12.一人前になりました
戦いが終わり、数日が過ぎた。
クラスのうちの数人、具体的には俺と井川、千曲、泊、松久、そして芹沢誠という奴の6人が、ギルドからの呼び出しを受けた。
特に何か問題は起こしていないはずだが……?
不安に心を覆われたままギルドに向かい、集合場所の第3ホールに入った。
ホールには、すでに7、8名ほどの冒険者が集まっていた。
皆若く、俺たちと同じような駆け出しの雰囲気を漂わせている。
冒険者たちのざわざわとした喧騒が、ドアの開かれる音によって鎮められる。
防衛隊長、ハンドン。
その後ろには、何やら上品な箱を持ち運ぶ秘書がついていく。
ハンドンは壇上に上がると、高らかに宣言した。
「これより、先の戦での名誉賞授与、並びに冒険者認証式を行います」
名誉賞? 認証? よく分からないが、何だか誇らしいものには間違いなさそうだ。
一人一人の名前が呼ばれ、それぞれが壇上に上がっていく。
そして、ハンドンにより賞状が読み上げられる。
受賞の理由は、一人一人異なっていた。
泊は、魔術師としての武勇により。
千曲は、回復魔法による人命救助の功により。
芹沢は、衛士としての防衛の功により。
松久は、この戦いで唯一、オーガを単騎で討伐した武功により。
井川は、特殊作戦への援助により。
そして俺は、特殊作戦の立案、および実施による戦勝への貢献により。
冒険者たちから、あいつがという意味の驚きが上がる。
たぶん、尊敬というよりは、こんな奴が本当に? 信じられない! という驚きだろうが。
そして、賞状とともに、箱から取り出された、ギルドの紋章が刻まれたトロフィーを受けとる。
全員が名誉賞を受けとり、下へ戻ると。
「では続いて、冒険者認証へと移ります。
えー……。私、アルト防衛隊長ハンドンの名において、貴殿らが立派な1人の冒険者であり、この町の誇れる存在であることを認証する」
ハンドンがそう宣言した。
「……つまりどういうことなんだ?」
井川の意見に同感だ。
俺たちって今まで冒険者じゃなかったの? とか、認証されたらどうなんの? とか。
そんな空気を察したのか、秘書が説明を始める。
まず、カウンターで登録された段階では、仮冒険者という扱いらしい。
仮冒険者の状態では、受けられるクエストに難易度制限がある。
これは、無謀な人が無茶なクエストに挑んで、無用な犠牲を生むのを避けるためだ。
俺たちは、こうして実力が認められ、一人前の冒険者になったというわけだ。
では、一人前になると何が変わるのか。
まず、どんなクエストでも受けられるようになり、色々な店での冒険者割引も受けられる。
また税の優遇や、町の入り口での検問が不要になったりなどの優遇措置が設けられている。
もちろん、いいことだけではない。
一番大きい負担は王都防衛軍、つまりは軍隊への徴兵。
20歳になったら、この義務を果たさねばならないそうだ。
しかし、一人前という響きは、何だかひと足先に大人になったみたいで、なかなかいい。
「いやあ、俺たち大人になったんだな!」
「宗吾、はしゃぎすぎだぜ。……でも、やっぱり嬉しいよな!」
「まあ、そうだよな。神埼もそう思うだろう?」
「そうだな」
「私たちえらいねー」
皆での話にも花が咲く。
ホールを出ようとすると、壇上から目にも止まらぬ速さで秘書がやってきた。
そして、ポケットから何やら取り出すと、一人一人に配っていく。
それは、白銀色の装飾が散りばめられた、しゃれた木製のカードであった。
魔術師 カンザキ・シグレ
一般冒険者
そう記された横には、いつの間に作ったのか知らないが、俺のそれっぽい肖像画が描かれていた。
また、裏を見ると、ギルドの紋章とともに、アルトの文字。
身分証明書みたいなものだろうか。
「聞いたぜ! お前らすげえじゃねえか!」
宿に入った瞬間、クラスメイトたちに囲まれた。
「い、いやあ……、そんなことないよ」
さすがの井川も、あまりに熱烈な皆にちょっとびっくりしている。
俺たちはその後、皆に根掘り葉掘り聞かれ、あることないこと勝手な解釈をされ、英雄が表れたというなんとも言えない結論に落ちついたのだった。
「はーい、みんな井川くんたちを離してあげて。
実は、一つ提案があるんだけど」
日比野は注目を集めると、説明を始める。
このクラスにも、こうして一般冒険者が誕生した。
すると、パーティー結成ができるようになるらしい。
クラス全体で何となく行動するよりも、クラスを分け、それぞれで統制の取れた状態にすることで、より社会に貢献できると、日比野は言った。
「もちろん、パーティーを分けたからといって、会えなくなるわけじゃない。あくまで、冒険者としてのチームを作る。そういうことなら、みんな賛成してくれるかな?」
「いいんじゃない? 班活動みたいで面白そうだし」
平城山美里が、真っ先に賛成の意を示す。
皆も同意した。
……その後、パーティーが決まる頃には、すっかり日が暮れていた。
俺たちが帰ってきたの、昼だが。
思いのほか皆の主張が激しく、擦り合わせるのに時間がかかった。
職業を均等に分けるべきだという至極真っ当な意見から、あいつと同じにしてくれ、この人と一緒は嫌だという。自己中満載の主張まで。
日比野がそれ全部を真摯に聞いて回るもんだから、まあ時間のかかることかかること。
「じゃあ、各パーティーで顔合わせの時間にしてね。終わったら解散でいいよー」
日比野は言い終わると、こちらに近づいてきた。
どうやら、同じパーティーになったらしい。
え? 何で知らなかったのかって?
俺が議論に参加できるわけないじゃないか。
「じゃあ、みんな知ってると思うけど、私は日比野美月。職業は賢者だよ。情報の能力で役に立てたらって思うから、よろしくね」
日比野が率先して自己紹介し、頭を下げる。
その後、何人かが続いた。
しかし、メンバーを見ると笑えてくる。
土岐枝・湯梨浜・千曲の3人組や、野口・若山のオタクコンビがすっぽりと収まっている。
俺も、三城と清水によってこっちへ引き摺り込まれたらしい。
高校生の人間関係に配慮しつつ、戦力的にも職業の偏りが少ない。
このパーティー編成に至った日比野は、そうとう頑張ったのだろう。
「じゃあ次、お願いできるかな」
自己紹介も過半数が終え、残すところあと2人。
俺以外のもう1人が、口を開く。
「あのっ、牛田千代……っていいます。お願いします……」
眼鏡を掛けたぼさぼさ髪。
まあ、いかにもいじめられてそうな奴だ。
ちなみに、職業は呪術師。
これまた偏見を浴びそうな職業だ。
「あぁ? 聞こえなかったぞ!」
泊が絡み出す。
なんか前もこんなことあった気がする。
前回は止めた清水だったが、もう沢山とばかりに傍観している。
まあ、俺は両方関わらないが。
「ちょっと泊くん、やめてあげて」
見かねた日比野が注意する。
「へいへーい」
お前さっきまで大人になっただの言ってた気がするが……。
「じゃ、最後は神埼くん、お願い」
「あっはい、神埼時雨、魔術師です。よろしく」
「よろしくぅ!」
俺に対する反応は、良くも悪くも薄い。
三城のノリがいいだけだ。
「じゃあ、これからこのパーティーで頑張っていこうね。それじゃ、解散!」
俺たちは、各自の部屋へと戻り、眠りにつく。
俺たちの大きな転換点となった1日は、終わった。




