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戦国アウトロー  作者: 石蒜
第2章「尾張の狼煙」
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第45話「二つの戦場」

午後五時二十分。

東商高校の裏通り。

学校帰りの生徒たちが行き交う道から一本外れた場所に、四人の男子生徒が立っていた。

その正面には、北陵会の片瀬翔。

そして、片瀬と同じ制服を着た三人の不良がいた。

「だから、何度も言わせんなって」

片瀬は壁にもたれながら言った。

「東商はこれから北陵会の傘下に入る。それでいいだろ」

東商の三年生が首を横に振る。

「俺たちはそんな話、聞いてねえよ」

「今聞いただろ?」

「勝手に決めるなって言ってんだ!」

片瀬は小さくため息をついた。

「……面倒くせえな」

隣の男子生徒が一歩前に出る。

「片瀬さん、こいつら少し痛い目見ないと分かんないんじゃないですか?」

「待て」

片瀬が制止した。

「まだ話してる途中だ」

その時だった。

「ずいぶん楽しそうな話してんな」

全員が振り返った。

路地の入口に立っていたのは、東条雅人だった。

片瀬が目を細める。

「……東条か」

「お前ら、二手に分かれて何してんだ?」

「見ての通り、勧誘だよ」

「断られてるように見えるけどな」

片瀬は壁から背中を離した。

「お前には関係ねえだろ」

「東商の奴らが困ってる。十分関係ある」

東条は東商の生徒たちを見た。

「お前ら、帰れ」

しかし、三年生の一人が首を横に振った。

「東条さん、俺たちだって……」

「いいから」

東条は落ち着いた声で続けた。

「お前らが喧嘩する必要はねえ」

生徒たちは迷った末に、その場を離れた。

片瀬は腕を組んだ。

「相変わらず面倒見がいいな」

「お前らが余計なことしなきゃ済む話だろ」

「余計なこと?」

片瀬が笑った。

「俺たちは勢力を広げようとしてるだけだ。お前らだって今まで同じことしてきたんじゃねえの?」

東条は答えなかった。

片瀬の言葉には、否定できない部分があった。

以前の東尾張連合も、力を使って他校の生徒たちを従わせていた。

その結果、秋山天馬たちと衝突した。

「……そうだな」

東条が口を開いた。

「俺たちも似たようなことをしてた」

片瀬は少し意外そうな顔をした。

「へえ。認めるんだ」

「ああ」

「だったら、今さら正義の味方みたいな顔すんなよ」

東条は片瀬を見つめた。

「別に正義の味方になるつもりはねえよ」

「じゃあ何だ?」

「自分が間違ってたと思うことを、また繰り返したくねえだけだ」

片瀬は黙った。

東条は続ける。

「秋山に負けて、少し考えたんだよ」

「……何を?」

「俺についてきた奴らが、本当に自分の意思でついてきてたのかってな」

片瀬は鼻で笑った。

「負けた途端に反省かよ」

「そうかもな」

東条は否定しなかった。

「でも、今は東商の連中を無理やり従わせるつもりはねえ」

「……なるほど」

片瀬は制服の袖をまくった。

「だったら、俺たちの邪魔をするってことだな?」

東条はゆっくりと鞄を地面に置いた。

「そうなるな」

片瀬は東条との距離を詰めた。

「川沿いじゃ、うちの城戸さんと戦ってたよな」

「ああ」

「まだ怪我、治ってねえんじゃないのか?」

東条は左脇腹にわずかな痛みを感じていた。

城戸との戦いで受けた傷だった。

「心配してくれんのか?」

「まさか」

片瀬が笑う。

「言い訳にされたくねえだけだよ」

次の瞬間、片瀬が踏み込んだ。

東条の顔を狙った右拳。

東条は頭を傾けて避けると、すぐに反撃した。

拳が片瀬の肩を捉える。

片瀬は一歩下がったが、すぐに体勢を立て直した。

「……さすが東尾張連合の頭だな」

「お前もなかなか速えじゃねえか」

「そりゃどうも!」

片瀬は再び踏み込んだ。

今度は顔への攻撃を見せかけ、東条の腹部を狙う。

東条は腕で防いだ。

だが、その直後。

片瀬の左拳が東条の頬を捉えた。

東条は顔を横に向けた。

「……やるな」

「まだまだ!」

片瀬が追撃する。

東条は後退しながら二発をかわした。

しかし、三発目を防いだ瞬間、左脇腹に痛みが走った。

「……っ」

東条の動きがわずかに止まる。

片瀬はその変化を見逃さなかった。

「やっぱりな!」

片瀬の拳が東条の腹部に入った。

東条は数歩後退した。

「東条さん!」

離れた場所から声がした。

振り返ると、三枝圭介が立っていた。

その隣には久我山慎吾もいる。

「……お前ら」

東条が眉を寄せる。

「来るなって言っただろ」

久我山は息を切らしながら答えた。

「三枝から聞いたんです! 東条さんが一人で片瀬のところに行ったって!」

「だからって、お前まで来ることねえだろ」

「俺だって東尾張連合の一員です!」

久我山は拳を握った。

「いつまでも守られてばっかじゃ嫌なんですよ!」

東条は一瞬、言葉を失った。

片瀬が笑う。

「いい後輩じゃねえか」

「……ああ」

東条は久我山たちに背を向けた。

「だったら、そこで見てろ」

「東条さん!」

「俺がどう戦うか、ちゃんと見とけ」

久我山は唇を噛み、足を止めた。

片瀬が構える。

「話は終わったか?」

「ああ」

東条も拳を握った。

「待たせたな」

「別にいいさ」

片瀬は笑みを消した。

「ここから本気でいくぞ」

東条は相手の足元を見た。

片瀬は右足を少し後ろに引いている。

先ほどまでとは違う構えだった。

次の攻撃に備え、東条は重心を落とした。


一方、その頃。

東商高校近くの高架下。

相馬恭介と水原廉の戦いも続いていた。

相馬の頬は腫れ、水原の制服にも汚れが目立っていた。

互いに息が上がっている。

「……しぶといな、お前」

水原が言った。

相馬は口元を拭った。

「そっちこそ」

「もう終わりにしようぜ」

「同感だ」

二人は再び向かい合った。

神谷亮介は、その様子を見守っていた。

相馬の動きは、川沿いで戦った時よりも明らかに良くなっている。

だが、水原もまだ余力を残しているように見えた。

「……頼むぞ、相馬」

神谷は小さく呟いた。

その時、スマートフォンが震えた。

三枝からのメッセージだった。

『東条さん、片瀬と戦ってる』

神谷の表情が変わった。

さらに、続けてメッセージが届く。

『怪我が残ってるみたいだ。こっちは俺と久我山がいる』

神谷は画面を見つめた。

東条のもとへ向かうべきか。

それとも、相馬の戦いを見届けるべきか。

「……くそ」

神谷は顔を上げた。

目の前では、相馬と水原が再び拳を交えていた。

どちらの戦場も、まだ決着はついていない。

そして、北陵会の城戸圭吾は、この二つの戦いが始まっていることを、まだ知らなかった。

第45話 完

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