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戦国アウトロー  作者: 石蒜
第2章「尾張の狼煙」
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第71話「小豆坂への集結」

三河・今川学園。

放課後の生徒会議室には、重苦しい空気が漂っていた。

長机の上には、数枚の報告書が並べられている。

その一枚には、尾張中央高校付近で発生した喧嘩について詳しく記されていた。

「……大沢拓海が負けたそうですね」

佐藤健が静かに口を開いた。

向かいに座る岡島秀太が腕を組む。

「秋山天馬と大地夢斗、二人が相手だったんだろ?」

「はい。大沢たちは四人です」

「四人で二人に負けたのか」

岡島は呆れたように息を吐いた。

「しかも、勝手に喧嘩を売ったんだろ。何やってんだか」

隣にいた朝比奈優吾も表情を険しくした。

「大沢は以前から、尾張の連中を力で従わせようとしていた」

「知っていたんですか?」

佐藤が尋ねる。

「考え方はな。だが、実際に動くとは思わなかった」

朝比奈は答えた。

「俺の見通しが甘かった」

「責任を押しつけるつもりはありません」

佐藤は報告書を閉じた。

「ただ、これで尾張中央高校との関係も悪化しました」

その時、会議室の扉が開いた。

「全員、揃っているな」

入ってきたのは、今川学園三年の遠藤道流だった。

岡島と朝比奈が姿勢を正す。

遠藤は長机の奥に座り、佐藤へ視線を向けた。

「報告を聞こう」

「はい」

佐藤は立ち上がった。

「尾張中央高校との衝突は、大沢たちの独断です。秋山天馬と大地夢斗が勝利し、大沢たちは撤退しました」

遠藤は黙って聞いていた。

「また、東尾張連合と北陵会は今川学園への警戒を強めています。南尾張では、高瀬宗介を中心に学校間の協力体制が作られました」

「なるほど」

遠藤は指を組んだ。

「つまり、尾張の連中は以前より結びつきを強めているわけだ」

「その通りです」

佐藤は頷いた。

「こちらの接触が、結果的に相手の結束を促しています」

岡島が口を開いた。

「遠藤さん。もう、遠回しなやり方は通用しねえと思います」

遠藤が視線を向ける。

「どういう意味だ?」

「東条も城戸も高瀬も、自分たちの仲間を簡単には手放さねえ。秋山に至っては、今川の名前を出されても引かなかった」

岡島は続けた。

「だったら、こっちも本気を見せるべきです」

朝比奈が眉を寄せる。

「力で従わせるのか?」

「そうは言ってねえよ」

岡島は朝比奈を見た。

「でも、俺たちがどれだけ本気なのか、向こうには伝わってねえだろ」

遠藤は二人の言葉を聞いたあと、佐藤へ向き直った。

「健。お前はどう考える?」

佐藤は少し間を置いた。

「……今川学園が尾張へ進出する方針は、変えるべきではありません」

岡島が顔を上げた。

「ただし、これ以上の無秩序な接触は逆効果です」

佐藤は机に一枚の地図を広げた。

そこには、三河と尾張の境界付近が描かれていた。

「今後は、交渉する相手と場所を明確にするべきです」

佐藤の指が、地図の一点で止まった。

「……小豆坂です」

「小豆坂?」

岡島が地図を覗き込んだ。

佐藤は頷いた。

「三河と尾張を結ぶ街道に近い地区です。現在は複数の学校の生徒が利用する場所でもあります」

朝比奈が尋ねた。

「そこで何をする?」

「尾張の主要勢力を招きます」

佐藤は答えた。

「東尾張連合、北陵会、南尾張の各校。そして尾張中央高校の秋山たちです」

岡島が笑った。

「全員まとめて呼ぶのか?」

「ええ。ただし、一つの組織としてではありません」

佐藤は続けた。

「それぞれ別の代表者として招きます。尾張には、まだ統一された指導者がいませんから」

朝比奈は地図を見つめた。

「……相手が来なかったら?」

「それも一つの回答です」

佐藤は静かに答えた。

「ですが、今川学園が今後どのように尾張と関わるのか、正式に伝える機会にはなります」

遠藤が尋ねた。

「その場で何を要求する?」

「三河と尾張の学校間に、今川学園主導の協議体を設けることです」

岡島が眉を上げた。

「随分、穏やかな名前だな」

「名前だけではありません」

佐藤は続けた。

「学校間の争いが起きた場合、今川学園が仲裁に入る。各校は定期的に代表者を送り、情報を共有する」

朝比奈が腕を組んだ。

「それなら、悪い話じゃない」

「ただし、問題があります」

佐藤は遠藤を見た。

「仲裁役を今川学園が独占すれば、尾張の各校は事実上、こちらの判断に従うことになります」

岡島が口を挟んだ。

「それが狙いだろ?」

佐藤は否定しなかった。

「そうです。だからこそ、相手は簡単には受け入れません」

遠藤はしばらく黙っていた。

やがて、地図から顔を上げた。

「健」

「はい」

「俺たちが尾張に進む理由を、忘れていないな?」

佐藤は頷いた。

「三河だけでは、これ以上の勢力拡大に限界があるからです」

「それだけじゃない」

遠藤は静かに言った。

「学校ごとに争い続ける状況を変えたい。力のある連中が、それぞれ勝手に動けば、いつまでも抗争は終わらない」

岡島が口を閉じた。

遠藤は続けた。

「だが、俺たちの考えを受け入れない相手もいる。それは分かっている」

「……はい」

「だから、一度だけ選ばせる」

遠藤は地図の小豆坂を指さした。

「今川学園と協力するのか。それとも、自分たちのやり方を貫くのか」

朝比奈が尋ねた。

「拒否された場合は?」

遠藤は顔を上げた。

「その時は、力で決着をつける」

会議室が静まり返った。

佐藤が確認する。

「……抗争も辞さない、ということですね」

「ああ」

遠藤は答えた。

「ただし、一般の生徒を巻き込むな。学校を襲うことも認めない。俺たちと戦う意思のある連中だけが相手だ」

岡島が笑みを浮かべた。

「ようやく、俺たちの出番ってわけか」

朝比奈は岡島を見た。

「遊びじゃないぞ」

「分かってる」

岡島は真剣な表情に戻った。

「俺だって、尾張の連中を甘く見てねえよ」

会議が終わったあと。

佐藤は廊下で朝比奈に呼び止められた。

「健」

「どうしました?」

「……一つ聞いていいか」

「はい」

朝比奈は窓の外を見た。

「小豆坂に全員が来たとして、本当に話し合いで終わると思うか?」

佐藤はすぐには答えなかった。

「……難しいでしょうね」

「やっぱりか」

「東条雅人は仲間の自主性を重視しています。城戸圭吾も、他校からの指図を嫌う。高瀬宗介は学校同士の対等な関係を求めている」

佐藤は続けた。

「秋山天馬も、誰かに従うために動く人間ではないでしょう」

朝比奈が小さく笑った。

「全員、遠藤さんとは考え方が違うな」

「ええ」

「だったら、最初から戦いになると分かってるんじゃないのか?」

佐藤は朝比奈を見た。

「……だからこそ、正式な場を設けるんです」

「どういうことだ?」

「今川学園が何を望み、尾張が何を拒むのか。それを曖昧にしたまま争えば、終わりが見えなくなります」

佐藤は静かに続けた。

「戦うことになったとしても、何を懸けた戦いなのかは明確にしておきたい」

朝比奈はしばらく考えた。

「……なるほどな」

その時、佐藤のスマートフォンに通知が届いた。

大沢拓海からだった。

『佐藤、俺たちはどうなる?』

佐藤は画面を見つめた。

「……大沢たちにも、きちんと責任を取ってもらいます」

朝比奈が頷く。

「必要だな」

「小豆坂には参加させません。今回の件を曖昧にすれば、同じことが繰り返されます」

佐藤は返信を打ち始めた。

今川学園が次に進むためには、まず自分たちの行動を統制する必要があった。

翌日。

今川学園から尾張の各勢力へ、同じ内容の連絡が送られた。

『三河・今川学園代表、遠藤道流より』

『今後の三河と尾張の関係について、正式な協議の場を設けたい』

『場所は小豆坂地区の旧運動広場』

『各校の代表者による参加を求める』

そして、最後には一文が添えられていた。

『協議が決裂した場合、互いの意思を力で示すことも辞さない』

東尾張工業高校では、神谷亮介がその文章を読み、東条雅人へスマートフォンを差し出した。

北陵高校では、宮坂亮が城戸圭吾に連絡を入れた。

南翔高校では、藤崎蓮が高瀬宗介のもとへ走った。

そして尾張中央高校。

秋山天馬のスマートフォンにも、同じ知らせが届いていた。

「……小豆坂?」

天馬は画面を見つめた。

隣にいた夢斗が顔を覗き込む。

「何だ、それ?」

天馬は最後の一文を読んだ。

「……今川の頭が、俺たちを呼んでる」

夢斗の表情が変わった。

「遠藤道流が?」

「ああ」

天馬はスマートフォンを握り直した。

「しかも、ただの話し合いじゃ終わらねえかもしれない」

窓の外には、いつもと変わらない学校の風景が広がっていた。

しかし、その日を境に、尾張の各勢力は一つの場所を意識し始める。

小豆坂。

三河と尾張の未来を懸けた対立が、そこへ向かって動き出していた。

第71話 完

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