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戦国アウトロー  作者: 石蒜
第2章「尾張の狼煙」
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62/80

第62話「胸騒ぎ」

尾張中央高校。

午前十時過ぎ。

二年生の教室では、数学の授業が行われていた。

「秋山。この問題、解いてみろ」

教師の声に、秋山天馬は顔を上げた。

「……え?」

「え、じゃない。黒板の問題だ」

天馬は黒板を見た。

そこには、見慣れない数字と記号が並んでいた。

「先生」

「何だ?」

「これ、何語ですか?」

教室に笑いが広がった。

「数学だ!」

「ですよね」

「分かってるなら解いてみろ!」

天馬は困った顔で立ち上がった。

隣の席では、大地夢斗が必死に笑いをこらえている。

「おい、夢斗」

「何だよ」

「助けろ」

「無理」

「友達だろ!」

「数学の問題くらい自分で解け」

天馬は諦めたように黒板へ向かった。

結局、問題は解けなかった。

席に戻ると、夢斗が小声で話しかけてきた。

「お前、昨日も夜更かししただろ」

「してねえよ」

「じゃあ何でそんな眠そうなんだ?」

「……変な夢見た」

夢斗の表情が少し変わった。

「夢?」

「ああ」

「どんな?」

天馬は少し考えた。

「城みたいな場所にいた」

「城?」

「昔の日本の城っていうか……」

夢斗は首を傾げた。

「時代劇でも見たんじゃねえの?」

「最近見てねえよ」

「ゲームとかは?」

「それも違う」

天馬は窓の外へ視線を向けた。

昨夜、眠りについたあと。

自分は見知らぬ場所に立っていた。

広い庭。

木造の建物。

そして、遠くから聞こえてくる人々の声。

誰かが自分を呼んでいた気がする。

しかし、その名前だけが思い出せなかった。

「……何か、妙にリアルだったんだよな」

夢斗が小さく笑った。

「夢なんてそんなもんだろ」

「そうか?」

「ああ。気にしすぎじゃね?」

天馬は少し考えた。

「……まあ、そうだよな」

そう答えながらも、胸の奥に残る違和感は消えなかった。

昼休み。

別の教室では、竜胆椿が窓際の席で本を読んでいた。

歴史に関する資料集だった。

机の上には、戦国時代の城や武将について書かれたページが開かれている。

「……珍しいな」

同じクラスの男子生徒が声をかけた。

「お前、歴史なんか好きだったっけ?」

椿は顔を上げた。

「別に嫌いじゃない」

「へえ。何調べてんの?」

「ちょっと気になることがあってな」

男子生徒は資料集を覗き込んだ。

「戦国時代?」

「ああ」

「織田信長とか?」

その名前を聞いた瞬間、椿はわずかに動きを止めた。

「……織田信長?」

「そうそう。戦国時代なら有名だろ」

「知ってる」

椿は答えた。

しかし、なぜか胸の奥が落ち着かなかった。

織田信長。

その名前を聞いたことは何度もある。

授業でも習った。

歴史上の人物として、特別珍しい存在ではない。

それなのに。

今、名前を聞いた瞬間、妙な感覚が走った。

懐かしいような。

それでいて、何かを忘れているような。

「……椿?」

「ん?」

「どうした?」

「いや、何でもない」

男子生徒は笑った。

「お前も変なところあるよな」

「そうか?」

「ああ。急に歴史調べ始めるし」

椿は小さく笑った。

「……そうかもしれないな」

男子生徒が去ったあと、椿は再び資料集へ目を落とした。

そこには、織田信長に仕えた武将たちの名前が並んでいた。

その中の一人。

明智光秀。

椿の視線が、自然とその名前に止まった。

「……明智光秀」

小さく呟いた。

なぜだろう。

その名前だけが、妙に気になった。

放課後。

尾張中央高校の屋上。

天馬は夢斗と並んで、フェンス越しに校庭を眺めていた。

「なあ、夢斗」

「何だ?」

「お前って、変な夢見ることある?」

夢斗は少し考えた。

「そりゃあるだろ」

「例えば?」

「昨日なんか、知らねえ場所で迷子になってたぞ」

「何だそれ」

「俺が聞きてえよ」

二人は笑った。

夢斗は続けた。

「でも、最近ちょっと変な感じはするな」

天馬が顔を向けた。

「お前も?」

「ああ」

「どんな?」

夢斗は少し考えた。

「……何か、知らないはずのことを知ってるような気がする時がある」

天馬は黙った。

「例えば?」

「この前、桐生さんと昔の戦の話になったんだけどさ」

「うん」

「何となく、こう動けば勝てるんじゃねえかって思ったんだよ」

「ゲームの話?」

「いや、歴史の話」

夢斗は苦笑した。

「俺、そんなに歴史詳しくねえのにな」

天馬は少し考えた。

「……不思議だな」

「だろ?」

夢斗は笑った。

「まあ、気のせいだと思うけど」

その時、屋上の扉が開いた。

「お前ら、こんなところにいたのか」

桐生拓真だった。

天馬が振り返る。

「桐生さん!」

「探したぞ」

「どうしたんですか?」

桐生は二人の前まで歩いてきた。

「椿から連絡があってな」

夢斗が尋ねる。

「椿から?」

「ああ。放課後、少し話したいことがあるらしい」

天馬は首を傾げた。

「また三河の話ですかね?」

「さあな」

桐生は答えた。

「ただ、いつもより真剣な様子だった」

天馬と夢斗は顔を見合わせた。

放課後の公園

昨日と同じベンチには、椿と海斗が座っていた。

「遅いっすよ!」

海斗が手を振った。

天馬は笑った。

「悪い悪い」

「昨日も同じこと言ってましたよね?」

「細かいこと気にすんなって」

夢斗が苦笑した。

「お前が遅いのは事実だろ」

五人が揃うと、椿が口を開いた。

「……少し聞きたいことがある」

天馬が顔を向ける。

「何だ?」

「最近、変な夢を見たりしないか?」

その言葉に、天馬の表情が変わった。

夢斗も椿を見た。

「……何で?」

天馬が尋ねる。

椿は少し考えた。

「俺自身、最近妙な感覚があってな」

「妙な感覚?」

「ああ」

椿は続けた。

「知らないはずの場所を見たことがあるように感じたり、昔の出来事が頭に浮かんだりする」

天馬は黙った。

夢斗が口を開く。

「……俺も似たようなことがある」

椿が顔を向けた。

「本当か?」

「ああ」

天馬も頷いた。

「俺も、昨日変な夢見た」

海斗が目を丸くした。

「えっ、みんなそうなんすか?」

桐生が静かに尋ねる。

「海斗、お前も何かあるのか?」

「いや……」

海斗は少し考えた。

「夢っていうか、たまに知らない人の声が聞こえた気がする時はあります」

天馬が驚いた。

「声?」

「はい。でも、振り返っても誰もいないんすよ」

夢斗が眉を寄せた。

「それ、ちょっと怖くねえか?」

「俺も最初はそう思ったんすけど……」

海斗は困ったように笑った。

「別に嫌な感じはしないんですよね」

椿は黙って聞いていた。

桐生が腕を組む。

「……俺も、最近妙な夢を見た」

四人が振り返った。

「桐生さんも?」

天馬が尋ねる。

「ああ」

桐生は頷いた。

「知らない場所で、大勢の人間と一緒にいた。何かを守ろうとしていた気がする」

「何かって?」

「それが分からない」

桐生は苦笑した。

「ただ、夢の中では必死だった」

五人の間に沈黙が流れた。

偶然なのだろうか。

それとも、何か理由があるのだろうか。

椿が静かに口を開いた。

「……全員が似たような感覚を持っているのは、少し気になるな」

夢斗が頷いた。

「確かに」

天馬は腕を組んだ。

「でも、夢だろ?」

椿が顔を向ける。

「そうだな」

「だったら、今考えても分かんねえんじゃね?」

椿は少し考えた。

「……それもそうか」

海斗が笑った。

「じゃあ、あんまり気にしなくていいってことっすね!」

天馬も笑った。

「そういうこと!」

しかし、椿だけは完全には納得していなかった。

五人全員。

それぞれ違う夢や感覚。

それなのに、どこか共通している。

偶然にしては、出来すぎている気がした。

夕方。

五人は公園を出て、それぞれ帰路についた。

天馬と夢斗は同じ方向へ歩いていた。

「……なあ、天馬」

「ん?」

「さっきの話、どう思う?」

「夢のこと?」

「ああ」

天馬は少し考えた。

「正直、よく分かんねえ」

夢斗が頷いた。

「だよな」

「でもさ」

天馬は空を見上げた。

「もし何か理由があるなら、そのうち分かるんじゃね?」

夢斗は笑った。

「お前、相変わらず楽観的だな」

「考えすぎても仕方ねえだろ」

「まあな」

二人は笑いながら歩き続けた。

やがて、分かれ道に差しかかった。

「じゃあな、天馬」

「おう。また明日!」

夢斗が去ったあと、天馬は一人で歩き始めた。

その時だった。

ふと、頭の奥に何かが浮かんだ。

広い城の廊下。

遠くに見える山々。

そして、誰かの後ろ姿。

天馬は足を止めた。

「……またかよ」

目を閉じる。

しかし、次の瞬間には何も見えなくなっていた。

ただ、胸の奥に妙な感覚だけが残った。

懐かしい。

なぜか、そう感じた。

「……何なんだよ、一体」

天馬は小さく呟いた。

そして、再び歩き始めた。

第62話 完

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