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戦国アウトロー  作者: 石蒜
第2章「尾張の狼煙」
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73/80

第73話「第二次小豆坂の戦い・開戦」

小豆坂地区、旧運動広場。

かつて地域の運動施設として使われていた広場には、今も白線の跡が残っていた。

周囲を囲む金網は所々錆びつき、隅には使われなくなったベンチが並んでいる。

その中央に、今川学園の生徒たちが立っていた。

遠藤道流。

佐藤健。

岡島秀太。

朝比奈優吾。

中本泰史。

工藤春樹。

三浦直哉。

そして、その後方には今川学園の上級生たちが控えていた。

「……来ると思いますか?」

中本が尋ねた。

佐藤は腕時計を確認した。

「来るでしょう」

「全員?」

「少なくとも、秋山天馬と東条雅人は来ると思います」

岡島が笑った。

「城戸も来るだろ。あいつが黙って引き下がるとは思えねえ」

朝比奈が頷く。

「北陵会の連中は、仲間を守ることに関しては頑固だからな」

遠藤は黙って広場の入口を見つめていた。

その時、佐藤のスマートフォンに連絡が入った。

「……来ました」

佐藤が顔を上げる。

広場へ続く坂道に、数人の男子生徒が姿を見せた。

先頭を歩くのは、秋山天馬だった。

その隣には大地夢斗。

少し後ろには竜胆椿、佐久間海斗、桐生拓真が続いている。

「……あれが秋山か」

遠藤が静かに呟いた。

佐藤が頷いた。

「はい」

岡島が笑った。

「久しぶりだな、秋山!」

天馬が顔を上げた。

「……岡島か」

「ちゃんと来たじゃねえか」

「呼んだのはお前らだろ」

天馬は広場の中央へ歩いていった。

夢斗が小さく声をかける。

「……天馬、思ったより人数いるぞ」

「分かってる」

椿は周囲を見渡した。

「……不用意に近づきすぎるな」

海斗が眉を寄せる。

「何だよ、最初から喧嘩する気か?」

桐生が静かに答えた。

「まだ分からねえ。だから警戒するんだ」

五人は今川学園の生徒たちから少し離れた場所で足を止めた。

遠藤が一歩前へ出た。

「……秋山天馬だな」

天馬は頷いた。

「ああ」

「俺が遠藤道流だ」

「……今川学園の頭か」

「そうだ」

遠藤は天馬を見つめた。

「大沢たちの件は聞いている」

天馬の表情が変わった。

「……そうか」

「あいつらが勝手に喧嘩を売ったことについては、俺からも謝る」

遠藤は静かに頭を下げた。

海斗が驚いた。

「……え?」

夢斗も少し目を見開いた。

天馬は遠藤を見つめたまま答えた。

「……分かった」

遠藤は顔を上げた。

「ただし、今日の話は別だ」

「……ああ」

天馬も頷いた。

「それも分かってる」

二人の視線が交わった。

その間に、岡島が口を挟むことはなかった。

しばらくして、別の入口から東尾張連合が現れた。

東条雅人を先頭に、神谷亮介、相馬恭介、久我山慎吾が続く。

「……東条」

天馬が顔を向けた。

東条は小さく笑った。

「久しぶりだな、秋山」

「お前らも来たのか」

「当然だ」

東条は今川学園の生徒たちへ視線を向けた。

岡島が片手を上げる。

「よう、東条」

「……岡島」

東条は短く答えた。

神谷が佐藤を見た。

「……今日は、正式な話し合いだと聞いている」

佐藤が頷いた。

「その通りです」

「なら、まずは話を聞こう」

神谷は静かに言った。

相馬が天馬を見た。

「……秋山、お前も来てたんだな」

「ああ」

天馬が答えた。

「そっちは元気そうだな」

相馬は少し笑った。

「おかげさまでな」

久我山は岡島から視線を外さなかった。

以前、東尾張工業で顔を合わせた時から、岡島の実力には警戒していた。

岡島もその視線に気づいたが、何も言わなかった。

東条たちは天馬たちの隣ではなく、少し離れた場所に立った。

互いに顔見知りではある。

しかし、同じ組織ではない。

それぞれの立場を守ったまま、今川学園と向き合っていた。

続いて、北陵会の生徒たちが姿を見せた。

城戸圭吾。

片瀬翔。

水原廉。

宮坂亮。

「……城戸も来たか」

東条が呟いた。

城戸は東条を見た。

「……お前もな」

「当たり前だろ」

東条は笑った。

城戸は天馬にも視線を向けた。

「……秋山」

「久しぶりだな」

天馬が答えた。

その時、朝比奈が一歩前へ出た。

「城戸」

城戸が顔を向ける。

「……朝比奈」

「また会ったな」

「ああ」

城戸は静かに答えた。

「今日は、お前らの頭に話を聞きに来た」

朝比奈が頷いた。

「それでいい」

片瀬が岡島を見た。

「……あいつが東尾張に来てた奴か」

相馬が答えた。

「ああ。岡島秀太だ」

水原が小さく息をついた。

「……強そうだな」

久我山が頷いた。

「実際、かなりやると思う」

城戸は仲間たちへ視線を向けた。

「……余計なことはするなよ」

片瀬が苦笑した。

「分かってるって」

北陵会もまた、独立した位置に立った。

最後に、南尾張の生徒たちが到着した。

高瀬宗介。

藤崎蓮。

石原和樹。

南浜高校の村井健太。

港南工業高校の柴田亮。

そして、少し遅れて南丘商業高校の長谷川拓也も姿を見せた。

「……長谷川?」

藤崎が驚いた。

「来ないかもしれないって聞いてたけど」

長谷川は頷いた。

「学校で話し合った結果、俺だけ参加することになりました」

高瀬が笑った。

「……ありがとう」

長谷川は首を振った。

「まだ今川学園との交流を否定したわけじゃありません」

「分かってる」

高瀬は答えた。

「今日は、自分の目で確かめてくれ」

柴田が腕を組んだ。

「……俺は最初から信用してねえけどな」

石原が苦笑した。

「お前、少しは落ち着けよ」

南尾張の一行も広場へ入った。

遠藤は全員を見渡した。

「……揃ったようだな」

佐藤が頷いた。

「はい」

広場には、尾張の四つの勢力が集まっていた。

尾張中央高校。

東尾張連合。

北陵会。

南尾張の各校。

しかし、彼らは一つの連合ではなかった。

それぞれが別の判断で、この場所へ来ていた。

遠藤は静かに口を開いた。

「今日は、よく来てくれた」

誰も答えなかった。

遠藤は続けた。

「俺たち今川学園は、三河だけでなく尾張の学校とも協力関係を築きたいと考えている」

東条が腕を組んだ。

城戸は黙って聞いていた。

高瀬も遠藤から視線を外さなかった。

天馬は一歩前へ出た。

「……それで?」

遠藤は佐藤へ目を向けた。

佐藤が資料を取り出した。

「具体的な提案を説明します」

佐藤は広場の中央に置かれた机へ資料を並べた。

「今川学園が提案するのは、三河と尾張の学校間協議体です」

神谷が尋ねた。

「……協議体?」

「はい。各校の代表者が定期的に集まり、学校間の問題を話し合う仕組みです」

宮坂が頷いた。

「それだけなら、悪くない話ですね」

佐藤は続けた。

「ただし、争いが起きた場合の最終的な仲裁権は、今川学園が持つことになります」

その言葉に、空気が変わった。

東条が顔を上げた。

「……待て」

佐藤が視線を向ける。

「何でしょう?」

「それじゃ、結局お前らの言うことを聞くしかなくなるだろ」

佐藤は頷いた。

「そう受け取られても仕方ありません」

城戸が口を開いた。

「……俺たちは、今川学園の下につくために来たわけじゃない」

遠藤が頷いた。

「分かっている」

高瀬が尋ねた。

「なら、なぜ今川学園だけが最終的な判断を下すんだ?」

佐藤は答えた。

「判断する組織が複数あれば、意見が割れた時に争いが終わらないからです」

長谷川が口を開いた。

「……でも、それなら今川学園が間違った判断をした場合は?」

佐藤は少し黙った。

遠藤が答えた。

「その時は、俺が責任を取る」

柴田が眉を寄せた。

「……責任を取るって、どうやってだよ」

遠藤は柴田を見た。

「俺が間違っていると思うなら、正面から異議を唱えればいい」

「それで変わるのか?」

「俺を納得させられるならな」

柴田は不満そうに口を閉じた。

その時、天馬が口を開いた。

「……遠藤」

遠藤が視線を向ける。

「何だ?」

「お前の考えは分かった」

天馬は続けた。

「でも、俺は賛成できねえ」

夢斗が天馬を見た。

椿は黙って聞いていた。

天馬は遠藤を見つめた。

「誰か一人が全部決めるようになったら、結局そいつの都合で物事が動くだろ」

遠藤は静かに答えた。

「だからこそ、俺は公平であろうとしている」

「お前が公平かどうかなんて、俺たちには分からねえよ」

天馬は続けた。

「それに、間違った時に責任を取るって言われても、傷ついた奴が元に戻るわけじゃねえ」

遠藤の表情がわずかに変わった。

天馬は一歩も退かなかった。

「俺たちは、自分たちのことを自分たちで決める」

東条が頷いた。

「……俺も同じ意見だ」

城戸も口を開いた。

「北陵会も、今川学園の判断に従うつもりはない」

高瀬は静かに続けた。

「南尾張の学校同士でさえ、全員が同じ考えじゃない。今川学園に一任するなんて、俺には決められない」

遠藤は四人を見渡した。

「……そうか」

佐藤が資料を閉じた。

「では、提案は拒否ということでよろしいですね」

天馬が答えた。

「ああ」

東条も頷いた。

城戸は腕を組んだまま動かなかった。

高瀬は長谷川たちの方を一度見てから、静かに答えた。

「少なくとも、俺は受け入れられない」

長谷川はその言葉を聞き、何も言わなかった。

南丘商業の判断まで、高瀬が代わりに決めたわけではない。

遠藤はゆっくりと立ち上がった。

「……ならば、次の話だ」

広場の空気が張り詰めた。

遠藤は尾張の生徒たちを見渡した。

「俺たちの考えが相容れない以上、力で決着をつけるしかない」

海斗が拳を握った。

片瀬も一歩前へ出ようとした。

しかし、城戸が手で制した。

遠藤は続けた。

「ここで戦う意思のある者だけが残れ。望まない者を巻き込むつもりはない」

佐藤が口を開いた。

「なお、参加しない学校への報復は認めません。今回の争いは、あくまでこの場で意思を示した者同士のものです」

長谷川が高瀬を見た。

「……高瀬さん」

高瀬は頷いた。

「無理に残らなくていい」

村井も長谷川を見た。

「俺たちは残ります。でも、南丘商業まで巻き込むつもりはありません」

長谷川はしばらく考えた。

そして、静かに答えた。

「……俺も残ります」

柴田が驚いた。

「お前、本気か?」

「ああ」

長谷川は遠藤を見た。

「今川学園との交流を考えることと、言うことを聞かされることは違うからな」

柴田は少し笑った。

「……そうかよ」

遠藤は全員を見渡した。

「……覚悟は決まったようだな」

天馬が一歩前へ出た。

「俺は、最初から決めてる」

東条も並ぶように前へ出た。

「東尾張連合は、今川学園には従わない」

城戸が静かに言った。

「北陵会も同じだ」

高瀬が頷いた。

「南尾張も、ここにいる俺たちは自分たちの意思で戦う」

遠藤は小さく笑った。

「……いいだろう」

その瞬間、岡島が一歩前へ出た。

「遠藤さん」

「何だ?」

「最初は俺が行きます」

遠藤は岡島を見た。

「……任せる」

岡島は笑った。

「ありがとうございます」

岡島は広場の中央へ歩いていった。

その視線の先には、東条雅人がいた。

「……東条」

東条が顔を上げた。

「何だ?」

岡島は拳を握った。

「前に会った時から、一度やってみたかったんだよ」

東条は静かに笑った。

「……奇遇だな」

神谷が東条を見た。

「……行くのか?」

東条は頷いた。

「ああ」

相馬が一歩前へ出ようとした。

しかし、東条が手で制した。

「……これは俺が行く」

久我山が頷いた。

「分かった」

東条は広場の中央へ歩き出した。

岡島と東条。

三河の今川学園と、東尾張連合。

二人の男が、互いの間合いへと近づいていく。

遠藤は黙って見つめていた。

天馬も拳を握った。

(……始まる)

小豆坂。

かつて織田と今川が争った地で、現代の若者たちによる新たな戦いが幕を開けようとしていた。

第73話 完

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