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戦国アウトロー  作者: 石蒜
第2章「尾張の狼煙」
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第51話「北陵会の方針」

放課後。

北陵高校、旧校舎三階。

普段は使われていない教室に、北陵会の幹部たちが集まっていた。

窓際の椅子に座る城戸圭吾。

その正面には、水原廉と片瀬翔が並んでいる。

二人とも、先日の東尾張連合との戦いで負った傷が残っていた。

「……で?」

城戸が口を開いた。

「お前ら、何か言うことは?」

水原は視線を逸らした。

片瀬も黙っている。

「何だよ。普段はあんなに口が回るのに」

「……すみませんでした」

先に頭を下げたのは水原だった。

「勝手に東商の連中を集めて、喧嘩までしました」

片瀬も続いた。

「俺もです。城戸さんの指示を無視しました」

城戸は二人を見つめた。

「俺が怒ってる理由、分かってるか?」

水原が答える。

「……負けたからですか?」

「違う」

城戸は即答した。

「勝ってても同じだ」

水原は顔を上げた。

城戸は椅子から立ち上がった。

「俺は東側の連中と話してこいって言ったんだ。脅して仲間にしろなんて一度も言ってねえ」

片瀬が口を開く。

「でも、東尾張連合が弱ってる今なら、勢力を広げられると思ったんです」

「だから勝手に動いたのか?」

「……はい」

城戸は小さく息を吐いた。

「お前らが東側を取りたいと思ってるのは分かる。俺だって同じだ」

水原が尋ねた。

「だったら、何で止めたんですか?」

城戸は水原を見た。

「お前、東商の連中が北陵会に入ったとして、その後どうするつもりだった?」

「……どうするって?」

「嫌々入った奴らが、いざという時に俺たちと一緒に戦ってくれると思うか?」

水原は答えられなかった。

「名前だけ北陵会に入れても意味ねえんだよ」

城戸は続けた。

「俺が欲しいのは人数じゃねえ。信用できる仲間だ」

片瀬は俯いた。

「……確かに、そうですね」

「分かってくれりゃいい」

城戸は椅子に座り直した。

「ただし、次に同じことをしたら、幹部から外す」

二人の表情が変わった。

「……本気ですか?」

片瀬が尋ねる。

「ああ」

城戸は真剣な顔で答えた。

「俺の指示を無視して勝手に喧嘩を始める奴に、ほかの連中を任せられねえからな」

水原と片瀬は顔を見合わせた。

そして、揃って頭を下げた。

「……分かりました」

しばらくして、宮坂亮が教室へ入ってきた。

「城戸さん、東側の情報が入りました」

城戸が顔を上げる。

「何だ?」

「東条雅人が、東尾張連合の方針を変えたそうです」

「方針?」

「はい。強制的な勧誘をやめて、抜けたい奴は自由に抜けられるようにしたらしいです」

水原が驚いた。

「……マジかよ」

片瀬も眉を寄せる。

「東条の奴、何考えてんだ?」

城戸は黙っていた。

宮坂が続ける。

「実際に何人か抜けたそうです。人数は少し減ってるみたいですね」

水原が笑った。

「だったら、ますます東側を取りやすくなったんじゃないですか?」

しかし、城戸は首を横に振った。

「そうとも限らねえ」

「え?」

「残った奴らは、自分の意思で東条についていくことを選んだんだろ?」

宮坂が頷く。

「そうですね」

城戸は腕を組んだ。

「だったら、前より厄介かもしれねえぞ」

片瀬が尋ねる。

「どういうことですか?」

「嫌々従ってる奴は、形勢が悪くなれば逃げる。でも、自分で残ると決めた奴は簡単には離れねえ」

水原は少し考えた。

「……なるほど」

城戸は小さく笑った。

「東条の奴、面白いこと考えたな」

片瀬は悔しそうに言った。

「でも、あいつらに負けたままってのは納得できません」

「俺もだ」

城戸は即答した。

「川沿いでの東条との勝負も、まだ終わってねえからな」

水原が顔を上げた。

「じゃあ、もう一回やるんですか?」

「いずれな」

城戸は答えた。

「ただし、今すぐじゃねえ」

城戸は机の上に尾張周辺の地図を広げた。

学校の位置や、各勢力の拠点が書き込まれている。

「これからの北陵会について話す」

水原たちが地図を覗き込んだ。

城戸は北側を指差した。

「まず、俺たちの地元を固める」

宮坂が尋ねる。

「北側ですか?」

「ああ。最近、北陵会の名前を勝手に使ってる奴がいるらしい」

片瀬が眉を寄せた。

「誰ですか?」

「まだ分からねえ」

城戸は続けた。

「北陵会に入ってもいねえのに、うちの名前を出して他校の生徒から金を取ろうとした奴がいるそうだ」

水原の表情が険しくなる。

「……ふざけんなよ」

「だから、まずはそいつらを調べる」

宮坂が頷いた。

「分かりました。俺が情報を集めます」

「頼む」

城戸は次に東側を指差した。

「東側については、しばらく無理に動かねえ」

片瀬が顔を上げる。

「……撤退するんですか?」

「違う」

城戸は首を横に振った。

「東側に入りたい奴がいれば受け入れる。ただし、こっちから脅したり、無理に誘ったりするのは禁止だ」

水原が尋ねる。

「東尾張連合が邪魔してきたら?」

「まず話せ」

「話しても駄目だったら?」

城戸は水原を見た。

「その時は俺に連絡しろ」

水原は少し不満そうだったが、頷いた。

「……分かりました」

城戸は地図を畳んだ。

「それと、南側にも手を出すな」

宮坂が尋ねる。

「南翔高校ですか?」

「ああ」

城戸は頷いた。

「高瀬宗介は、東条とはまた違うタイプだ」

片瀬が言った。

「南側をまとめてる奴ですよね」

「そうだ。あいつは自分から喧嘩を売るような奴じゃねえが、南側に手を出せば必ず動く」

水原が笑った。

「城戸さん、随分詳しいですね」

「前に一度会ったことがある」

「戦ったんですか?」

「いや」

城戸は首を横に振った。

「話しただけだ」

片瀬が尋ねる。

「どんな奴でした?」

城戸は少し考えた。

「……簡単には動かねえ奴だな」

「それだけですか?」

「十分だろ」

城戸は笑った。

「そういう奴が一番厄介なんだよ」

会議が終わり、水原と片瀬が教室を出ていった。

宮坂も情報収集のために帰っていく。

教室には城戸だけが残った。

窓の外では、運動部の生徒たちが練習を続けている。

城戸は椅子にもたれかかった。

「……東条も変わったか」

川沿いで戦った時のことを思い出す。

東条雅人は、最後まで自分の仲間を守ろうとしていた。

そして、秋山天馬。

城戸が一対一を申し込んだ時、あの男は戦う理由がないと言って断った。

「……秋山天馬、か」

城戸は小さく笑った。

「お前は今、何考えてんだろうな」

その時、スマートフォンが震えた。

画面には、宮坂からのメッセージが表示されていた。

『城戸さん、少し気になる話があります』

城戸は返信する。

『何だ?』

すぐに返事が届いた。

『最近、三河方面の学校の生徒が尾張に来てるらしいです』

城戸は眉を寄せた。

『三河?』

『はい。まだ詳しいことは分かりませんが、東側の学校を回ってるみたいです』

城戸は画面を見つめた。

三河。

尾張とは別の地域。

これまで北陵会が直接関わることの少なかった場所だった。

「……何しに来てんだ?」

城戸は立ち上がり、窓の外を見た。

北側、東側、南側。

尾張の不良たちは、それぞれの考えで動き始めている。

しかし、その外側からも、新たな動きが近づいていた。

城戸は宮坂に短く返信した。

『詳しく調べろ。ただし、揉めるなよ』

送信を終えると、スマートフォンをポケットにしまった。

「……面倒なことにならなきゃいいけどな」

城戸は鞄を持ち、教室を後にした。

北陵会は、しばらく東側への強引な進出を控えることになった。

だが、尾張を巡る争いが終わったわけではない。

そのことを、城戸圭吾はまだ十分に理解していなかった。

第51話 完

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