第11話「尾張の男」
翌日の昼休み。
天馬は夢斗、海斗と教室で昼飯を食べていた。
「昨日の奴ら、何だったんだろうな」
夢斗がパンを頬張りながら言う。
「知らねえ」
「お前、最近そればっかだな」
海斗が笑う。
「でも、昨日の連中は今までと少し違った」
「何が?」
「鳴海を止めた奴。あいつの周りにも何人かいた」
天馬も覚えていた。
鳴海拓真を一言で止めた男。
明らかに、ただの野次馬ではなかった。
その時、教室の入口から声が飛んできた。
「秋山っている?」
三人が振り向く。
「俺だけど」
「三年が呼んでる。校門」
「また?」
夢斗が呆れた顔をした。
三人で校門へ向かう。
そこには背の高い男が一人で立っていた。
天馬たちに気づくと、ゆっくり近づいてくる。
「秋山天馬?」
「そうですけど」
「桐生拓真。三年だ」
桐生は天馬をじっと見る。
「最近、お前の名前をよく聞く」
天馬がため息をつく。
「またそれですか」
「また?」
「ここ数日、それで来る奴ばっかりなんで」
桐生が笑った。
「そりゃそうだろ。急に名前が広がった二年がいるんだからな」
「先輩も喧嘩しに来たんですか?」
「いや」
桐生は首を振った。
「どんな奴か見たかっただけだ」
海斗が聞く。
「昨日、鳴海拓真って奴も来ました」
「鳴海?」
桐生の表情が少し変わった。
「知ってるんですか?」
「名前はな」
桐生が校門の外を見る。
「秋山」
「はい」
「お前が思ってるより、尾張には喧嘩の強い奴ら沢山がいるぞ」
「……尾張?」
「学校一つ二つの話じゃないってことだ」
その時だった。
「桐生!」
校門の外から声が響いた。
別の制服を着た五人の男が歩いてくる。
桐生が振り返る。
「学校まで来るなって言っただろ」
「昨日の続きだ」
男たちが桐生を囲み始める。
夢斗が天馬を見る。
「俺たち、関係ないよな?」
「ないな」
「じゃあ帰る?」
天馬は五人に囲まれた桐生を見る。
「……五対一か」
海斗が笑った。
「その顔、帰る気ないだろ」
天馬が前へ出る。
「先輩」
「何だ?」
「手伝います」
「いらねえよ」
「五対一は嫌いなんで」
夢斗も隣へ並ぶ。
「俺も」
海斗も続いた。
桐生は三人を見る。
「……勝手にしろ」
男たちが一斉に動いた。
「行くぞ!」
拳が飛ぶ。
天馬はそれをかわし、相手の腹へ拳を叩き込む。
夢斗と海斗もそれぞれ別の相手とぶつかった。
その横では、桐生が二人を相手にしている。
「おらっ!」
拳をかわす。
腕を掴む。
そのまま相手を地面へ投げた。
天馬が一瞬だけ桐生を見る。
「強っ……」
「よそ見すんな!」
正面から拳が飛んでくる。
天馬の身体が反応した。
一歩横へ。
拳をかわす。
懐へ入る。
腹へ一発。
相手が崩れた。
「……まただ」
考えるより先に身体が動いていた。
桐生がその姿を見ていた。
数分後。
五人は怪我したところを抑えながら引き上げていった。
「先輩、強いですね」
天馬が言う。
「お前もな」
桐生が天馬を見る。
「格闘技でもやってんのか?」
「何もやってないです」
「……そうか」
桐生は少しだけ笑った。
「秋山。また会おうぜ」
「はい」
桐生が去っていく。
夢斗が天馬の肩を叩いた。
「また変なのと知り合ったな」
「お前に言われたくない」
「何でだよ!」
海斗が笑う。
天馬は遠ざかっていく桐生の背中を見た。
尾張。
その言葉が、妙に頭に残っていた。
第11話 完




