第41話「仲間の証」
昼休み。
秋山天馬は教室で、大地夢斗と弁当を食べていた。
「なあ、天馬」
「ん?」
「昨日の城戸って奴、結局何だったんだろうな」
「さあな」
「東側を狙ってるんだろ?」
「そう言ってたな」
夢斗は唐揚げを口に運んだ。
「また喧嘩になりそうじゃね?」
天馬は箸を止めた。
「……できれば勘弁してほしいけどな」
「お前、喧嘩強いくせに嫌がるよな」
「好きで喧嘩してるわけじゃねえよ」
「まあ、そうか」
その時、教室の扉から男子生徒が顔を出した。
「秋山、大地!」
「何?」
「桐生先輩が放課後、体育館裏に来てほしいって」
天馬と夢斗は顔を見合わせた。
「……また何かあったのか?」
「さあ?」
夢斗は笑った。
「とりあえず行ってみようぜ!」
放課後。
体育館裏には、すでに桐生拓真が立っていた。
その隣には竜胆椿と佐久間海斗もいる。
「おう、来たか」
「桐生先輩、話って何ですか?」
天馬が尋ねた。
桐生は五人が揃ったことを確認し、口を開いた。
「昨日の河川敷で、ちょっと考えたことがあってな」
「城戸のことですか?」
椿が尋ねる。
「ああ。それもある」
桐生は壁から背中を離した。
「お前ら、これからも一緒に動くつもりか?」
夢斗が即答する。
「もちろんです!」
海斗も頷いた。
「今さら別々ってのも変ですしね」
「僕も、そのつもりです」
椿が答える。
桐生は天馬を見た。
「お前は?」
「……俺もですよ」
「そうか」
桐生は少し笑った。
「だったら、一つ提案がある」
「提案?」
「俺たち五人で、ちゃんと仲間としてまとまらねえか?」
夢斗が首を傾げる。
「……もう仲間じゃないんですか?」
「そういう意味じゃねえよ」
桐生は笑った。
「今までは、何か起きるたびに集まってただろ?」
「確かに」
海斗が頷く。
「東側に行った時も、結構急でしたよね」
「ああ。これからは誰かが困った時、すぐに相談できるようにしておきたい」
天馬は桐生を見た。
「チームを作るってことですか?」
「まあ、そんな感じだな」
夢斗の目が輝いた。
「おお! 何かかっこいい!」
「ただし、勘違いすんなよ」
桐生は夢斗を指差した。
「他校に喧嘩売ったり、縄張りを広げたりするためじゃねえ」
「分かってますって!」
「本当か?」
「……多分!」
「そこは言い切れよ!」
海斗が笑った。
椿は少し考えてから尋ねた。
「リーダーはどうするんですか?」
桐生は天馬を見た。
「俺は天馬がいいと思ってる」
「……は?」
天馬が目を丸くした。
「何で俺なんですか?」
「お前が一番、みんなを動かしてるからだ」
「そんなことないですよ」
「あるだろ」
桐生は続けた。
「東条と戦った時も、昨日の河川敷でもそうだった」
天馬は黙った。
「お前が動くと、こいつらも動く」
夢斗が笑う。
「確かに!」
海斗も頷いた。
「俺も天馬でいいと思う」
「僕も賛成かな」
椿が答えた。
天馬は四人を見回した。
「……お前ら、勝手に決めんなよ」
夢斗が肩を組んでくる。
「いいじゃん! リーダー!」
「重てえんだよ、その呼び方!」
「じゃあ大将!」
「もっと嫌だわ!」
四人が笑った。
桐生は天馬に尋ねた。
「どうだ?」
天馬はしばらく考えた。
「……一つだけ、いいですか?」
「何だ?」
「俺がリーダーでも、命令とかしたくないんですけど」
桐生が頷く。
「いいぞ」
「誰かが困ってたら、みんなで考えて助ける。それじゃ駄目ですか?」
「駄目なわけねえだろ」
天馬は笑った。
「だったら、やります」
夢斗が両手を上げた。
「決まりだな!」
海斗も笑う。
「よろしくな、リーダー」
「だからその呼び方やめろって!」
椿は天馬に手を差し出した。
「よろしく、天馬」
天馬はその手を握った。
「おう!」
続いて夢斗、海斗、桐生も手を重ねる。
「……何か照れるな」
海斗が呟く。
夢斗が笑った。
「いいじゃん、こういうの!」
桐生は四人を見た。
「一応、約束だけ決めとくか」
「約束?」
天馬が尋ねる。
「ああ。困ってる仲間を見捨てない。勝手に他校へ喧嘩を売らない。それから――」
桐生は少し間を置いた。
「何かあったら、一人で抱え込まずに相談する」
椿が頷く。
「それ、大事ですね」
「特に天馬と夢斗な」
「何で俺たちなんですか!」
二人の声が重なった。
海斗が笑う。
「自覚ねえのかよ」
五人は顔を見合わせ、再び笑った。
その日の夕方。
東尾張連合の集まる雑居ビル。
東条雅人は三枝圭介から話を聞いていた。
「……秋山たちがまとまった?」
「ああ。桐生も一緒らしい」
「そうか」
東条は椅子にもたれた。
久我山慎吾が口を開く。
「東条さん。秋山たち、今度は何をするつもりなんですかね」
「知らねえよ」
「……そうですか」
神谷亮介が腕を組んだ。
「でも、あいつらなら他校を無理やり従わせたりはしないだろ」
相馬恭介も頷く。
「それは俺も思う」
東条は少し考えた。
「……秋山は、俺とは違うやり方で仲間を集めるのかもな」
久我山が尋ねる。
「どういう意味です?」
「さあな」
東条は笑った。
「俺にもまだ分からねえよ」
一方、北陵高校。
城戸圭吾は水原廉と片瀬翔から報告を受けていた。
「秋山たちがチームを作った?」
「はい。まだ名前は分かりませんけど」
水原が答える。
城戸は椅子に座ったまま笑った。
「へえ。面白くなってきたな」
片瀬が尋ねる。
「どうします?」
「今は放っとけ」
「いいんですか?」
「ああ。東側のことも、まだ終わってねえしな」
城戸は窓の外を見た。
「それに、秋山だけが相手じゃねえ」
水原が首を傾げる。
「他にもいるんですか?」
「南側でも、最近動きがあるらしい」
「南側?」
「ああ」
城戸は立ち上がった。
「尾張には、まだまだ面白え奴がいるってことだ」
その頃。
天馬たちは駅前のファミリーレストランにいた。
「なあ、チーム名どうする?」
夢斗がメニューを閉じながら尋ねた。
天馬は首を傾げる。
「必要か?」
「必要だろ!」
海斗が笑う。
「じゃあ夢斗、何か考えてみろよ」
「任せろ!」
夢斗は腕を組み、真剣な表情になった。
しばらく沈黙が続く。
「……焼肉連合」
「却下!」
天馬が即答した。
「何でだよ!」
「食い物から離れろ!」
椿は笑いを堪えながら言った。
「名前は急がなくてもいいんじゃない?」
桐生が頷く。
「そうだな。今は五人で始める。それで十分だ」
天馬は四人を見た。
「……これからもよろしくな」
夢斗が笑う。
「おう!」
海斗も頷く。
「よろしく」
椿は微笑んだ。
「こちらこそ」
桐生はグラスを持ち上げた。
「じゃあ、五人のこれからに」
五人はグラスを合わせた。
まだ名前のない、小さな仲間たち。
だが、その結びつきは確かに強くなっていた。
第41話 完




