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戦国アウトロー  作者: 石蒜
第2章「尾張の狼煙」
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第61話「尾張の五人」

尾張中央高校。

昼休みの教室では、秋山天馬が机に突っ伏していた。

「……腹減った」

隣の席で弁当を広げていた大地夢斗が、呆れた顔をする。

「お前、さっきパン食ってただろ」

「足りねえんだよ」

「購買で三つも買ってたじゃねえか」

「三つしか買ってねえ」

「その考え方がおかしいんだって」

夢斗は卵焼きを口に運んだ。

天馬はその弁当をじっと見つめる。

「……うまそうだな」

「やらねえぞ」

「まだ何も言ってねえだろ」

「顔に書いてある」

天馬は笑いながら椅子にもたれた。

窓の外では、校庭を走る生徒たちの姿が見える。

いつもと変わらない昼休み。

しかし、ここ数日、尾張の不良たちを取り巻く状況は少しずつ変わり始めていた。

「なあ、夢斗」

「ん?」

「三河の連中、最近どうなってんだ?」

夢斗は箸を止めた。

「今川学園のことか?」

「ああ」

「相変わらず色んな学校に顔出してるらしいぞ」

「まだやってんのか」

「東条にも城戸にも会ったって話だしな。南翔にも連絡が来たらしい」

天馬は眉を寄せた。

「高瀬のところにも?」

「ああ」

「……忙しい奴らだな」

夢斗は苦笑した。

「他人事みたいに言ってるけど、お前のところにも来ただろ」

「岡島と朝比奈だっけ?」

「そうそう」

天馬は少し考えた。

以前、校門前で会った二人。

岡島は挑発的だったが、朝比奈は落ち着いた男だった。

どちらも、ただの情報収集に来たという雰囲気ではなかった。

「……あいつら、結構強そうだったな」

夢斗が顔を上げる。

「珍しいな。お前がそんなこと言うなんて」

「そうか?」

「いつもなら、戦ってみねえと分からねえって言うだろ」

天馬は笑った。

「まあ、それもそうなんだけどな」

ただ、あの二人には妙な余裕があった。

こちらが何を言っても、簡単には動じない。

特に朝比奈は、岡島が喧嘩を始めそうになるたび、自然に止めていた。

天馬はその様子を思い出した。

「……何か、慣れてる感じがしたんだよ」

「何に?」

「喧嘩とか、そういうのに」

夢斗は少し黙った。

「三河じゃ有名な連中らしいしな」

「だよな」

天馬は窓の外へ視線を戻した。

「まあ、向こうから何もしてこねえなら、それでいいけど」

「俺もそう思う」

夢斗は弁当の蓋を閉じた。

「でも、もし何かあったら?」

天馬は迷わず答えた。

「そん時は、やるしかねえだろ」

夢斗は小さく笑った。

「……お前ならそう言うと思った」

放課後。

尾張中央高校の校門前には、五人の男子生徒が集まっていた。

秋山天馬。

大地夢斗。

竜胆椿。

佐久間海斗。

桐生拓真。

「遅いっすよ、天馬さん!」

海斗が不満そうに声を上げた。

「悪い悪い。先生に呼ばれてた」

「また何かやったんですか?」

「何もしてねえよ!」

夢斗が横から口を挟む。

「授業中に寝てたんだよ」

「何だ、それならいつも通りじゃないっすか」

「お前ら、俺を何だと思ってんだ」

桐生が笑った。

「少なくとも、真面目な生徒ではないな」

「桐生さんまで!」

五人の間に笑いが広がった。

椿はその様子を眺めながら、静かに口を開いた。

「……そろそろ本題に入らないか?」

天馬が振り返る。

「本題?」

「三河の話だ」

その言葉に、全員の表情が少し変わった。

桐生が頷く。

「俺も、その話をしようと思ってた」

海斗が尋ねる。

「今川学園って、そんなにヤバいんですか?」

「三河じゃ相当な勢力を持ってるらしい」

桐生は答えた。

「複数の学校が関わっていて、中心にいるのが遠藤道流って三年だ」

「遠藤……」

天馬が呟く。

「岡島たちが言ってた奴か」

「ああ」

椿は腕を組んだ。

「気になるのは、なぜ尾張の各勢力に接触しているのかだ」

夢斗が答える。

「協力したいって話らしいけどな」

「それだけなら、東条や城戸に断られた時点で引き下がってもおかしくない」

椿は続けた。

「だが、今川勢はまだ尾張の学校を調べている」

海斗が顔を上げた。

「じゃあ、やっぱり尾張を乗っ取るつもりなんですかね?」

「そこまでは分からない」

椿は首を横に振った。

「ただ、何か目的があるのは確かだろう」

天馬は黙って聞いていた。

しばらくして、口を開く。

「……なあ、椿」

「何だ?」

「俺たちが今から何かする必要あんのか?」

椿は天馬を見た。

「どういう意味だ?」

「だって、まだ誰かがやられたわけじゃねえんだろ?」

夢斗が頷く。

「少なくとも、俺たちの知り合いにはな」

「だったら、こっちから喧嘩売る必要はねえじゃん」

天馬は続けた。

「東条も城戸も高瀬も、自分たちで考えて動いてるんだろ?」

桐生が静かに頷いた。

「そうだな」

「なら、俺たちは俺たちでいいと思うんだけど」

海斗が笑った。

「天馬さんらしいっすね」

椿は少し考えた。

「……俺も、先に仕掛ける必要はないと思っている」

「だろ?」

「ただし、何も知らないままでいるのは危険だ」

天馬は首を傾げた。

「何で?」

椿は答えた。

「今川勢が俺たちを調べている以上、向こうは俺たちのことを知っている。だが、俺たちは相手の実力も人数も分からない」

夢斗が頷いた。

「確かにな」

「戦うつもりがなくても、備えておく必要はある」

天馬は少し考えた。

そして笑った。

「……分かったよ」

椿が眉を上げる。

「随分素直だな」

「お前の言ってること、間違ってねえし」

「そうか」

「ただ、俺から一つ条件な」

「条件?」

天馬は五人の顔を見渡した。

「誰かが一人で無茶するのはなしだ」

海斗が目を丸くした。

「えっ?」

「特にお前な、海斗」

「何で俺なんすか!」

「一番やりそうだから」

夢斗が笑った。

「否定できねえな」

桐生も頷く。

「俺も同感だ」

「ひどくないっすか!?」

海斗は不満そうだったが、すぐに笑った。

「……まあ、分かりましたよ」

天馬は満足そうに頷いた。

「よし」

椿が静かに尋ねる。

「お前自身も守れるのか、その約束」

天馬は一瞬黙った。

「……努力する」

「そこは守るって言えよ」

夢斗の言葉に、再び笑いが起こった。

五人は学校近くの公園へ移動した。

ベンチに座る夢斗と桐生。

自動販売機の前で飲み物を選ぶ海斗。

天馬は椿と並んで、広場を眺めていた。

「……なあ、椿」

「何だ?」

「お前さ、今川勢と戦うことになると思う?」

椿は少し考えた

「可能性はあるだろうな」

「そっか」

「怖いのか?」

天馬は笑った。

「まさか」

「だろうな」

椿は少しだけ口元を緩めた。

「ただ、相手を甘く見るなよ」

「分かってるって」

「本当に?」

「しつこいな、お前」

天馬は苦笑した。

椿は広場の向こうへ視線を向けた。

「東条と戦った時もそうだったが、お前は自分が勝てると思ったら迷わず前に出る」

「悪いことか?」

「悪いとは言わない」

椿は答えた。

「だが、いつかそれが通用しない相手に出会うかもしれない」

天馬は黙った。

「その時、どうする?」

少しの沈黙。

やがて、天馬は答えた。

「……分かんねえな」

椿が顔を向ける。

「珍しい答えだな」

「だって、まだそんな奴に会ってねえし」

天馬は笑った。

「でも、負けたら終わりってわけじゃねえだろ?」

椿は黙っていた。

「一回負けたなら、次は勝てるようにすりゃいい」

「簡単に言うな」

「簡単じゃねえのは分かってるよ」

天馬は拳を握った。

「でも、最初から諦めるよりマシだろ」

椿はその横顔を見つめた。

「……そうだな」

その時だった。

天馬は、ふと奇妙な感覚を覚えた。

目の前にあるのは、いつもの公園。

夕暮れの空。

遊具の近くで遊ぶ小学生たち。

しかし、一瞬だけ、まったく別の景色が頭をよぎった。

高い石垣。

遠くまで続く城壁。

そして、見知らぬ男たちが集まる広い庭。

「……?」

天馬は眉を寄せた。

椿が気づく。

「どうした?」

「いや……」

天馬は額に手を当てた。

「何でもねえ」

「顔色が悪いぞ」

「ちょっとぼーっとしただけだ」

椿は心配そうに見つめた。

「無理するなよ」

「ああ」

天馬は笑って答えた。

だが、胸の奥には妙な違和感が残っていた。

今の景色は何だったのか。

夢でも見ていたのだろうか。

それにしては、あまりにも鮮明だった。

「天馬さーん!」

海斗の声が響いた。

「ジュース買ってきましたよ!」

天馬が振り返る。

「お、ありがとな!」

海斗は缶を差し出した。

「はい、ブラックコーヒーです!」

「何でだよ!」

「大人っぽいかなと思って」

「俺、苦いの嫌いなんだけど!」

夢斗が笑いながら立ち上がった。

「じゃあ俺が飲むわ」

「お前、さっきコーヒー飲んでただろ」

「別にいいだろ」

桐生が缶を受け取りながら笑った。

「相変わらず騒がしいな、お前らは」

椿も小さく笑った。

天馬はその光景を見つめた。

いつもの仲間。

いつもの放課後。

今は、それで十分だった。

「……なあ、みんな」

天馬が声をかける。

夢斗が振り返った。

「何だ?」

「今度の休み、どっか行かねえ?」

海斗が目を輝かせた。

「いいっすね!」

桐生が尋ねる。

「どこに行くんだ?」

「まだ決めてねえ!」

「決めてから誘えよ」

夢斗が呆れた。

天馬は笑った。

「別にどこでもいいじゃん。五人で遊べりゃ」

その言葉に、椿が少しだけ目を細めた。

「……まあ、それも悪くないな」

桐生も頷いた。

「俺も予定が合えば付き合うぞ」

海斗が拳を上げた。

「じゃあ決まりっすね!」

天馬は満足そうに笑った。

その笑顔には、まだ迷いがなかった。

どれほど強い相手が現れようと、目の前の仲間を大切にしたいという気持ちだけは変わらない。

夕暮れの公園に、五人の笑い声が響いていた。

第61話 完

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