第5話「新たな視線」
翌日の朝。
天馬が教室に入ると、昨日までとは少し空気が違っていた。
「おはよう、秋山」
「おう」
夢斗が自分の席から声をかける。
「昨日、ちゃんと帰れたか?」
「子供じゃねぇんだから」
「いや、昨日あんなことあったし」
「お前も一緒だっただろ」
「まあな」
夢斗が笑う。
その会話を、教室の後ろから見ている男子がいた。
昨日、校門で天馬に声をかけた佐久間海斗だった。
海斗はしばらく二人を眺めたあと、友人に声をかけられる。
「佐久間、何見てんだ?」
「別に」
「秋山?」
「そう」
「この前の黒田の件?」
「ああ」
「喧嘩強いらしいな」
海斗は答えず、天馬を見る。
昨日、実際に天馬の姿を見た。
噂ほど派手な男には見えない。
むしろ、普段はどこにでもいる普通の高校生に近かった。
それでも気になる。
「……あいつ、変だな」
「何が?」
「分からん」
海斗は席を立った。
昼休み。
天馬と夢斗は廊下を歩いていた。
「なあ、秋山」
「何?」
「昨日の佐久間、気にならないか?」
「別に」
「俺はちょっと気になる」
「なんで?」
「喧嘩が強いから」
「お前、喧嘩好きなの?」
「好きじゃねぇよ」
夢斗は少し考えた。
「ただ、強い奴とは一回くらいやってみたいだろ」
「俺は思わないけど」
「お前は変わってるな」
「お前に言われたくない」
二人が笑っていると、廊下の向こうから海斗が歩いてきた。
夢斗が気づく。
「噂をすれば」
海斗は二人の前で足を止めた。
「秋山」
「何?」
「昨日のこと、聞いた」
「昨日?」
「大地と別の高校の連中とやり合っただろ」
「見てたのか?」
「聞いただけだ」
天馬は少し警戒する。
「それで?」
「別に」
海斗は天馬の横を通り過ぎる。
「ただ、お前がどんな奴なのか気になった」
「昨日もそれ言ってなかった?」
海斗が足を止める。
「そうだったな」
振り返る。
「だから、今度はちゃんと話してみたい」
「話すだけなら別にいいけど」
「じゃあ、またな」
海斗はそのまま歩いていった。
夢斗が天馬の横に並ぶ。
「なんか気に入られてない?」
「知らねぇよ」
「まあ、悪い感じじゃなさそうだけどな」
天馬は海斗の背中を見送った。
その頃。
別の校舎では、椿が教室の窓から外を眺めていた。
昨日の男のことが頭に残っている。
秋山を気にしていた理由。
結局、詳しいことは聞けなかった。
「竜胆」
声をかけられて振り返る。
クラスメイトだった。
「昨日、誰かと話してなかった?」
「誰と?」
「校門のところで」
「ちょっとした話だよ」
「秋山のこと?」
椿の表情が少し変わった。
「……なんで知ってる?」
「昨日からその話ばっかりだからな」
「そうか」
椿は窓の外へ視線を戻した。
校庭では、何人かの生徒が昼休みを過ごしている。
その中に天馬の姿はなかった。
「竜胆?」
「何でもない」
椿は席に戻った。
放課後。
天馬が昇降口へ向かっていると、夢斗が追いついてきた。
「秋山!」
「何だよ」
「今日も飯行こうぜ」
「昨日食っただろ」
「昨日食ったから今日も食うんだよ」
「理屈になってねぇ」
「いいから行こうぜ」
二人が校門を出る。
その後ろから、海斗も少し離れて歩いていた。
天馬は気づかない。
夢斗も気づかない。
ただ、海斗は二人を追いかけるわけでもなく、同じ方向へ歩いているだけだった。
そのとき。
前方から、数人の男子が歩いてきた。
夢斗の足が止まる。
「……またかよ」
天馬も立ち止まった。
「知り合い?」
「昨日の奴らじゃない」
男子たちの一人が天馬を見る。
「お前、秋山だろ?」
「そうだけど」
男が笑った。
「ちょっと話そうぜ」
夢斗が前へ出る。
「何の話だよ」
「お前には関係ねぇ」
「じゃあ、秋山にも関係ねぇだろ」
男の表情が変わる。
「大地、お前も一緒にいるのか」
「だったら何だよ」
空気が張り詰める。
天馬が一歩前へ出た。
「話って何だ?」
男は答えなかった。
代わりに、その後ろにいた一人が口を開く。
「昨日から、学校の連中がお前の話ばっかりしてんだよ」
「だから?」
「気に入らねぇんだよ」
天馬は黙って男を見る。
夢斗が拳を握った。
「秋山」
「分かってる」
二人の後ろ。
海斗は足を止めていた。
「……なるほどな」
海斗は小さく呟いた。
そして、ゆっくりと前へ歩き出した。
第5話 完




