13.討伐に行きましょう
魔王軍襲来のせいで、俺たちの初討伐クエストが延期される羽目になった。
だが、そのごたごたも片づき、町には平和が戻ってきた。
今こそ再挑戦の時!
「今日からこのパーティーで頑張っていこうね。それじゃ、しゅっぱーつ!」
日比野は明るく言うと、宿の扉を開け放ち、外へ踏み出す。
今度は、何事もなくギルドまで辿り着くことができた。
俺たちは掲示板の前に立ち、良さそうなクエストを漁る。
「なあ、これとかいいんじゃないか?」
清水が、1枚の紙を指差す。
『西の池に棲みついた大蛇の討伐。10000カラン』
なかなか手頃そうじゃないか。
……って、大蛇ってモンスターですらないだろ。
美しい平原の中に、その池はあった。
池の水は透き通り、大蛇が潜んでいるとなど到底思えない。
だが、クエストが出されていると言うことは、その存在は間違いないのだ。
「みんな、今のうちに作戦を決めておかないか?」
若山の提案に、皆が賛同した。
俺たちは、草原の真ん中に円を描いて座る。
「やっぱり、誰かが引きつけて、その隙に横から攻撃して倒すのが一番だろ」
泊が提案する。
「それって誰かがオトリになるってことでしょ? 危なくない?」
「そうだよ、罠を作ったりして安全に倒したほうがいいよ」
土岐枝や湯梨浜は不安の声を上げた。
「みんなはどう思う?」
日比野が意見交換を促す。
「あたしは宗吾に賛成。今のうちに経験を積んどいたほうがいいしね」
榎田が、飼いスライムを撫でながら言う。
何でも、「スライム」+「スマイル」→「すまいむ」とかいう名前をつけたらしい。
無駄にかわいい名前だな。
「俺も賛成。この平原に罠を作るのは難しいと思う」
「それに、こういう相手は正攻法で倒すのが一番簡単だ」
若山と野口も、立て続けに賛成を表明する。
「神埼くんたちは?」
「俺も賛成だ」
「じゃあ私もー」
お前はもう少し芯を持て三城!
「……まあ、みんながそう言うんなら……」
「本当に大丈夫なんだよね?」
賛成の空気に押され、2人も渋々承諾した。
「ありがとう、2人とも。じゃあ、誰かオトリ役になってくれるって人?」
日比野が皆に聞く。
「やっぱり、俺が適任じゃないか?」
松久は力強く自身を指差す。
誰も異論はない。
松久は、湖畔に仁王立ちする。
俺たちは茂みに隠れ、池の様子を見守る。
ふと、水面が揺れた気がした。
その瞬間、水が大きくせり上がる。
その頂点から、鱗に覆われた爬虫類の頭が顔を出す。
大蛇の出現だ。
「大蛇め、俺を食べてみろ! 食べれるもんならな!」
松久はそう言うと、挑発するかのようにわざと背中を見せる。
侮辱されたと感じた大蛇は、松久を食うべく身を乗り出す。
そして、その全身を露わにした。
8つの頭を持つ、その真の姿を。
「や、ヤマタノオロチ!?」
松久は、予想外の強敵に飛び上がる。
そしてその足で、一目散に逃げ出した。
その後ろを、ヤマタノオロチが執拗に追い回す。
「は、早く魔法を! 死んじまう!」
そうだったそうだった。
「全てを焼き尽くせ地獄の炎よ……『不知火』!」
俺の手から、黒い火の玉が次々と飛び出す。
その後に、何本もの魔法が続く。
正確には、呪術とか精霊術とか色々混じっているが……。
大量の攻撃に晒され、ヤマタノオロチは動きを止める。
そして、こちらに首をもたげ……。
「……!?」
「に、逃げろぉ!」
こちらに全速力で迫ってきた!
「『不知火』! 『不知火』! 『不知火』ぃ!」
俺は一目散に逃げながら、魔法を乱打する。
だが、オロチの堅牢な鱗には、少しの変化もない。
「ひゃあああ!?」
三城の悲鳴。
見ると、腰を抜かした三城に、オロチの首の一つが迫っている。
あんのバカ野郎!
俺は方向転換し、素早く三城の襟首を掴むと、三城を引き摺りながら逃げる。
俺たちは、息も絶え絶えに、池から遠く離れた茂みに合流した。
「ぐ、ぐえぇぇ……」
ずっと襟を引っ張られていたせいで首が痛いようで、三城がさっきから青い顔でもたれかかっている。
普通に重いからやめてほしい。
「そういや、あいつの弱点は分かったのか?」
弱点が分かれば、今からでも巻き返せるかもしれない。
「うん……お酒だって」
日本神話じゃねえか!
「酒って、誰も持ってねえよ!」
「仕方ない、ギルドに戻って援軍を呼ぼう」
野口の提案に反対するものはいなかった。
急いで城壁をくぐり、ギルドを目指す。
意外と冒険者カードが役に立った。
「池の大蛇、頭が8つあるバケモンだったぞ! 援軍を頼む!」
「あいつの弱点は酒だ、ありったけを用意してくれ!」
ギルドにつくなり、俺たちは叫ぶ。
ギルドの対応は、とても手慣れたものだった。
料理屋にすぐに連絡が行き、酒の入った樽が用意された。
ギルドに屯していた冒険者たちも、すぐに乗り気になってくれた。
オロチは池に戻ったようで、あたりは静寂に包まれていた。
「……ほうら、お前の大好きな酒だぞ〜……」
決死の冒険者8名が、おっかなびっくり酒樽を転がしていく。
池のそばに着くと、樽を起こして蓋を開ける。
たちまち、遠く離れたここからでもわかるほどのアルコール臭。
「お、おい! 化け物が戻ってくるぞ!」
冒険者たちは、慌てて逃げ帰る。
そのすぐ後、オロチは池から顔を出した。
オロチは酒樽に気づくと、8つの頭を同時に樽に突っ込み、ぐびぐびと呑み始める。
オロチは、あっという間に酔っ払った。
動きは緩慢になり、鳴き声も心なしか眠たげになる。
オロチは頭を地面に下ろすと、たちまち眠り始める。
「今だ、殺れーっ!」
冒険者たちは、隙だらけのオロチに一斉に飛び掛かる。
たちまち、オロチのすべての首が両断された。
俺たちは、辛くも幻獣に勝利した……。
とは言えないな。うん。
「何だよ、お前ら初っ端から黒星かよ」
事の顚末を話すと、井川に笑われた。
「じゃあそっちはどうなんだよ」
「俺たち? そりゃあもう、ゴブリンだのコボルトだのをバッサバッサ……」
「雑魚敵ばっかじゃねえか!」




