第27話「桐生拓真」
「どうした、桐生! もう終わりか!」
相馬恭介が拳を構えた。
桐生拓真は口元の血を拭い、ゆっくり顔を上げる。
「……随分と楽しそうだな」
「そりゃそうだろ。お前みたいな奴と喧嘩できるんだからよ!」
相馬が踏み込んだ。
右拳が桐生の顔面へ迫る。
桐生は左腕で受け止め、そのまま相馬の腹へ拳を返した。
「ぐっ……!」
相馬の身体がわずかに折れる。
だが、すぐに顔を上げた。
「いい拳だ!」
「まだまだだろ!」
桐生が続けて踏み込む。
相馬も退かない。
互いの拳が頬や腹を捉え、二人の呼吸が荒くなっていく。
「先輩!」
少し離れた場所から天馬が叫んだ。
桐生は振り返らない。
「秋山! 自分の相手に集中しろ!」
「でも!」
「こいつは俺がやる!」
天馬は歯を食いしばった。
目の前には、まだ二人の男がいる。
「……分かりました!」
天馬は再び拳を構えた。
相馬が笑う。
「随分慕われてんだな」
「別に、そういうんじゃねえよ」
「じゃあ何だ?」
「ただの後輩だ」
桐生が一歩前へ出る。
「でも、あいつらをやらせるつもりはねえ」
相馬の表情が変わった。
「……なるほどな」
相馬は腰を落とした。
「だったら、まずお前から倒してやるよ!」
勢いよく踏み込む。
桐生も正面から迎え撃った。
相馬の拳が桐生の頬を捉える。
桐生の顔が横を向いた。
しかし、足は止まらない。
「……軽いな」
「何!?」
桐生の右拳が相馬の腹へ深く入った。
「ぐっ……!」
続けて左拳を振る。
相馬は辛うじて腕で受け止めた。
それでも衝撃に押され、数歩後退する。
「てめえ……!」
「どうした?」
桐生が笑った。
「さっきまでの勢いはよ!」
相馬が歯を食いしばる。
「調子に乗んな!」
再び二人がぶつかる。
今度は相馬が低い姿勢から桐生の懐へ入った。
腹へ一発。
さらに脇腹へ拳を打ち込む。
「っ……!」
桐生の動きが止まった。
相馬はその隙を逃さない。
「もらった!」
顔面へ拳が迫る。
しかし桐生は身体を捻り、相馬の腕を掴んだ。
「……捕まえたぜ」
「なっ!?」
桐生は相馬を引き寄せ、至近距離から拳を叩き込んだ。
相馬の頬が大きく歪む。
「がっ……!」
身体が横へ流れる。
それでも相馬は倒れなかった。
桐生が目を細める。
「……やるじゃねえか」
相馬は口元を拭った。
「お前こそな」
二人は荒い呼吸を繰り返した。
周囲では、まだ殴り合いが続いている。
椿は神谷との戦いを終え、夢斗と海斗の方へ向かおうとしていた。
その時、相馬が桐生へ問いかけた。
「なあ、桐生」
「あ?」
「お前、何で秋山なんかと一緒にいる?」
桐生が眉を寄せる。
「何でって……」
「お前なら自分で何十人も集められるだろ」
「興味ねえな」
「だったら何でだよ!」
桐生は少しだけ天馬の方を見た。
二人を相手に、必死に拳を振るっている。
「……面白えからだよ」
「面白い?」
「ああ」
桐生が笑った。
「あいつ、無茶苦茶だけどよ。自分より強い奴が相手でも逃げねえんだ」
相馬は黙って聞いていた。
「それに、あいつの周りにいる連中もなかなか面白え」
「……くだらねえ」
「そうか?」
桐生が拳を握り直す。
「俺は結構気に入ってんだけどな」
相馬も構えた。
「だったら、そいつらの前で負けるわけにはいかねえな!」
「当たり前だろ!」
二人が同時に踏み込んだ。
相馬の拳が桐生の肩を捉える。
だが桐生は止まらない。
踏み込んだ勢いのまま、相馬の腹へ拳を打ち込む。
相馬が苦しげに息を吐いた。
桐生はさらに一歩前へ出る。
「まだ立てるよな?」
相馬が顔を上げる。
「……舐めんなよ」
桐生の口元に笑みが浮かんだ。
「そうこなくちゃな」
二人の戦いは、まだ決着していなかった。
第27話 完




