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戦国アウトロー  作者: 石蒜
第2章「尾張の狼煙」
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第48話「相馬の覚悟」

午後六時。

東商高校近くの高架下。

相馬恭介は膝に手をつき、荒い呼吸を繰り返していた。

向かいに立つ水原廉も、額の汗を制服の袖で拭っている。

二人の戦いは、すでに三十分近く続いていた。

「……お前、まだ立てんのかよ」

水原が苦笑する。

相馬は顔を上げた。

「そっちこそ……随分しぶといじゃねえか」

「褒め言葉として受け取っとくわ」

「好きにしろ」

相馬はゆっくりと背筋を伸ばした。

頬は腫れ、腹部にも鈍い痛みが残っている。

だが、水原も無傷ではなかった。

左目の下には赤い痕があり、右腕を動かすたびに表情がわずかに歪んでいる。

少し離れた場所で、神谷亮介が二人を見守っていた。

「……いい加減、決着つけろよ」

相馬が振り返る。

「うるせえ。簡単に言うな」

「こっちだって、ずっと見てんだぞ」

水原が笑った。

「じゃあ、お前も混ざるか?」

神谷は首を横に振った。

「断る。今日は相馬の喧嘩だ」

「……そうかよ」

水原は再び相馬に向き直った。

「だったら、続きだ」

「ああ」

水原が先に踏み込んだ。

相馬の顔を狙った右拳。

相馬は左腕で受け止め、すぐに反撃する。

しかし、水原は身体を引いてかわした。

「またそれか!」

相馬が叫ぶ。

水原は笑った。

「何度も食らう方が悪いんだろ!」

水原は横へ回り込み、相馬の脇腹を狙った。

相馬は身体をひねって避ける。

だが、その直後、水原の左拳が頬を捉えた。

相馬は二歩後退した。

「相馬!」

神谷が声を上げる。

相馬は片手を上げた。

「……大丈夫だ!」

水原は追撃せず、相馬を見つめた。

「なあ、相馬」

「……何だよ」

「お前、何でそんなに必死なんだ?」

相馬は眉を寄せた。

「は?」

「東条が秋山に負けたんだろ? だったら、もう東尾張連合にこだわる必要なくねえか?」

相馬は黙った。

水原が続ける。

「俺たち北陵会に入れば、今まで通り東側で好きにできるかもしれねえぞ」

相馬は小さく笑った。

「……お前、まだそんなこと言ってんのか」

「何?」

「俺たちが東条さんについていってる理由、分かってねえな」

水原は腕を組んだ。

「じゃあ教えてくれよ」

相馬は拳を握った。

「東条さんが一番強いからじゃねえ」

「……ほう」

「負けたあとも、俺たちのことを見捨てなかったからだ」

水原は黙った。

「東条さんは秋山に負けた。俺たちだって、あの時は悔しかった」

相馬は続ける。

「でも、負けたからって今まで一緒にやってきたことまでなくなるわけじゃねえだろ」

水原は相馬を見つめた。

「……なるほどな」

「あの人がまだ東側を守ろうとしてるなら、俺も一緒に戦う」

相馬は一歩前に出た。

「それだけだ」

水原は少し笑った。

「……お前ら、案外仲いいんだな」

「悪いかよ」

「いや」

水原は構え直した。

「ちょっと羨ましいと思っただけだ」

再び二人が踏み込んだ。

水原の拳が相馬の肩を捉える。

相馬は後退せず、相手の懐へ入った。

「……っ!」

相馬の右拳が水原の腹部に入る。

水原は身体を折りかけたが、すぐに相馬の腕を押し返した。

「まだだ!」

水原が左拳を振るう。

相馬は頭を下げてかわし、足を踏み替えた。

その動きに、水原の反応が一瞬遅れた。

相馬は右拳を振り抜いた。

拳が水原の頬を捉える。

水原の身体が横へ傾いた。

「……ぐっ!」

水原は数歩よろめき、片膝をついた。

神谷が目を見開いた。

「……入った!」

相馬は肩で息をしながら、水原を見つめた。

「……どうだ」

水原は地面に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。

「……効いたよ」

口元を拭う。

「正直、今ので終わるかと思った」

相馬は笑った。

「だったら、もう終わりにしようぜ」

水原は首を横に振った。

「悪いな」

再び拳を握る。

「俺にも意地がある」

相馬は小さく息を吐いた。

「……そうかよ」

二人は再び向かい合った。

その頃。

高架下へ向かう道を、東条雅人と城戸圭吾が歩いていた。

少し後ろには神谷たちの仲間である久我山慎吾、三枝圭介、そして片瀬翔と宮坂亮が続いている。

東条は左脇腹を押さえながら歩いていた。

城戸が横を見る。

「……お前、結構やられたな」

「お前の部下がしつこくてな」

「そりゃ悪かった」

城戸は苦笑した。

東条が尋ねる。

「水原と相馬、どっちが強いと思う?」

「……難しいな」

城戸は少し考えた。

「水原は動きが速い。相手の隙を見つけるのも上手い」

「相馬は?」

「一度決めたら簡単に引かねえ。ああいう奴は厄介だ」

東条は笑った。

「よく見てんじゃねえか」

「敵になるかもしれねえ奴のことは、ちゃんと見とかねえとな」

「……そうかよ」

城戸は東条を見た。

「なあ、東条」

「何だ?」

「お前、秋山に負けてから変わったな」

東条は少し黙った。

「……そうか?」

「ああ」

「お前はどうなんだ?」

「俺?」

「東側を取るって考え、まだ変わってねえんだろ?」

城戸は頷いた。

「変わってねえ」

東条は苦笑した。

「だったら、またぶつかるな」

「かもな」

城戸は前を向いた。

「でも、今日みたいなやり方は違う」

「……そうだな」

二人はそれ以上話さなかった。

高架下。

相馬と水原は、再び拳を交えていた。

互いの動きは明らかに鈍くなっている。

水原が右拳を振るう。

相馬はかわしきれず、頬に受けた。

しかし、そのまま踏み込む。

「……っ!」

相馬の拳が水原の腹部に入った。

水原は後退する。

相馬はさらに一歩前へ出た。

「これで……!」

右拳を振り抜く。

水原は防ごうと腕を上げたが、間に合わなかった。

拳が頬を捉える。

水原の身体が傾き、そのまま地面に倒れた。

「……はぁ、はぁ」

相馬はその場に立ち尽くした。

神谷が駆け寄る。

「相馬!」

「……何だよ」

「勝ったのか?」

相馬は水原を見た。

水原は地面に仰向けになったまま、荒い呼吸をしていた。

「……まだ分かんねえ」

相馬は答えた。

しばらくして、水原が片腕を動かした。

「……くそ」

ゆっくりと上体を起こす。

相馬は再び拳を握った。

しかし、水原は立ち上がらなかった。

「……もう無理だ」

相馬が目を見開いた。

「……何?」

水原は悔しそうに笑った。

「今日は、お前の勝ちだ」

神谷が大きく息を吐いた。

「……よっしゃ!」

相馬は拳を下ろした。

「……そうか」

水原は相馬を見上げた。

「次は負けねえからな」

相馬は笑った。

「こっちの台詞だ」

その時だった。

「……終わったみてえだな」

高架下の入口から声がした。

東条雅人と城戸圭吾が立っていた。

相馬が振り返る。

「東条さん!」

水原も顔を上げた。

「……城戸さん」

城戸は水原のそばへ歩み寄った。

「立てるか?」

「……すみません」

「謝るのはあとでいい」

城戸は水原に手を差し出した。

「帰るぞ」

水原はその手を取り、ゆっくりと立ち上がった。

東条は相馬の肩を叩いた。

「よくやったな」

相馬は少し照れくさそうに笑った。

「……ありがとうございます」

城戸は東条を見た。

「今日の件は、これで終わりにする」

東条は頷いた。

「ああ」

「ただし、東側を巡る話はまだ終わってねえ」

「分かってる」

城戸は少し笑った。

「次は、ちゃんと俺たちのやり方で決着をつけようぜ」

東条も笑った。

「望むところだ」

北陵会と東尾張連合。

二つの勢力の争いは、ひとまず収まった。

だが、それは決して和解ではなかった。

互いの考えが違う限り、再び衝突する可能性は残っている。

そして、尾張の不良たちを巡る争いは、さらに大きなものへと変わろうとしていた。

第48話 完

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