第4話「最初の仲間」
「ここ」
夢斗が立ち止まったのは、学校から少し離れた商店街の一角だった。
古びた食堂の暖簾をくぐる。
「いらっしゃい」
二人は窓際の席に座った。
「何食う?」
「おすすめは?」
「生姜焼き」
「じゃあ、それ」
「俺も」
注文を済ませると、夢斗が水を一口飲んだ。
「昨日の話なんだけどさ」
「また?」
「気になるんだよ」
「何が」
「お前、竜胆と知り合ったの昨日が初めてだろ?」
「ああ」
「なのに、ずいぶん息合ってたって話じゃん」
天馬は少し考えた。
「……そうか?」
「そうだよ。二人とも迷わず動いてた」
「向こうが合わせてくれただけだろ」
「竜胆って、あんまり人とつるまないんだぞ」
「そうなのか?」
「俺も詳しくは知らないけどな」
料理が運ばれてくる。
二人は箸を取った。
「うまっ」
夢斗が目を細める。
天馬も一口食べる。
「……確かにうまい」
「だろ?」
しばらく二人で食べる。
やがて夢斗が口を開いた。
「秋山ってさ」
「ん?」
「友達少ないだろ」
「急に何だよ」
「いや、悪い意味じゃない」
「じゃあ何だよ」
「俺と一緒にいても、別に嫌そうじゃないから」
「嫌だったら帰ってる」
「だよな」
夢斗が笑った。
その笑顔につられるように、天馬も少し笑った。
店を出た二人は、商店街を歩いた。
「このあとどうする?」
「帰る」
「じゃあ途中まで一緒に行くわ」
「おう」
そのときだった。
前方から三人の男子が歩いてくる。
制服は別の高校。
夢斗が小さく息を吐いた。
「……あいつら」
「知ってるのか?」
「学校の近くでよく見る」
三人のうち、一人が天馬たちに気づいた。
「あ?」
足を止める。
「おい、大地じゃねぇか」
夢斗も立ち止まった。
「何だよ」
「この前、俺らのこと避けただろ」
「別に避けてねぇよ」
「じゃあ何で逃げた?」
「面倒だったから」
男の顔つきが変わった。
「舐めてんのか?」
夢斗が前へ出る。
「喧嘩する気なら相手するぞ」
天馬が横から見る。
「夢斗」
「大丈夫」
夢斗は拳を握った。
「こいつら、前から気に入らなかったんだよ」
三人のうち、一人が夢斗へ突っ込んだ。
「ぶっ飛ばす!」
夢斗が身を横へずらす。
拳をかわし、そのまま相手の腹へ拳を叩き込んだ。
「ぐっ……!」
男がよろめく。
「やるじゃねぇか!」
残り二人が同時に動いた。
夢斗は一人の腕を掴み、引き寄せる。
だが、もう一人の拳が横から迫った。
「夢斗!」
天馬が腕を伸ばす。
拳を受け止める。
「……お前」
「余所見すんな!」
天馬が相手の腕を払う。
男が体勢を崩した。
その隙に夢斗が蹴りを入れる。
「助かった!」
「お互い様だろ」
残った一人が天馬へ向かってくる。
「お前、関係ねぇだろ!」
天馬は拳を握った。
「仲間に手ぇ出されて、黙ってられるかよ」
拳と拳がぶつかった。
天馬の体がわずかに後ろへ下がる。
「……重いな」
相手はさらに踏み込んだ。
天馬は一歩下がる。
そして次の瞬間。
相手の拳を紙一重でかわし、懐へ入った。
腹へ一発。
男が息を詰まらせる。
そこへ夢斗が横から肩をぶつけた。
「終わりだ!」
二人がかりで押し倒す。
残った二人も立ち上がれない。
しばらくして、三人は捨て台詞を残して去っていった。
夢斗が息を整える。
「……腹減った」
「さっき食っただろ」
「喧嘩すると腹減るんだよ」
「知らねぇよ」
二人は顔を見合わせた。
そして同時に笑った。
「なあ、秋山」
「何?」
「また一緒に飯食おうぜ」
「別にいいけど」
「じゃあ決まり」
夢斗が手を差し出した。
天馬は一瞬だけ見てから、その手を握った。
「よろしくな」
「今さらかよ」
二人は歩き出した。
その頃。
椿は学校から少し離れた場所にある公園にいた。
目の前には、先ほどの男。
「秋山天馬は、昨日から妙に噂になってる」
「それで?」
「お前は昨日、あいつと一緒にいた」
「だから?」
「お前も関わるつもりなのか?」
椿は黙った。
少し考えてから答える。
「まだ分からない」
「そうか」
男はそれ以上聞かなかった。
「ならいい」
立ち去ろうとする男を、椿が呼び止める。
「一つだけ聞く」
「何だ?」
「なんで秋山を気にしてる?」
男は振り返った。
「さあな」
それだけ残して去っていく。
椿は一人、公園に残った。
「……妙な話になってきたな」
夕暮れの街を見ながら、椿は小さく呟いた。
その頃、天馬と夢斗は駅へ向かって歩いていた。
「じゃあ明日な」
「ああ」
「遅刻すんなよ」
「お前に言われたくねぇ」
笑いながら別れる。
天馬は一人になった。
今日まで、学校では特に誰かと深く関わることもなかった。
それが、昨日から少しずつ変わっている。
天馬は空を見上げた。
「……まあ、悪くないか」
そう呟き、自宅へ向かって歩き出した。
第4話 完




