第10話「最初の衝突」
夕暮れの公園。
天馬、夢斗、海斗、そして椿。
四人はベンチの近くに集まっていた。
「それで、話って?」
天馬が椿を見る。
椿は少し黙ってから口を開いた。
「秋山、お前のことだ」
天馬が眉を寄せる。
「俺?」
「最近、お前の名前が広がりすぎてる」
海斗が腕を組む。
「昨日の一件だけじゃないってことか」
「そういうことだ」
椿は続ける。
「別の学校にも、お前の名前を聞いた奴がいる」
夢斗の表情が変わる。
「ダルいなぁそれ…」
「まだ大きな動きじゃない。ただ……」
椿が天馬を見る。
「これから喧嘩を売ってくる奴は増えると思う」
天馬は少し考えた。
「だったら、逃げる理由もないな」
「そう言うと思った」
椿は苦笑した。
「でも、一人で突っ込むな」
「分かってる」
海斗が笑う。
「それ、俺たちもいるからな」
夢斗も頷いた。
「三人じゃねえぞ」
椿を見る。
「四人だろ」
椿は一瞬だけ目を丸くした。
「……俺も入ってるのか?」
「おう!」
海斗が笑う。
天馬も笑った。
「この前の喧嘩一緒にしたろ?」
「この前だけだろ」
「細かいことはいいじゃん」
夢斗が笑いながら割って入る。
椿は少し困った顔をしながらも、否定しなかった。
その時だった。
公園の入口から声が飛んできた。
「秋山天馬ってのは、そいつか?」
四人が同時に振り返る。
入口に三人の男が立っていた。
制服は、この近辺では見ないものだった。
中央にいる男が一歩前へ出る。
「誰だ、お前ら」
天馬が尋ねる。
男は鼻で笑った。
「俺は鳴海拓真」
隣の二人を指す。
「こいつが柴崎蓮。そっちが川島修司」
三人とも、天馬から目を離さない。
「お前の名前、最近聞くようになった」
鳴海が首を鳴らした。
「どんな奴かと思ったら、普通だな」
「よく言われる」
天馬が答える。
「ふざけてんのか?」
「別に」
鳴海の表情が険しくなる。
「なら、確かめさせてもらう」
夢斗が前へ出ようとした。
だが、海斗が腕を掴む。
「待て」
「何で?」
「まずは見ようぜ」
椿も天馬を見る。
「どうする?」
天馬は鳴海を見た。
「一人でいい」
鳴海が笑う。
「上等だ」
二人が公園の中央へ歩いていく。
「天馬!」
夢斗が声をかける。
「大丈夫」
天馬は拳を握った。
鳴海も構える。
「行くぞ!」
先に動いたのは鳴海だった。
一気に距離を詰め、右拳を振り抜く。
天馬は身体を横へずらした。
拳が頬の横を通過する。
「速いな」
天馬が呟く。
「余裕ぶっこいてんじゃねえ!」
鳴海が続けて左を放つ。
天馬は腕で受けた。
衝撃が響く。
「……重い」
次の瞬間。
天馬の身体が前へ出た。
拳が鳴海の腹へ入る。
「ぐっ!」
鳴海が後ろへ下がる。
夢斗が声を上げる。
「入った!」
だが、鳴海は倒れなかった。
腹を押さえながら顔を上げる。
「……なるほど」
口元を拭う。
「噂になるだけはあるな」
天馬は構え直す。
「まだ終わってないだろ」
「ああ!」
鳴海が再び突っ込む。
二人の拳がぶつかった。
その瞬間。
公園の外から、別の声が響く。
「拓真!」
鳴海の動きが止まった。
四人が入口を見る。
そこには、さらに数人の男が立っていた。
その中の一人が、ゆっくりと前へ出る。
「ここでやる話じゃない」
鳴海が振り返る。
「でも、こいつが――」
「分かってる」
男は天馬を見る。
「秋山天馬だな」
天馬は黙って見返した。
男はそれ以上近づかなかった。
「今日は帰る」
鳴海が不満そうにする。
「おい!」
「拓真」
低い声。
「帰るぞ」
鳴海は舌打ちした。
「……分かったよ」
三人が歩き出す。
その後ろを、男たちも続いていく。
夢斗が呟いた。
「何だったんだ、今の」
海斗は入口を見たまま答える。
「分からない」
椿も男たちの背中を追っていた。
「でも、ただの喧嘩じゃない」
天馬は黙っていた。
拳を見る。
さっきも、身体が勝手に動いた。
鳴海の拳を避けた瞬間。
次にどこへ動けばいいのか。
頭で考えるより先に分かっていた。
「……まただ」
椿が聞く。
「何が?」
「いや」
天馬は拳を握り直した。
「何でもない」
四人は公園を出る。
夕暮れは、もう夜へ変わり始めていた。
そしてその頃。
公園から離れた路地。
鳴海たちの前を歩いていた男が足を止めた。
「秋山天馬」
その名前を口にする。
「思ったより早いな」
鳴海が振り返る。
「何が?」
男は答えなかった。
ただ、来た道を一度だけ振り返った。
「次は、俺たちの番だ」
第10話 完




