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戦国アウトロー  作者: 石蒜
第1章「覇王の目覚め」
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第29話「東側の頭」

「東条雅人……」

天馬は男の名前を繰り返した。

東条は制服の袖をまくりながら笑った。

「ようやく名乗れたな、秋山天馬」

「最初から名乗ればよかっただろ」

「お前がここまで来るとは思ってなかったんだよ」

東条は周囲を見渡した。

倒れている仲間たち。

立ち上がれずにいる神谷亮介。

そして、膝をついたままの相馬恭介。

「神谷も相馬も負けたか」

相馬が顔を上げる。

「……悪い、東条」

「謝るな。お前が負けるなんて久しぶりに見た」

「次は勝つ」

「期待してるよ」

東条は再び天馬へ視線を戻した。

「さて、どうする?」

「何がだよ」

「今からでも俺たちに入るか?」

夢斗が呆れた顔をする。

「まだ言ってんのかよ!」

「当たり前だろ。これだけの連中を倒せる奴らだ。欲しくなるに決まってる」

「だったら諦めろ」

椿が口を開いた。

「俺たちは誰かの下につくために来たんじゃない」

東条は椿を見た。

「お前が竜胆椿か」

「そうだけど」

「神谷を倒したんだってな」

「それが?」

「いや、いい腕してると思ってさ」

東条は楽しそうに笑った。

桐生が一歩前へ出る。

「東条。お前ら、東側で随分好き勝手やってるらしいな」

「好き勝手?」

「他校の連中を脅して仲間に引き入れてるって話だ」

東条は否定しなかった。

「俺たちは東尾張連合だ。東側の学校をまとめてる」

「まとめてるんじゃなくて、従わせてるだけだろ」

海斗の言葉に、東条の後ろにいた男が眉を吊り上げた。

「おい、口の利き方に気をつけろ!」

男が前へ出ようとする。

だが東条が片手を上げた。

「いい。黙ってろ」

男は不満そうに下がった。

「確かに、入りたくないって奴もいるよ」

東条は続けた。

「でもな、学校ごとに好き勝手やってたら、いつまでも喧嘩が終わらねえだろ」

「だから全部お前の下につけって?」

天馬が尋ねた。

「ああ。俺がまとめりゃ、東側じゃ誰も逆らえなくなる」

「……それで?」

「それでって?」

「逆らえなくなった奴らは、楽しいのかよ」

東条の笑みが薄くなった。

天馬は拳を握ったまま続ける。

「お前が強いのは分かった。でも、嫌がってる奴まで無理やり仲間にする必要あんのか?」

「力がなきゃ守れねえものもあるんだよ」

「だったら守ればいいだろ。脅すんじゃなくてさ」

二人の視線がぶつかった。

東条はしばらく黙っていた。

やがて、小さく笑う。

「……お前、面白いこと言うな」

「別に面白いこと言ったつもりねえけど」

「そういうところだよ」

東条は天馬の傷だらけの顔を見た。

「お前ら五人、もうまともに動けねえだろ」

夢斗が反論する。

「まだまだ余裕だっての!」

「お前、さっき膝に手ついてただろ」

海斗に指摘され、夢斗が顔をしかめた。

「うるせえな!」

桐生も口元の血を拭った。

「秋山。無理すんなよ」

「先輩こそ、かなり殴られてるじゃないですか」

「俺はいいんだよ」

「よくないでしょ」

椿が二人の間に入る。

「東条の後ろには、まだ二人いる」

「ああ、分かってる」

天馬が答えた。

東条は後ろの二人を振り返った。

「お前ら、手を出すな」

「東条さん?」

「こいつとは一対一でやる」

一人が納得できない様子で言った。

「でも、そいつはもう何人も相手にして――」

「だから何だ?」

東条の声が低くなった。

男は言葉を止めた。

「俺が決めた。下がってろ」

二人は高架の柱の方へ移動した。

天馬が首を傾げる。

「いいのか? 二人とも使わなくて」

「五人がかりで潰しても、つまんねえだろ」

「そっちが人数揃えて待ってたくせに」

「それはそうだな」

東条が笑った。

天馬もわずかに笑う。

だが、椿の表情は険しかった。

「天馬」

「何?」

「あいつ、さっきから一度も焦ってない」

天馬は東条を見た。

「……分かってる」

神谷も相馬も倒れた。

それでも東条は、余裕を崩していない。

「俺がやるよ」

天馬が前へ出る。

桐生は止めなかった。

「秋山」

「はい」

「相手の動きをよく見ろ。勢いだけで突っ込むなよ」

「分かりました」

「本当か?」

「……たぶん」

桐生が苦笑する。

「頼むぜ、まったく」

東条は天馬と向かい合った。

「最後にもう一回だけ聞くぞ」

「何だよ」

「俺たちに入る気は?」

「ねえよ」

即答だった。

東条は満足そうに笑った。

「いいねえ」

ゆっくり拳を構える。

「だったら、力ずくで認めさせるしかねえな」

天馬も構えた。

「やってみろよ」

二人の距離が縮まる。

東尾張連合をまとめる男と、秋山天馬。

高架下での最後の勝負が始まろうとしていた。

第29話 完

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