↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国アウトロー  作者: 石蒜
第2章「尾張の狼煙」
PR
66/85

第66話「北尾張の誇り」

北山高校。

放課後の校門前には、十数人の男子生徒が集まっていた。

その中心で、一人の男子生徒が地面に座り込んでいる。

北山高校二年、藤原大輝。

頬には赤い痕が残り、制服の襟元は乱れていた。

「……もう一回言ってみろよ」

藤原の前に立つ男が、低い声で問いかけた。

今川学園二年、朝比奈優吾。

以前、城戸圭吾との話し合いにも同行していた男だった。

藤原はゆっくり顔を上げた。

「……俺たちは、北陵会を裏切らねえ」

朝比奈は眉を寄せた。

「誰が裏切れなんて言った?」

「今川学園と組むなら、北陵会とは縁を切れって……」

「それを誰に言われた?」

藤原は黙った。

朝比奈は小さく息をついた。

「……だから、何度も言ってるだろ」

朝比奈は続けた。

「俺たちは、北陵会と敵対しろなんて言ってねえ」

「じゃあ、何で俺たちの学校に何度も来るんだよ!」

藤原が声を荒らげた。

朝比奈の後ろにいた三河の生徒が一歩前に出た。

「お前、朝比奈さんに向かって何だその口の利き方は!」

「やめろ」

朝比奈が制した。

しかし、その生徒は藤原の胸ぐらを掴もうとした。

藤原は反射的に腕を振り払った。

二人の身体がぶつかる。

周囲の生徒たちが一斉に身構えた。

「……おい」

朝比奈の声が低くなった。

三河の生徒が動きを止めた。

「俺は、やめろって言ったよな?」

「……すみません」

朝比奈は藤原を見た。

「立てるか?」

藤原は警戒しながら立ち上がった。

「……ああ」

朝比奈は少し考えた。

「最初から話を整理しよう」

その時だった。

「……随分騒がしいじゃねえか」

校門の向こうから声が聞こえた。

城戸圭吾。

その後ろには、片瀬翔と宮坂亮がいた。

藤原の表情が変わった。

「城戸さん……!」

城戸は藤原の顔を見た。

「……誰にやられた?」

藤原は答えなかった。

代わりに、三河の生徒の一人が口を開いた。

「そいつが先に突っかかってきたんだよ」

城戸は男を見た。

「お前に聞いてねえ」

男が眉を寄せる。

「何だと?」

城戸は藤原へ視線を戻した。

「藤原。何があった?」

藤原は唇を噛んだ。

「……俺が、先に手を出しました」

片瀬が驚いた。

「お前が?」

「はい」

藤原は続けた。

「北陵会のことを馬鹿にされて、我慢できなくて……」

城戸は黙って聞いていた。

朝比奈が口を開いた。

「……城戸圭吾」

城戸が顔を向ける。

「朝比奈か」

「ああ。久しぶりだな」

「遠藤と一緒に来た時以来か」

「そうだな」

二人は互いを見つめた。

朝比奈は続けた。

「今回の件、俺たちにも落ち度はある」

城戸は眉を上げた。

「……へえ」

「こっちの生徒が余計なことを言ったらしい」

朝比奈は後ろの男を見た。

「お前、北陵会と縁を切れって言ったのか?」

男は視線を逸らした。

「……別に、そんなつもりじゃ」

「言ったのかって聞いてる」

「……言いました」

朝比奈は小さく息をついた。

「何で勝手なことを言う?」

「今川学園と付き合うなら、北陵会との関係は邪魔だと思って……」

「それを決めるのは、お前じゃない」

朝比奈の声には、はっきりとした怒りがあった。

城戸は黙ってその様子を見ていた。

朝比奈は藤原へ向き直った。

「……悪かった」

藤原が驚いた。

「え?」

「こっちの生徒が余計なことを言った。それは謝る」

藤原は少し戸惑った。

「……ああ」

朝比奈は続けた。

「ただ、お前が先に殴りかかったことも事実だろ?」

藤原は俯いた。

「……はい」

城戸が口を開いた。

「藤原」

「はい」

「俺たちの名前を出されて腹が立ったのは分かる」

城戸は続けた。

「でも、俺たちのために無茶して怪我する必要はねえ」

藤原は唇を噛んだ。

「……すみません」

「謝る相手は俺じゃねえだろ」

藤原は朝比奈を見た。

「……先に手を出して、悪かった」

朝比奈は頷いた。

「分かった」

一瞬、場の緊張が和らいだ。

しかし、片瀬だけは納得していなかった。

「……なあ、朝比奈」

朝比奈が顔を向ける。

「何だ?」

「お前ら、最近北尾張に来すぎじゃねえか?」

「それがどうした?」

「俺たちの縄張りだって分かってんのか?」

城戸が眉を寄せた。

「片瀬」

しかし、片瀬は続けた。

「東尾張でも南尾張でも同じことしてるらしいじゃねえか。何が目的なんだよ」

朝比奈は片瀬を見つめた。

「……俺たちは、協力できる学校を探してるだけだ」

「だったら三河でやってろよ」

その言葉に、三河の生徒たちが一斉に反応した。

「お前、今川学園を馬鹿にしてんのか?」

片瀬が一歩前に出る。

「事実を言ってるだけだろ」

城戸が片瀬の肩を掴んだ。

「……下がれ」

「でも、城戸さん!」

「俺が話してる」

片瀬は悔しそうに後ろへ下がった。

朝比奈は城戸を見た。

「……お前も大変だな」

城戸は鼻で笑った。

「お互い様だろ」

朝比奈は小さく笑った。

「違いない」

北山高校の裏手。

騒ぎが収まったあと、城戸と朝比奈は少し離れた場所で向かい合っていた。

片瀬と宮坂は、藤原たちの様子を確認している。

「……遠藤は何を考えてる?」

城戸が尋ねた。

朝比奈は答えた。

「尾張と三河が協力できる関係を作りたい。それは変わらない」

「本当にそれだけか?」

「少なくとも、俺が聞いてる方針はそうだ」

城戸は腕を組んだ。

「……俺は、お前らを信用してねえ」

朝比奈は頷いた。

「だろうな」

「それでも、北尾張の学校に来るのか?」

「ああ」

朝比奈は迷わず答えた。

「学校同士が交流することまで、お前に止める権利はないだろ?」

城戸は黙った。

朝比奈は続けた。

「北陵会を頼る奴がいるように、今川学園と付き合いたい奴だっているかもしれない」

「……それは否定しねえ」

「なら、俺たちを追い返す理由もない」

城戸は朝比奈を見つめた。

「ただし、無理やり従わせるなら話は別だ」

「分かってる」

朝比奈は答えた。

「今回みたいなことは、俺からも注意しておく」

城戸は少し考えた。

「……朝比奈」

「何だ?」

「お前、結構強いだろ」

朝比奈はわずかに笑った。

「どうだろうな」

「とぼけんなよ」

城戸は続けた。

「遠藤と一緒に来た時から思ってた。お前、普通の奴とは雰囲気が違う」

朝比奈は城戸を見つめた。

「……お前もな」

二人の間に、短い沈黙が流れた。

その時、朝比奈の意識の奥に、一人の武将が姿を現した。

朝比奈泰朝。

今川家に仕えた武将の魂だった。

『優吾。あの男、なかなかの器量を持っておる』

朝比奈は心の中で答えた。

(……城戸圭吾か)

『うむ。力だけで人を従わせる男ではなさそうじゃ』

(俺もそう思う)

『だが、油断するでないぞ』

(分かってる)

朝比奈は静かに息をついた。

城戸が眉を寄せた。

「……どうした?」

「いや、何でもない」

朝比奈は答えた。

「ただ、いつかお前とは本気で戦うことになるかもしれないと思ってな」

城戸は笑った。

「……奇遇だな」

「何?」

「俺も同じこと考えてた」

朝比奈は少しだけ笑みを浮かべた。

「そうか」

城戸は拳を握った。

「その時は、遠慮しねえぞ」

「ああ」

朝比奈も頷いた。

「俺もだ」

夕方。

北陵高校。

城戸たちが戻ると、水原廉が校舎裏で待っていた。

「城戸さん!」

「どうした?」

「北山の件、聞きました」

城戸は頷いた。

「もう片づいた」

水原は不満そうだった。

「俺も行きたかったっすよ」

片瀬が笑った。

「お前が来たら絶対喧嘩になってたぞ」

「お前に言われたくねえよ!」

宮坂が苦笑した。

「二人とも、少しは落ち着いてくださいよ」

城戸は三人を見渡した。

「……お前ら」

「はい?」

「今川学園の連中、思ってたより厄介かもしれねえ」

水原が眉を寄せた。

「そんなに強そうだったんですか?」

「ああ」

城戸は答えた。

「特に朝比奈って奴だ」

片瀬が腕を組んだ。

「俺もそう思いました」

「……ただ強いだけじゃねえ」

城戸は続けた。

「自分の仲間が間違ったことをしたら、ちゃんと止められる」

宮坂が頷いた。

「確かに、そこは意外でした」

「だからこそ厄介なんだよ」

城戸は静かに言った。

「相手がただの馬鹿なら、喧嘩して終わりで済む。でも、あいつらは違う」

水原が尋ねる。

「じゃあ、どうするんですか?」

城戸は少し考えた。

「……北陵会を強くする」

片瀬が顔を上げた。

「強く?」

「ああ」

城戸は続けた。

「今川学園がどれだけ大きな勢力でも、俺たちが簡単に負けるわけにはいかねえ」

宮坂が頷いた。

「分かりました」

「ただし、無理やり仲間を増やすなよ」

城戸は三人を見た。

「本当に俺たちと一緒に戦いたい奴だけでいい」

片瀬が笑った。

「……了解っす」

水原も頷いた。

「俺も、もっと強くなります」

城戸は少しだけ笑った。

「期待してるぞ」

夕暮れの空の下。

北陵会の四人は、それぞれの決意を胸に立っていた。

一方、北尾張を離れた朝比奈は、駅へ向かう道を歩いていた。

(……城戸圭吾)

『気になる男か』

意識の奥で、朝比奈泰朝が問いかけた。

(ああ)

朝比奈は答えた。

(あいつとは、いずれ戦うことになる気がする)

『ならば、備えておくことじゃ』

(分かってる)

朝比奈は空を見上げた。

(……遠藤さんの考えが、尾張にどう受け取られるか)

『それは、これから分かることじゃ』

朝比奈は静かに頷いた。

北尾張の誇り。

三河の野心。

二つの思いは、まだ正面からぶつかってはいなかった。

しかし、その距離は確実に縮まり始めていた。

第66話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。