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戦国アウトロー  作者: 石蒜
第2章「尾張の狼煙」
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第50話「東尾張連合の変化」

放課後。

東尾張工業高校、旧校舎の一室。

東条雅人は窓際の椅子に座り、集まった仲間たちを見渡していた。

神谷亮介、相馬恭介、久我山慎吾、三枝圭介。

東尾張連合の中心となってきた四人だ。

「……東条さん、全員揃いました」

三枝が言った。

「ああ」

東条は頷いた。

昨日、北陵会の片瀬翔と戦った影響で、左脇腹にはまだ痛みが残っている。

相馬も顔に傷を作っていた。

神谷が口を開いた。

「それで、話って何ですか?」

「東尾張連合のことだ」

東条の言葉に、全員が顔を上げた。

「これからの東尾張連合を、どうするか決めたい」

久我山が眉を寄せる。

「どうするって……今まで通りじゃ駄目なんですか?」

東条は首を横に振った。

「今まで通りじゃ、また同じことを繰り返す」

「同じこと?」

「昨日の北陵会みたいなことだ」

部屋が静かになった。

東条は続ける。

「俺たちは今まで、東側の学校をまとめるために、力で従わせてきた」

神谷が腕を組む。

「まあ……そうっすね」

「断った奴にも何度も声をかけた。場合によっちゃ、喧嘩になったこともある」

相馬が俯いた。

「……否定できねえな」

東条は全員を見た。

「俺は、それをやめようと思う」

久我山が目を見開いた。

「え?」

「これからは、入りたくない奴を無理やり入れない。東尾張連合を抜けたい奴も引き止めない」

神谷が尋ねる。

「それって、人数が減ってもいいってことですか?」

「ああ」

東条は即答した。

「その代わり、自分の意思で残った奴らとは最後まで一緒にやる」

しばらく沈黙が続いた。

最初に口を開いたのは相馬だった。

「……俺は賛成です」

神谷が横を見る。

「相馬?」

「昨日、水原と戦って思ったんだよ」

相馬は椅子の背もたれに寄りかかった。

「あいつ、俺に北陵会へ入らないかって言ってきた」

「……何?」

久我山が驚く。

「でも、断った」

相馬は東条を見た。

「俺は強い奴の下にいたいから、ここにいるわけじゃねえんです」

東条は黙っていた。

「東条さんや神谷たちと一緒にやりたいから、ここにいるんです」

神谷が笑った。

「何だよ、急に」

「うるせえな。真面目な話してんだよ」

二人のやり取りに、三枝も少し笑った。

東条は静かに頷いた。

「……ありがとな」

その後、東条は三枝に尋ねた。

「今、東尾張連合に名前を置いてる奴は何人いる?」

「各校を合わせれば、かなりいます。ただ……」

三枝は少し言いにくそうにした。

「何だ?」

「秋山たちとの抗争が終わってから、連絡が取れなくなった奴もいます」

「そうか」

「北陵会に移った奴もいるみたいです」

久我山が立ち上がった。

「ふざけんなよ! 今まで東尾張連合の名前使ってたくせに!」

「慎吾」

東条が呼んだ。

「でも!」

「座れ」

久我山は悔しそうに椅子へ戻った。

東条は落ち着いた声で言った。

「離れたい奴は離れればいい」

「そんな簡単に……」

「俺たちは今まで、人数が多いことを強さだと思ってた」

東条は自分の拳を見つめた。

「でも、秋山たちは五人だった」

全員が黙った。

「あいつらは、俺たちよりずっと少なかった。それでも逃げずに戦った」

神谷が頷いた。

「……確かに」

「俺たちは人数で勝ってた。けど、最後は負けた」

東条は顔を上げた。

「だったら、人数を増やす前に考えなきゃいけねえことがあるだろ」

三枝が尋ねた。

「東条さんは、東尾張連合を解散するつもりなんですか?」

「いや」

東条は首を横に振った。

「解散はしねえ」

そして、全員を見た。

「ただ、今までとは違う東尾張連合にしたい」


翌日。

東尾張工業高校の中庭。

東条の呼びかけで、東尾張連合に所属する各校の代表たちが集まっていた。

東条は全員の前に立った。

「今日は伝えたいことがある」

周囲が静かになる。

「これから東尾張連合は、強制的な勧誘をやめる」

集まった生徒たちが顔を見合わせた。

「入りたい奴だけ入ればいい。抜けたい奴は抜けて構わねえ」

すると、一人の男子生徒が手を上げた。

「東条さん、それじゃ北陵会に負けませんか?」

東条は答える。

「負けるかもしれねえな」

その言葉に、周囲がざわついた。

「でも、人数を増やすために仲間を脅すようなことは、もうしたくねえ」

別の生徒が尋ねた。

「じゃあ、ほかの学校に絡まれた時はどうするんですか?」

「相談してくれ」

東条は即答した。

「東尾張連合に残る奴が困ってたら、俺たちは助けに行く」

神谷が隣に並んだ。

「もちろん、俺も行くぜ」

相馬も続いた。

「俺もだ」

久我山は少し迷っていたが、やがて前へ出た。

「……俺だって行きますよ」

東条は笑った。

「無理すんなよ」

「分かってますって!」

三枝も頷いた。

「俺は情報を集めます。喧嘩になる前に解決できることもあるはずですから」

東条は四人を見た。

「……そうだな」

その時だった。

集まった生徒の中から、二年生の男子が声を上げた。

「俺、抜けます」

全員の視線が集まった。

男子生徒は少し緊張した様子で続けた。

「正直、今まで怖くて抜けられなかったんです」

久我山が何か言いかけた。

しかし、東条が先に口を開いた。

「分かった」

男子生徒は驚いた。

「……いいんですか?」

「ああ」

「怒らないんですか?」

東条は首を横に振った。

「怒る理由がねえだろ」

男子生徒は深く頭を下げた。

「……ありがとうございました」

そして、中庭を離れていった。

それをきっかけに、ほかにも数人が抜ける意思を伝えた。

東条は全員を引き止めなかった。

やがて、集まっていた人数は少し減った。

久我山が呟く。

「……本当に減っちまいましたね」

東条は頷いた。

「ああ」

「悔しくないんですか?」

「悔しくねえって言ったら嘘になる」

東条は残った生徒たちを見渡した。

「でも、これでいい」

神谷が笑った。

「結構残ってるじゃないですか」

相馬も頷く。

「そうっすね」

東条は小さく笑った。

「……ありがてえな」


集会が終わったあと。

久我山は東条の隣を歩いていた。

「東条さん」

「何だ?」

「俺、前は秋山のことが大嫌いでした」

東条は笑った。

「知ってる」

「今も好きじゃないですけど」

「そうかよ」

久我山は少し考えてから続けた。

「でも、あいつらに負けてから、東条さんが変わったのは分かります」

東条は黙って聞いていた。

「俺も、いつまでも前と同じじゃ駄目なんですかね」

東条は久我山を見た。

「別に無理して変わる必要はねえよ」

「え?」

「自分で考えて決めればいい」

久我山はしばらく黙っていた。

そして、小さく頷いた。

「……分かりました」

東条は前を向いた。

東尾張連合の人数は減った。

それでも、残った仲間たちは自分の意思でここにいる。

以前より弱くなったのか。

それとも、これから強くなれるのか。

答えはまだ分からない。

ただ一つ、東条雅人は決めていた。

もう二度と、仲間を力で縛りつけることはしない。

そして、東側を守るという決意だけは変えない。

東尾張連合は、少しずつ新しい形へと変わり始めていた。

第50話 完

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