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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第2章 アルトの危機
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14.吸血鬼が出ました

 最近、アルトの住民を悩ませているものがある。

 コウモリである。

 夜な夜な町にやってきては、洗濯物を食い荒らしたり、ペットを拐ったりしていく。

 オロチを討伐した次の日からのことなので、何か関係があるのかもしれない。


 さて、コウモリといえば吸血鬼。

 もしかしたら、コウモリの中に吸血鬼が混じっているかもしれない。

 血を吸われたら、自分も吸血鬼になってしまうと聞く。

 自衛のため、十字架と銀の杖を買い、窓際に置いておいた。


「ギャッ」

 夜、うめき声に目を覚ますと、窓の外でコウモリが苦しそうに飛び回っていた。

 窓を開け、銀の杖を振り回す。

 コウモリに直撃すると、気絶して落下していった。


 外に出て、俺の部屋の真下の方に行くと、マントを羽織り、赤い服を着た男が倒れている。

 話を聞き出せば、騒動の原因が掴めるかもしれない。

 もし暴れたら、十字架を見せつけて銀の杖で殴ればいいだろう。

 俺は男の足首を掴み、2階まで引きずって持っていく。


 椅子に男を座らせ、普通の棒で頭を殴って起こす。

「あれ、私は何を……ひえっ!?」

「やっぱりこれが弱点か。とりあえず、名前でも聞こうか」

 十字架を見せつけたら、大人しくなった。


 男は、飄々とした人物であった。

「私はワラキア、ご想像の通り吸血鬼(ドラキュラ)です。しっかし、私たちの弱点が十字架と銀だって、よく分かりましたね」

「俺の出身地に、そういう言い伝えがあったんでな。

 ……で、お前は一体何のためにこんな騒ぎを引き起こしているんだ?」


「そりゃ、魔王様のためですよ」

「なるほどなるほど、魔王……魔王!?」

 いきなり飛び出した単語に、俺は思わず飛び上がった。

 こいつ、まさか魔王の配下!?

 だとしたら、この町は魔王に狙われているということか……。


「それがですね、最初は魔王城のそばに棲みついた野良モンスターを、ここの近くの池に捨てただけだったんですよ。それが次の日行ってみたらもう討伐されていて、手強い奴らだって目をつけられちゃったみたいですね」

 何てこった、完全に俺たちのせいじゃん。

 ……いや、遅かれ早かれどこかのパーティーが討伐しただろうし、別にいいか。

 というか、魔王軍なんだからモンスター捨ててないで倒しちまえよ。


「それじゃ、私は忙しいんで帰りますね」

「待て、その前にコウモリを何とかしろ。俺の一張羅も食い破られたんだよ」

 そう言いながら、俺は脇腹に大きく穴の空いた寝巻きを見せつける。

「やですよ、情報収集のために飛ばしてるんだから」

「じゃあ尚更ダメだろ」

 俺は、ワラキアの肩に銀の杖をポンとおいた。


 結局、コウモリを飛ばさないこと、あまり町にちょっかいをかけないことを約束させ、哀れな吸血鬼は帰してあげた。

 もしまた来たら、屋根にでっかい十字架を設置するぞと言っておいたので、大丈夫だろう。

 ……と思ったのだが。


「緊急! 冒険者の皆さんはすぐに北門へ集まってください。吸血コウモリの大群です!」

 あの嘘つきめ!

 ギルドへの一旦集合もないところを見ると、よほど緊急なのだろう。

 俺たちは、装備を急いで取り、北門を目指した。


「……な、なんじゃありゃあ!?」

 俺たちの目の前に見えるのは、コウモリの大群。

 群れの中心は真っ黒で、向こうを見通すこともできない。

「目視での数は1万匹、あと1分でここに到達します!」

「何だと!? ……魔術師(ウィザード)たち、早く魔法の用意を!」

 ハンドンが慌てて指示を出す。


 電撃や炎が、コウモリの群れへ降り注ぐ。

 しかし、コウモリは前後左右へ広がり、魔法を避ける。

「続けろ! 噛まれたら吸血鬼になってしまうぞ!」

 ハンドンが恐ろしい事実を告げる。


 俺たちは、必死に魔法を撃ちまくった。

「『煙霞』! ……結構効くなこれ!」

 範囲攻撃は、こういう質より量の相手には猛烈に効く。

 やはり、魔法の使い分けは大事だ。

「風刃(ウィンドブレード)! くそっ、全然当たらねえ!」

 井川みたいにならないためにな。

 コウモリ相手に風魔法放っても吹っ飛ぶだけだろ。


 しかし、1万匹は俺たちが相手をするには多すぎる数だった。

 魔術師たちは善戦したが、百匹ほどが魔法の網をかいくぐり、衛士(プロテクター)の列に襲いかかる。

 衛士たちはコウモリを盾で防ぎ、剣で抵抗を試みる。

 だが、素早く動くコウモリは、剣では倒しにくい。


「やれー! すまいむ!」

 榎田の声!?

 見ると、解き放たれた青色のスライムが、次々とコウモリを捕食していくではないか。

 お腹の中で噛まれ、吸血スライムになってしまうかと危惧されたが、そんなこともなかった。

 消化能力がすごいらしい。


 ほどなくして、コウモリの群れは全滅した。

 しかし、冒険者たちの間には疑問が渦巻いているようで。

「みんな調子が良くないみたいだが、なんかあったのか?」

「知らねえのか? ……この前のコウモリの群れ、親玉がいなかったんだよ」

 暇そうな冒険者に聞くと、気になる答えが返ってきた。


「吸血コウモリの大部分はただのコウモリだが、中にはドラキュラっつう、人間に変身できるものもいる。吸血コウモリの群れは、このドラキュラが親玉だ。

 普通の群れは、親玉が死んだら崩壊する。指示を出す奴がいなくなるからな。

 ……だが、あいつらは最後まで戦ってた。ありえねえ話だ」

 つまり、群れの親玉、すなわちワラキアは、まだ生きているということか。

 となると、再び徒党を組んで攻めてくる可能性がある。


 ……十字架を買い、鍛冶屋に頼んで宿の屋根に取り付けてもらった。

「ほい、出来上がり。でも、こんなんして何になるんだ? 金がもらえるからありがてえけどよ」

「ドラキュラは十字架に弱いっていう、俺の故郷の伝説さ」

「へえ。……でも、これじゃ意味なくねえか?」

「……金がないんだよ」

 高さ5センチ、幅3センチ。

 ……意味ねえなこれ。


 結局、ワラキアらが再び現れることはなかった。

 俺の十字架が効いたかどうかは知らない。

 まあ、普通に攻めてくる魔王軍もないことを考えると、この町に興味を失ったか。

 ありがたいことだ、明日から安心して眠れる。

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