報告しようぜ。……でもまずは、どうやって気付かれずに帰るかだが……」
その時、俺の懐から、青色をした何かが飛び出す。
その何かは音もなく着地すると、スライムの群れを睨みつける。
……どっかで見たことあるぞ。
「……って、榎田のスライムじゃねえか」
すまいむだっけ? ……しかし、何で俺の懐に?
「おい神埼、何か紙落ちてるぞ」
「何だこれ? ……げっ」
紙を拾い上げ読んだ瞬間、俺は眉を顰める。
神埼くんへ
すまいむは連れていっていいみたいだから、持ってって
きっと役に立つよ
榎田&城戸
……一番気になるのは、どうやって俺の懐に入れた?
あと何で俺は今まで気づかなかった?
というか、そのすまいむが、今敵陣に突っ込んでいきそうなんですが。
あっ──
止める間もなく、すまいむは高く飛び跳ね、藍色のスライムの群れへと突っ込んでいく。
俺たちは慌てて木の後ろへと隠れる。
そして、こっそりと様子を窺う。
すまいむと藍色のスライムたちは、激しい戦闘を繰り広げていた。
……具体的に言うと、ぴょんぴょん飛び跳ねてぶつかり合っていた。
ぴょんと飛び跳ね、相手にぶつかる。
両方プルプルなので、跳ね返される。
その繰り返し。可愛い戦いだ。
……って、早く何とかしないと、スライムたちの主が現れるかもしれない。
そう思い、すまいむを呼び寄せようとした瞬間──
俺たちの真上を、大きな影が飛び去った。
その影は、スライムたちのそばにひらりと着地する。
影は、スーツを身にまとい、背中から漆黒の翼を生やした男であった。
まるで悪魔のよう。いや、おそらく悪魔そのものだ。
その全身から溢れ出してくる、凄まじい魔力。
恐ろしい強者であることを物語っている。
男は藍色のスライムたちを制すると、すまいむをひょいと持ち上げる。
ああ、さらばすまいむ。R.I.P……。
と思ったら、男はすまいむを興味なさげに放り投げた。
その後、何かを探すように、辺りを見回す。
……! 俺たちを探している。
見つかったらおしまいだ……。
俺は、悪魔が去るのを祈りながら、目を閉じて時間が過ぎるのを待つ。
いったいどれくらいの時間が経っただろうか。
いくら悪魔でも、もう帰っただろう。
そう思い、俺は顔を上げる。
黒服の悪魔が、俺と目を合わせた。




