14.吸血鬼が出ました
最近、アルトの住民を悩ませているものがある。
コウモリである。
夜な夜な町にやってきては、洗濯物を食い荒らしたり、ペットを拐ったりしていく。
オロチを討伐した次の日からのことなので、何か関係があるのかもしれない。
さて、コウモリといえば吸血鬼。
もしかしたら、コウモリの中に吸血鬼が混じっているかもしれない。
血を吸われたら、自分も吸血鬼になってしまうと聞く。
自衛のため、十字架と銀の杖を買い、窓際に置いておいた。
「ギャッ」
夜、うめき声に目を覚ますと、窓の外でコウモリが苦しそうに飛び回っていた。
窓を開け、銀の杖を振り回す。
コウモリに直撃すると、気絶して落下していった。
外に出て、俺の部屋の真下の方に行くと、マントを羽織り、赤い服を着た男が倒れている。
話を聞き出せば、騒動の原因が掴めるかもしれない。
もし暴れたら、十字架を見せつけて銀の杖で殴ればいいだろう。
俺は男の足首を掴み、2階まで引きずって持っていく。
椅子に男を座らせ、普通の棒で頭を殴って起こす。
「あれ、私は何を……ひえっ!?」
「やっぱりこれが弱点か。とりあえず、名前でも聞こうか」
十字架を見せつけたら、大人しくなった。
男は、飄々とした人物であった。
「私はワラキア、ご想像の通り吸血鬼です。しっかし、私たちの弱点が十字架と銀だって、よく分かりましたね」
「俺の出身地に、そういう言い伝えがあったんでな。
……で、お前は一体何のためにこんな騒ぎを引き起こしているんだ?」
「そりゃ、魔王様のためですよ」
「なるほどなるほど、魔王……魔王!?」
いきなり飛び出した単語に、俺は思わず飛び上がった。
こいつ、まさか魔王の配下!?
だとしたら、この町は魔王に狙われているということか……。
「それがですね、最初は魔王城のそばに棲みついた野良モンスターを、ここの近くの池に捨てただけだったんですよ。それが次の日行ってみたらもう討伐されていて、手強い奴らだって目をつけられちゃったみたいですね」
何てこった、完全に俺たちのせいじゃん。
……いや、遅かれ早かれどこかのパーティーが討伐しただろうし、別にいいか。
というか、魔王軍なんだからモンスター捨ててないで倒しちまえよ。
「それじゃ、私は忙しいんで帰りますね」
「待て、その前にコウモリを何とかしろ。俺の一張羅も食い破られたんだよ」
そう言いながら、俺は脇腹に大きく穴の空いた寝巻きを見せつける。
「やですよ、情報収集のために飛ばしてるんだから」
「じゃあ尚更ダメだろ」
俺は、ワラキアの肩に銀の杖をポンとおいた。
結局、コウモリを飛ばさないこと、あまり町にちょっかいをかけないことを約束させ、哀れな吸血鬼は帰してあげた。
もしまた来たら、屋根にでっかい十字架を設置するぞと言っておいたので、大丈夫だろう。
……と思ったのだが。
「緊急! 冒険者の皆さんはすぐに北門へ集まってください。吸血コウモリの大群です!」
あの嘘つきめ!
ギルドへの一旦集合もないところを見ると、よほど緊急なのだろう。
俺たちは、装備を急いで取り、北門を目指した。
「……な、なんじゃありゃあ!?」
俺たちの目の前に見えるのは、コウモリの大群。
群れの中心は真っ黒で、向こうを見通すこともできない。
「目視での数は1万匹、あと1分でここに到達します!」
「何だと!? ……魔術師たち、早く魔法の用意を!」
ハンドンが慌てて指示を出す。
電撃や炎が、コウモリの群れへ降り注ぐ。
しかし、コウモリは前後左右へ広がり、魔法を避ける。
「続けろ! 噛まれたら吸血鬼になってしまうぞ!」
ハンドンが恐ろしい事実を告げる。
俺たちは、必死に魔法を撃ちまくった。
「『煙霞』! ……結構効くなこれ!」
範囲攻撃は、こういう質より量の相手には猛烈に効く。
やはり、魔法の使い分けは大事だ。
「風刃! くそっ、全然当たらねえ!」
井川みたいにならないためにな。
コウモリ相手に風魔法放っても吹っ飛ぶだけだろ。
しかし、1万匹は俺たちが相手をするには多すぎる数だった。
魔術師たちは善戦したが、百匹ほどが魔法の網をかいくぐり、衛士の列に襲いかかる。
衛士たちはコウモリを盾で防ぎ、剣で抵抗を試みる。
だが、素早く動くコウモリは、剣では倒しにくい。
「やれー! すまいむ!」
榎田の声!?
見ると、解き放たれた青色のスライムが、次々とコウモリを捕食していくではないか。
お腹の中で噛まれ、吸血スライムになってしまうかと危惧されたが、そんなこともなかった。
消化能力がすごいらしい。
ほどなくして、コウモリの群れは全滅した。
しかし、冒険者たちの間には疑問が渦巻いているようで。
「みんな調子が良くないみたいだが、なんかあったのか?」
「知らねえのか? ……この前のコウモリの群れ、親玉がいなかったんだよ」
暇そうな冒険者に聞くと、気になる答えが返ってきた。
「吸血コウモリの大部分はただのコウモリだが、中にはドラキュラっつう、人間に変身できるものもいる。吸血コウモリの群れは、このドラキュラが親玉だ。
普通の群れは、親玉が死んだら崩壊する。指示を出す奴がいなくなるからな。
……だが、あいつらは最後まで戦ってた。ありえねえ話だ」
つまり、群れの親玉、すなわちワラキアは、まだ生きているということか。
となると、再び徒党を組んで攻めてくる可能性がある。
……十字架を買い、鍛冶屋に頼んで宿の屋根に取り付けてもらった。
「ほい、出来上がり。でも、こんなんして何になるんだ? 金がもらえるからありがてえけどよ」
「ドラキュラは十字架に弱いっていう、俺の故郷の伝説さ」
「へえ。……でも、これじゃ意味なくねえか?」
「……金がないんだよ」
高さ5センチ、幅3センチ。
……意味ねえなこれ。
結局、ワラキアらが再び現れることはなかった。
俺の十字架が効いたかどうかは知らない。
まあ、普通に攻めてくる魔王軍もないことを考えると、この町に興味を失ったか。
ありがたいことだ、明日から安心して眠れる。




