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戦国アウトロー  作者: 石蒜
第2章「尾張の狼煙」
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43/80

第43話「南側の実力者」

翌朝。

秋山天馬が教室に入ると、大地夢斗が真っ先に駆け寄ってきた。

「天馬! 昨日の南翔高校の奴、どうだった!?」

「どうって、普通に話しただけだよ」

「喧嘩売られたんじゃねえの?」

「だから違うって」

天馬は鞄を机に置いた。

「東条を倒したのかって聞かれて、近いうちに誰かが会いに来るって言われた」

「誰かって誰だよ?」

「知らねえ」

「名前は?」

「教えてくれなかった」

夢斗は腕を組んだ。

「……怪しいな」

「だろ?」

「よし、俺もついていく!」

「まだどこにも行くって決まってねえよ」

「先に言っとかないと、お前一人で行きそうだからな」

天馬は言い返そうとして、口を閉じた。

昨日、桐生からも同じようなことを言われていた。

「……分かったよ」

「おっ、素直じゃん!」

「うるせえ」

二人が笑っていると、始業のチャイムが鳴った。

昼休み。

校舎裏には、天馬、夢斗、佐久間海斗、竜胆椿、桐生拓真の五人が集まっていた。

桐生が口を開く。

「南翔高校の話だが、少し分かった」

天馬が顔を上げる。

「どんな学校なんですか?」

「尾張の南側じゃ、かなり名前が知られてる学校だ」

「北陵会みたいな感じですか?」

海斗が尋ねる。

「少し違うな」

桐生は壁にもたれた。

「北陵会は城戸圭吾を中心に、周辺の学校をまとめようとしてる。南翔は、自分たちの縄張りを守ることにこだわる連中だ」

椿が尋ねた。

「それなら、僕たちと争う理由はないんじゃないですか?」

「本来ならな」

桐生は天馬を見る。

「ただ、東条が負けたことで東側の力が弱まったと思われてる。南翔にとっちゃ、今が勢力を広げる機会にもなる」

「……俺が東条に勝ったせいですか?」

「全部がお前のせいじゃねえよ。元々、あいつらは周辺の学校と揉めてた」

夢斗が口を挟んだ。

「で、その南翔で一番強い奴って誰なんですか?」

「高瀬宗介。三年だ」

桐生の声が少し低くなった。

「南翔の連中をまとめてる男だ」

「桐生先輩は会ったことあるんですか?」

「一度だけな」

「戦ったんですか?」

「いや。話しただけだ」

海斗が驚いた。

「桐生先輩が喧嘩しなかったんですか?」

「お前、俺を何だと思ってんだ」

「強い先輩です!」

「そういう意味じゃねえ」

夢斗が笑った。

桐生は話を戻した。

「高瀬は無闇に喧嘩する奴じゃねえ。だが、自分の仲間がやられた時は絶対に引かない」

天馬は腕を組んだ。

「……それって普通じゃないですか?」

桐生は少し笑った。

「そうだな。だからこそ厄介なんだよ」

「どういうことです?」

「お前と似てるってことだ」

天馬は意外そうな顔をした。

椿が静かに口を開く。

「守りたいものがある人同士でも、ぶつかることはあるからね」

「……そういうことだ」

桐生が頷いた。

「高瀬が何を考えてるのか、まずは確かめる」

天馬は仲間たちを見た。

「じゃあ、向こうから来たら五人で話しましょう」

「おう!」

夢斗が即答する。

海斗も頷いた。

「それなら安心っすね」

椿は天馬を見て笑った。

「昨日決めたこと、ちゃんと守ってるね」

「何が?」

「一人で抱え込まないってこと」

天馬は少し照れくさそうに笑った。

「……まあ、リーダーらしいことも少しはしないとな」

「おっ、言うようになったじゃん!」

夢斗が天馬の肩を叩いた。

「調子乗んなよ」

「褒めてんのに!」

同じ頃。

南翔高校。

三年生の教室で、一人の男子生徒が窓際の席に座っていた。

短く整えた黒髪。

鋭い目つきだが、表情は落ち着いている。

高瀬宗介。

南翔高校の不良たちをまとめる男だった。

「宗介」

教室に入ってきた男子生徒が声をかける。

昨日、天馬に接触した男だった。

「秋山天馬のこと、もう少し調べてきた」

高瀬が顔を上げる。

「何か分かったか?」

「東条に勝ったのは本当らしい。しかも、そのあと北陵会の城戸とも顔を合わせてる」

「城戸圭吾か」

「ああ。東尾張連合も北陵会も、秋山を気にしてる」

高瀬は机に置いていたスマートフォンを手に取った。

「秋山は今、何人で動いてる?」

「中心は五人だ。三年が一人、二年が三人、一年が一人」

「たった五人か」

「でも、全員かなり喧嘩が強いらしい」

高瀬は少し考えた。

「人数が少ないからって、弱いとは限らねえだろ」

「……まあな」

「東条が負けたなら、相応の実力があるはずだ」

男は高瀬の向かいに座った。

「で、どうする? 北陵会より先に取り込むか?」

高瀬は首を横に振った。

「まだ何も分かってねえ奴を、いきなり仲間に誘ってどうする」

「じゃあ、放っておくのか?」

「いや」

高瀬は立ち上がった。

「一度、直接話す」

「宗介が?」

「ああ」

男は少し驚いた顔をした。

「わざわざ会いに行くほどか?」

「東条を倒した奴が、何のために戦ってるのか知りたい」

高瀬は窓の外を見た。

「それに、北陵会が東側に手を伸ばしてるなら、南側も無関係じゃいられねえ」

「また城戸と揉めるかもしれないぞ」

「その時は、その時だ」

高瀬は静かに答えた。

「ただし、俺が話す前に秋山たちへ手を出すな。ほかの奴らにも伝えとけ」

「分かった」

男が教室を出ていく。

高瀬は一人、机に腰を下ろした。

「……秋山天馬、か」

その名前を小さく呟いた。

放課後。

天馬たち五人は校門の前で話していた。

「今日はどうする?」

海斗が尋ねる。

「俺、帰りに本屋寄りたい」

椿が答えた。

「何買うんだ?」

夢斗が聞く。

「参考書」

「……聞かなきゃよかった」

「夢斗も買ったら?」

「俺は今のところ大丈夫!」

天馬が笑った。

「昨日の小テスト、何点だった?」

「その話はやめようぜ」

五人が笑いながら歩き始めた、その時だった。

「秋山天馬はいるか?」

校門の近くから声がした。

五人が振り返る。

そこには、南翔高校の制服を着た男子生徒が二人立っていた。

一人は昨日、天馬に声をかけてきた男。

そして、もう一人。

桐生が目を細めた。

「……高瀬」

高瀬宗介は桐生を見て、少し笑った。

「久しぶりだな、桐生拓真」

「お前が直接来るとは思わなかったぜ」

「俺も、お前が秋山と一緒にいるとは思わなかった」

天馬が桐生を見る。

「知り合いなんですか?」

「ああ。前に一度だけ会った」

高瀬は天馬に視線を移した。

「お前が秋山天馬か」

「そうだけど」

「南翔高校三年、高瀬宗介だ」

天馬は相手を見つめた。

「……昨日の人が言ってたのって、あんたのことか」

「そうだ」

夢斗が一歩前に出る。

「で、何の用ですか?」

高瀬は夢斗を見た。

「別に喧嘩をしに来たわけじゃねえよ」

「じゃあ、何しに?」

「話がしたい」

高瀬は再び天馬を見た。

「東条雅人を倒した理由を聞きたい」

天馬は少し眉を寄せた。

「……そんなこと?」

「俺にとっちゃ大事なことだ」

高瀬の表情は真剣だった。

「東側を奪うために戦ったのか。それとも、別の理由があったのか」

天馬は少しも迷わず答えた。

「仲間を守るためだよ」

高瀬は黙って天馬を見つめた。

「……それだけか?」

「ああ」

「東尾張連合を自分の下につける気は?」

「ねえよ」

「北陵会を倒して、北側まで取るつもりも?」

「そんなこと考えたこともねえ」

高瀬はしばらく黙っていた。

そして、小さく笑った。

「……なるほどな」

天馬が尋ねる。

「それで、何か問題あるのか?」

「いや。むしろ安心した」

「安心?」

「ああ」

高瀬は桐生を見た。

「桐生。こいつ、面白い奴だな」

桐生は肩をすくめた。

「だろ?」

高瀬は天馬に向き直った。

「秋山。一つだけ忠告しておく」

「何だよ?」

「お前が東条を倒したことで、東側の力関係は変わった。お前にその気がなくても、周りは勝手に動く」

天馬は黙って聞いていた。

「城戸は東側を狙ってる。南側にも、あいつの動きを面白く思ってない連中がいる」

「……あんたも?」

高瀬は否定しなかった。

「俺は南翔の仲間を守る。それだけだ」

天馬は高瀬を見つめた。

「だったら、俺と同じじゃねえか」

「そうかもしれねえな」

高瀬は笑った。

「だが、守る場所が違えば、いつかぶつかることもある」

その言葉に、天馬は少し考えた。

「……その時は、先に話し合えばいいだろ」

高瀬は意外そうに目を見開いた。

そして、声を出して笑った。

「ははっ! お前、本当に変わってるな!」

「何でだよ!」

「いや、悪い意味じゃねえ」

高瀬は背を向けた。

「今日はこれで帰る。また会おうぜ、秋山」

「おう」

高瀬たちが去っていく。

夢斗が息を吐いた。

「……何か、思ってたより普通の人だったな」

海斗が頷く。

「もっと怖い人かと思った」

椿は高瀬の背中を見つめた。

「でも、言ってることは間違ってなかったね」

天馬は頷いた。

「……ああ」

桐生が口を開く。

「高瀬は敵になると面倒な奴だ。だが、話の通じない相手じゃねえ」

天馬は笑った。

「なら、別に今から敵だって決める必要ないですよね」

桐生も笑った。

「そうだな」

五人は再び歩き始めた。

まだ、誰も知らなかった。

東側、北側、南側。

それぞれの勢力が動き始めたことで、尾張の不良たちの関係が大きく変わろうとしていることを。

第43話 完

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