第28話「譲れないもの」
「いつまで立ってんだよ!」
男の拳が夢斗の頬を捉えた。
「ぐっ……!」
夢斗はよろめきながらも踏みとどまる。
目の前には二人。
一人はすでに息が上がっていたが、もう一人はまだ余裕を残していた。
「そろそろ倒れろよ」
「……嫌だね」
夢斗は口元を拭った。
「こっちはまだ飯も食ってねえんだよ」
「は?」
「腹減ってイライラしてんだ!」
夢斗が踏み込んだ。
正面の男が拳を振る。
夢斗は腕で受け、そのまま肩を押し込んだ。
「うわっ!」
男が後ろへ下がる。
その隙に夢斗はもう一人へ向かった。
「まずはお前!」
腹へ拳を叩き込む。
「ぐっ!」
さらに顔面へ一発。
男は膝をつき、そのまま地面へ倒れた。
「よし……!」
しかし、背後から腕を掴まれる。
「調子乗んな!」
残った男が夢斗を引き寄せた。
「っ……!」
顔面へ拳が迫る。
夢斗は咄嗟に頭を下げた。
拳が頭上を通り過ぎる。
「危ねえな!」
夢斗は相手の腹へ拳を返した。
男の身体が折れる。
そのまま胸元を掴み、足を掛けた。
男が地面へ倒れる。
「はぁ……はぁ……」
夢斗は膝に手をついた。
「……二人はきついって」
少し離れた場所では、海斗も二人を相手にしていた。
「おらぁ!」
男が踏み込む。
海斗は拳をかわした。
しかし、もう一人の蹴りが脇腹へ入る。
「ぐっ……!」
海斗が後退する。
「お前ら、二人で一人相手とか恥ずかしくねえの?」
「喧嘩にそんなもん関係ねえだろ!」
「まあ、そうだけどよ」
海斗は息を整えた。
「だったら文句言えねえな」
一人が正面から突っ込んでくる。
海斗は身体を横へずらした。
そのまま相手の腕を掴み、勢いを利用して背後の男へ押し込む。
「うわっ!」
二人の身体がぶつかった。
海斗は間髪入れずに踏み込む。
一人の顎へ拳を入れた。
男が倒れる。
もう一人が立て直すより早く、海斗は腹へ拳を打ち込んだ。
「ぐっ……!」
男が膝をつく。
海斗は肩で息をしながら笑った。
「……やっと終わった」
「海斗!」
夢斗が駆け寄る。
「お前も勝ったのか!」
「そっちも?」
「当たり前だろ!」
二人は拳を軽く合わせた。
その時。
「おい、お前ら!」
桐生の声が響く。
振り返ると、相馬恭介が桐生へ拳を振り下ろそうとしていた。
桐生は横へかわし、相馬の腹へ強烈な一撃を返す。
相馬がよろめく。
「……まだだ!」
相馬は歯を食いしばって踏み込んだ。
しかし桐生は退かなかった。
相馬の拳を腕で受け止め、そのまま顔面へ拳を叩き込む。
相馬の身体が大きく傾いた。
「ぐっ……!」
膝をつく。
桐生は息を切らしながら見下ろした。
「……まだやるか?」
相馬は立ち上がろうとした。
だが、足に力が入らない。
「……くそ」
地面に拳をついた。
「俺の負けだ」
桐生は構えを解いた。
「強かったぜ」
「……次は勝つ」
「待ってるよ」
夢斗が笑う。
「桐生先輩、やっぱ強え!」
「お前らもよくやったな」
桐生が二人を見る。
「二人ずつ倒したんだろ?」
「まあね!」
海斗が答える。
その頃。
天馬も最後の一人を倒していた。
「はぁ……はぁ……」
膝に手をつく。
「……やっとかよ」
椿が近づいてきた。
「大丈夫?」
「何とかな」
天馬が顔を上げる。
夢斗。
海斗。
椿。
桐生。
全員が立っていた。
周囲には倒れた東側の男たち。
だが――
「……終わったと思ったか?」
声が響いた。
天馬たちが振り返る。
高架の奥。
最初に天馬を勧誘した男が、ゆっくり歩いてきた。
その後ろには、まだ戦っていない男が二人いた。
桐生が眉を寄せる。
「……お前か」
男は笑った。
「よくここまでやったな」
天馬が前へ出る。
「お前、結局誰なんだよ」
男は立ち止まった。
「そうだな」
制服の上着を脱ぎ、近くの柵へ掛ける。
「そろそろ名乗ってやるよ」
男は天馬を真っ直ぐ見た。
「東条雅人」
夢斗が小さく呟く。
「東条……」
桐生の表情が変わった。
「お前が東側をまとめてる奴か」
「ああ」
東条は笑う。
「そして秋山天馬」
「何だよ」
「次は俺がお前の相手だ」
天馬は拳を握り直した。
東側との抗争は、まだ終わっていなかった。
第28話 完




