第2話「放課後の呼び出し」
放課後。
天馬は校門を出て、駅とは反対方向へ歩いていた。
「腹減った……」
昼休みの騒ぎで昼食をまともに食べていない。
コンビニへ向かう途中、ポケットのスマートフォンが震えた。
知らない番号からメッセージが届いている。
《東公園。来い》
天馬は画面を見つめた。
「……チッめんどくせぇ、誰だよ」
返信はしなかった。
そのまま歩き続ける。
数分後。
天馬は交差点を曲がった。
すると、前方に昼休みに殴り合った男が立っていた。
その周りには、男子が四人。
「来たな」
「お前らかよ」
天馬は立ち止まった。
男が一歩前へ出る。
「昼間は先生が来たから終わったけどよ」
「うん」
「今度は邪魔する奴はいねぇ」
「別に喧嘩したいわけじゃねぇんだけど」
「俺はしたいんだよ」
男が拳を握る。
「名前は?」
「……黒田」
「俺は秋山」
「知ってる」
黒田が笑った。
「今日は逃げんなよ」
「逃げる気はねぇよ」
天馬が鞄を地面へ置く。
その瞬間だった。
「秋山!」
道路の向こうから声がした。
振り返る。
そこに椿が立っていた。
天馬は目を細める。
「……誰?」
椿は少し驚いたように天馬を見る。
「お前、俺のこと知らないのか?」
「知らない」
「同じ学年なんだけどな」
「そうなの?」
椿が苦笑する。
「竜胆椿」
「秋山天馬」
「それは知ってる」
「じゃあ話が早いな」
黒田が割り込んだ。
「おい、そこのお前」
椿を見る。
「帰れ」
「嫌だ」
即答だった。
「何?」
「お前には関係ない」
「そうだな」
椿は黒田たちを見た。
「でも、五対一はさすがに格好悪いだろ」
黒田の顔が険しくなる。
「だったらお前も混ざるか?」
「必要なら」
天馬が椿を見る。
「お前、喧嘩できんの?」
「多少は」
「そうか」
天馬は前を向いた。
「じゃあ、後ろ頼むわ」
椿が一瞬だけ目を見開いた。
「……初対面なのに?」
「今から仲間になるわけじゃねぇよ」
天馬は拳を握った。
「ただ、背中殴られるの嫌だから」
「なるほど」
椿も一歩前へ出た。
「じゃあ、俺もそうする」
黒田が舌打ちした。
「二人まとめてやれ!」
四人が一斉に動いた。
天馬へ二人。
椿へ二人。
天馬は最初に飛び込んできた拳をかわした。
「おらっ!」
二人目の拳が迫る。
腕で受ける。
「くっ……!」
そのまま相手の腕を掴み、引き寄せる。
膝を腹へ叩き込む。
「ぐっ!」
男が身体を折る。
もう一人が横から突っ込んできた。
天馬は振り向いた。
間に合わない。
拳が頬を捉えた。
「っ……!」
身体がよろめく。
「秋山!」
椿が叫んだ。
その直後、椿の相手が殴りかかる。
椿は身体を半歩だけ引いた。
拳が目の前を通り過ぎる。
「遅い」
椿の拳が相手の腹へ入る。
男が呻く。
さらに椿は肩を掴み、勢いを利用して地面へ倒した。
「ぐあっ!」
天馬がその様子を見る。
「……やるじゃん」
「そっちもな」
「なら、こいつら早く終わらせようぜ」
天馬が再び走る。
二人の男が同時に襲いかかってくる。
一人の拳をかわす。
もう一人の腕を掴む。
「邪魔だ!」
そのまま二人をぶつける。
「ぐっ!」
二人が倒れた。
残った黒田が天馬を睨む。
「……調子乗んなよ」
「まだやるのか?」
「当然だ!」
黒田が突っ込む。
天馬も迎え撃つ。
拳と拳がぶつかった。
「っ!」
天馬の拳が弾かれる。
黒田の二発目が飛んでくる。
天馬は顔を逸らす。
拳が頬をかすめる。
「昼間より速くなってねぇか?」
「お前が遅いだけだ!」
黒田が連続して拳を放つ。
天馬は下がる。
一歩。
二歩。
三歩。
追い込まれる。
「終わりだ!」
黒田が大きく拳を振りかぶった。
その瞬間。
天馬の目つきが変わった。
拳の軌道が見えた。
身体が自然に動く。
天馬は拳をかわし、黒田の懐へ入った。
「なっ――」
腹へ拳。
黒田の身体が浮く。
「がっ……!」
そのまま地面へ倒れた。
静かになった。
天馬は自分の拳を見る。
「……今の、なんだ?」
椿も天馬を見ていた。
「今の動き……」
「何?」
「いや」
椿は言葉を止めた。
「なんでもない」
天馬は首を傾げる。
「変な奴だな、お前」
「それ、さっきも誰かに言われてなかったか?」
「知らねぇよ」
二人は顔を見合わせる。
そして、初めて少しだけ笑った。
「竜胆」
「ん?」
「今日は助かった」
「こっちも」
「じゃあな」
「また学校で」
天馬が鞄を持ち上げる。
椿も歩き出す。
まだ二人は知らない。
今日の出会いが、これから続いていく長い関係の始まりになることを。
第2話 完




