第6話「三人目の男」
「気に入らねぇって、どういう意味だよ」
天馬が聞き返す。
目の前の男子は鼻で笑った。
「そのまんまだよ。昨日からお前の名前ばっかり聞くんだよ」
「俺に言われても困る」
「だったら黙ってればいいだろ」
夢斗が一歩前へ出る。
「お前らが勝手に絡んできてんだろ」
「大地、お前は黙ってろ」
「嫌だね」
夢斗が睨み返す。
男の後ろにいた二人が前へ出た。
「やっちまうか?」
「そうだな」
天馬が肩を回す。
「夢斗」
「分かってる」
二人が並んだ。
その瞬間だった。
「ちょっと待てよ」
後ろから声がした。
全員が振り返る。
海斗が歩いてくる。
「佐久間……」
夢斗が驚く。
海斗は天馬の横まで来ると、相手の三人を見た。
「三人で二人か?」
「何だ、お前」
「見てれば分かるだろ」
海斗が拳を握る。
「俺も混ぜろ」
夢斗が目を丸くした。
「お前、秋山に話があるんじゃなかったのか?」
「話は後でいい」
天馬が海斗を見る。
「別に頼んでないけど」
「頼まれてねぇよ」
海斗は笑った。
「俺が勝手にやるだけだ」
相手の一人が舌打ちした。
「三人になったところで同じだ」
男が飛び込んでくる。
最初に動いたのは夢斗だった。
「来い!」
拳を受け止め、そのまま相手の腕を引く。
「うおっ!」
体勢を崩した男の腹へ拳。
「ぐっ!」
その隣では海斗と別の男がぶつかっていた。
海斗は最初の一発をかわした。
二発目も避ける。
そして相手の懐へ入る。
「遅い」
腹へ拳。
男がよろめいた。
だが、すぐに立ち直る。
「舐めんな!」
海斗の顔へ拳が飛ぶ。
海斗は腕で受けた。
「……痛ぇな」
「だったら倒れろ!」
「嫌だね」
海斗が踏み込む。
拳が相手の頬を捉えた。
その頃、天馬も残った一人と向き合っていた。
「お前、強そうだな」
男が笑う。
「噂だけじゃなさそうだ」
「そっちもな」
男が突っ込む。
天馬は拳を受け止める。
衝撃で腕が痺れた。
「……重い」
「どうした!」
続けざまに拳が飛んでくる。
天馬は一歩下がった。
二発目。
三発目。
かわしきれず、肩に拳が入る。
「ぐっ!」
天馬の体が横へ流れる。
「秋山!」
夢斗が叫ぶ。
「大丈夫!」
天馬は体勢を戻した。
相手がさらに迫る。
その瞬間。
天馬の身体が自然に動いた。
拳をかわす。
相手の腕を掴む。
そして、勢いを利用して横へ投げる。
「なっ……!」
男の体が地面へ叩きつけられた。
天馬自身も驚いていた。
「……今の」
考える暇はなかった。
男が立ち上がる。
「まだ終わってねぇ!」
天馬も拳を構えた。
「だったら来い!」
二人が再びぶつかる。
一方、海斗の戦いも続いていた。
相手の拳が頬をかすめる。
「チッ!」
海斗が距離を取る。
「お前、思ったよりやるな」
「そっちもな」
男が笑う。
「でも、俺は負けねぇぞ!」
海斗が構え直した。
夢斗はすでに相手を倒していた。
「海斗!」
「こっちは大丈夫だ!」
夢斗が振り返る。
天馬はまだ戦っている。
海斗もまだ戦っている。
夢斗は拳を握った。
「……俺だけ終わるの早くね?」
「知らねぇよ!」
天馬が叫ぶ。
夢斗が笑った。
「じゃあ、見てるわ!」
「うるせぇ!」
その瞬間、天馬の拳が相手の顔を捉えた。
男が大きくよろめく。
天馬が踏み込む。
「これで終わりだ!」
腹へ拳。
男が膝をついた。
ほぼ同時に、海斗も相手の足を払った。
男が地面に倒れる。
勝ち目がないと判断したのか、その場を離れていく。
「覚えてろよ!」
夢斗が背中に向かって叫ぶ。
「もうそれ聞き飽きたぞ!」
三人の姿が見えなくなる。
天馬は息を整えた。
海斗も拳を開いたり閉じたりしている。
夢斗が二人を見る。
「……お前ら、強すぎない?」
「お前も十分強いだろ」
海斗が答える。
「俺は一人倒しただけだぞ」
「俺も一人だ」
「秋山も一人」
三人が顔を見合わせる。
夢斗が笑った。
「じゃあ、引き分けってことでいいか?」
「何の勝負だよ」
天馬が呆れる。
海斗も笑った。
「まあ、悪くないな」
少し沈黙が流れる。
海斗が天馬を見る。
「秋山」
「何?」
「昨日から気になってた」
「またその話?」
「いや、今度は違う」
海斗は真っ直ぐ天馬を見る。
「お前と一緒にいると、面白そうだ」
天馬は少し考えた。
「……そうか?」
「ああ」
夢斗が横から口を挟む。
「じゃあ、飯行くか?」
海斗が夢斗を見る。
「今から?」
「腹減った」
天馬がため息をつく。
「お前、そればっかだな」
「いいだろ」
海斗が笑った。
「俺も行く」
三人は並んで歩き出した。
その日の帰り道。
天馬は二人の横を歩きながら、ふと思った。
昨日までは一人だった。
それが今は、隣に二人いる。
「……悪くないな」
天馬が小さく呟く。
「何か言った?」
夢斗が聞く。
「何でもねぇよ」
「怪しいな」
三人の笑い声が、夕暮れの街に響いた。
第6話 完




